人材紹介は、求人と求職者を結びつけ、就職が成立したときに手数料を得る事業です。在庫も設備も持たない一方、成果が出るまで収入が立たないという構造を持ちます。本稿では、厚生労働省が毎年公表している職業紹介事業報告書の集計結果をもとに業界の現在地を確認し、事業承継の観点でどこが論点になるのかを整理します。

統計でみる現在地|1件あたりの手数料は約103万円

厚生労働省「令和6年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」(令和8年3月31日公表)によると、民営職業紹介事業所における常用就職件数は約92万件で、対前年度比4.8%の増加でした。うち有料職業紹介事業によるものが888,993件(同5.3%増)、無料職業紹介事業によるものが31,242件(同7.4%減)です。

収入面では、手数料収入が約9,835億円で対前年度比17.6%の増加。うち常用就職に係る手数料が約9,136億円(同16.8%増)でした。そして、常用就職1件あたりの手数料は約103万円で、対前年度比10.9%の増加となっています。

この数字の並びには、業界の構造がよく表れています。就職件数の伸びが4.8%であるのに対し、手数料収入の伸びは17.6%、1件あたりの手数料は10.9%増。つまり、件数以上に単価が伸びているということです。

単価が上がっている背景としては、紹介される職種や年収帯の変化、そして企業側が採用に支払う費用の水準そのものが上がっていることが考えられます。ただし、この点について要因を特定する公表資料は限られるため、断定は避けます。

なお、新規求職申込件数は約5,545万件(対前年度比42.8%増)、求人数(常用求人)は約1,789万人(同38.0%増)と、いずれも大幅な増加を示しています。ただし同集計は、求人者・求職者が複数の職業紹介事業者を利用する場合があるため重複計上があると注記しており、実人数を示すものではありません。

求人倍率の動きと、業界への影響

人材紹介業の需要は、労働市場の需給に強く左右されます。厚生労働省「一般職業紹介状況」によると、令和8年7月の有効求人倍率(季節調整値)は1.18倍で前月と同水準、新規求人倍率(季節調整値)は2.10倍で前月比0.06ポイントの低下、正社員有効求人倍率(季節調整値)は1.00倍で前月と同水準でした。

都道府県別にみると、就業地別の有効求人倍率(季節調整値)は福井県と山梨県の1.69倍が最高、大阪府の0.95倍が最低となっています。地域によって労働市場の逼迫度合いには大きな差があるということです。

年度でみると、令和7年度の有効求人倍率は年度平均1.20倍で、前年度の1.25倍から0.05ポイント低下しました。歴史的に高い水準が続いているとはいえ、直近ではやや落ち着く方向の動きです。

求人倍率が高い局面では、企業は採用に費用をかけてでも人を確保しようとするため、人材紹介の単価は上がりやすくなります。一方、倍率が下がる局面では、企業の採用予算が絞られ、紹介手数料の交渉も厳しくなります。人材紹介業は、労働市場の波をそのまま受ける事業だということです。

手数料構造と、返金規定という論点

有料職業紹介事業の手数料は、届出制手数料と上限制手数料という二つの枠組みのもとで設定されます。実務上は、届出制手数料により、理論年収に一定の料率を乗じる形で算定するのが一般的です。

この構造で必ず論点になるのが、早期退職時の返金規定です。紹介した人材が短期間で退職した場合に手数料の一部または全部を返金するという取決めは、多くの人材紹介会社が採用しています。この返金の可能性は、会計上の負債としてどう扱われるか、また、実際にどの程度の返金が発生しているかという形で、事業の実力を測る材料になります。

事業を引き継ぐ側は、売上高だけでなく、返金控除後の実質的な収益を見ます。決定件数が多くても、早期退職による返金が頻発しているのであれば、マッチングの質に課題があるという評価につながりかねません。

また、職業安定法は、求職者から手数料を徴収することを原則として禁止しています(一部の職種に例外があります)。求職者に費用を負担させる仕組みを取り入れていないか、取り入れている場合にそれが法令の範囲内かは、確認の対象になります。

手数料の種類・上限・届出の要否、求職者からの手数料徴収の可否は、職業安定法および厚生労働省の通達によります。個別の取扱いについては必ず所管の労働局および専門家にご確認ください。

事業所数からみる競争環境

厚生労働省の同じ集計結果によると、令和6年度に就職実績のあった事業所は、有料職業紹介事業所が13,946事業所、無料職業紹介事業所が579事業所、特別の法人無料職業紹介事業所が605事業所、特定地方公共団体無料職業紹介事業所が278事業所でした。

有料職業紹介事業所だけで13,946事業所が就職実績を上げている一方、常用就職件数は888,993件です。単純に割ると1事業所あたり年間64件程度という計算になりますが、実際には少数の大手が多くの件数を占め、大半の事業所は年間数件から数十件という分布であると考えられます。

この分布は、業界の再編が起こりやすい構造を示しています。少人数のコンサルタントで運営されている紹介会社は、データベースやシステムへの投資、採用広告費の負担という点で規模の不利を負います。一方、特定の業界・職種に強い紹介会社は、規模の大きな事業者にとって取り込む価値のある存在です。

事業承継の観点で何が論点になるか

帝国データバンクの2025年の調査では、国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。人材紹介業は、創業者自身がトップコンサルタントであるケースが多く、その方の人脈と経験が売上の大半を生んでいる会社も珍しくありません。この属人性が、承継の最大の論点になります。

承継を検討される際に整理しておきたいのは、次のような点です。

  • 有料職業紹介事業の許可の有効期間と、更新の時期
  • 職業紹介責任者の選任状況
  • 決定件数・売上高の推移と、コンサルタント別の内訳
  • 返金規定の内容と、直近の返金発生率
  • 登録求職者の数と、その個人情報の取得・利用に関する同意の範囲
  • 取引先企業の構成と、上位企業への依存度
  • コンサルタントの人数、勤続年数、担当領域
  • 求人管理システム・データベースの権利関係

とりわけ登録求職者の個人情報は、承継の実務で慎重な扱いを要します。個人情報の第三者提供や、事業承継に伴う取扱いについては、個人情報保護法の枠組みに沿った整理が必要です。この点は個人情報のデューデリジェンスの記事でも触れています。

また、コンサルタントが辞めれば売上も消えるという事業であるため、引き継ぐ側は「誰が残るのか」を最も重視します。承継後の処遇や役割をどう設計するかが、交渉の実質的な中心になることも少なくありません。詳しくは人材紹介会社のM&Aの記事をご覧ください。

まとめ|コンサルタントが在籍しているうちに

人材紹介業界の現在地を統計で確認すると、令和6年度の常用就職件数は約92万件(前年度比4.8%増)、手数料収入は約9,835億円(同17.6%増)、常用就職1件あたりの手数料は約103万円(同10.9%増)でした。件数より単価が伸びるという構造にあります。

一方、有効求人倍率は令和7年度平均で1.20倍と前年度から低下しており、労働市場の逼迫はやや和らぐ方向にあります。市場が動くたびに業績が振れる事業であるからこそ、事業の基盤——特定領域での強さと、コンサルタントの層——を明確に説明できることが重要になります。

コンサルタントが在籍し、取引先との関係が続いているうちであれば、事業を引き継ぐ価値は明確です。当社プラチナパートナーズは、成功報酬型のもと、人材サービス事業を含む中小企業の事業承継・会社売却をご支援しています。

本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。

よくあるご質問

A.返金控除後の実質的な収益です。紹介した人材が短期間で退職した場合に手数料の一部または全部を返金するという取決めは、多くの人材紹介会社が採用しています。決定件数が多くても、早期退職による返金が頻発しているのであれば、マッチングの質に課題があるという評価につながりかねません。返金規定の内容と直近の返金発生率を、決定件数・売上高の推移およびコンサルタント別の内訳とあわせて示せるようにしてください。
A.最大の論点になります。創業者自身がトップコンサルタントで、その方の人脈と経験が売上の大半を生んでいる会社は珍しくありません。コンサルタントが辞めれば売上も消える事業ですので、引き継ぐ側は「誰が残るのか」を最も重視し、承継後の処遇や役割をどう設計するかが交渉の実質的な中心になることも少なくありません。コンサルタント別の売上内訳、勤続年数、担当領域を整理し、ご自身の関与をどの期間まで続けられるかも含めてご検討ください。
A.一概には言えません。厚生労働省「令和6年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」では、常用就職件数は約92万件(前年度比4.8%増)、手数料収入は約9,835億円(同17.6%増)、常用就職1件あたりの手数料は約103万円(同10.9%増)で、件数より単価が伸びています。一方「一般職業紹介状況」では、令和7年度の有効求人倍率は年度平均1.20倍で、前年度の1.25倍から0.05ポイント低下しました。市場の波をそのまま受ける事業だからこそ、特定領域での強さとコンサルタントの層を説明できることが重要になります。
A.慎重な扱いを要します。登録求職者の個人情報については、第三者提供や事業承継に伴う取扱いを、個人情報保護法の枠組みに沿って整理する必要があります。登録求職者の数と、その個人情報の取得・利用に関する同意の範囲を確認したうえで、求人管理システム・データベースの権利関係も併せて整理してください。また、職業安定法は求職者から手数料を徴収することを原則として禁止しています(一部の職種に例外があります)ので、その点も確認の対象です。個別の取扱いは所管の労働局および専門家にご確認ください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら