宿泊施設が増えています。厚生労働省の公表統計によれば、旅館業の施設数は令和6年度末で98,338施設、前年度比5.2%増。5年間では9,179施設増えました。
ただし伸びは均等ではありません。最も伸びているのは簡易宿所営業で、5年間で18.6%増。旅館・ホテル営業の4.4%増を大きく上回ります。本稿ではこの差を確認し、小規模な宿泊施設の承継で何が見られるのかを整理します。
本稿の数値は厚生労働省「令和6(2024)年度衛生行政報告例の概況」(令和7年10月21日公表・令和6年度末現在)によります。制度・税務・法務の取り扱いはご状況により異なりますので、実際のご判断にあたっては顧問の専門家にもご確認ください。
簡易宿所は5年で7,054施設増えた
厚生労働省「令和6(2024)年度衛生行政報告例の概況」(令和7年10月21日公表・令和6年度末現在)によれば、旅館業の施設数の推移は次のとおりです。
| 年度末 | 旅館業 計 | 旅館・ホテル営業 | 簡易宿所営業 | 下宿営業 |
|---|---|---|---|---|
| 令和2年度 | 89,159 | 50,703 | 37,847 | 609 |
| 令和3年度 | 89,715 | 50,523 | 38,593 | 599 |
| 令和4年度 | 90,705 | 50,321 | 39,811 | 573 |
| 令和5年度 | 93,475 | 51,038 | 41,909 | 528 |
| 令和6年度 | 98,338 | 52,946 | 44,901 | 491 |
| 5年間の増減 | +9,179(+10.3%) | +2,243(+4.4%) | +7,054(+18.6%) | △118(△19.4%) |
出典:厚生労働省「令和6(2024)年度衛生行政報告例の概況」(令和7年10月21日公表・令和6年度末現在)より作成
5年間の増加9,179施設のうち、7,054施設(77%)が簡易宿所です。令和6年度だけでも2,992施設(7.1%)増えました。
一方、下宿営業は609から491へと19.4%減っています。同じ旅館業法のなかで、最も伸びている区分と最も減っている区分が同居しています。
「簡易宿所」とは何を指すか
簡易宿所営業は旅館業法上の区分のひとつで、宿泊する場所を多数人で共用する構造・設備を主とする営業です。ゲストハウス、カプセルホテル、ドミトリー、山小屋、そして一棟貸しの宿の多くがここに入ります。
旅館・ホテル営業と比べて客室の要件が緩やかで、小規模でも許可を取りやすいのが特徴です。これが5年で18.6%という伸びの背景にあります。
ここで注意が要ります。いわゆる「民泊」には2つの制度があります。住宅宿泊事業法に基づく届出(年間180日の上限あり)と、旅館業法の簡易宿所営業の許可(日数上限なし)です。本稿の統計は後者、つまり旅館業法の許可を得た施設の数です。同じ「民泊」という言葉で語られていても、制度が違えば引き継ぎの手順も変わります。
小規模ゆえの構造
簡易宿所は、1施設あたりの規模が小さい分野です。この点が事業の性質を決めています。
- 1施設の売上が小さい。単独では譲渡の対象になりにくく、複数施設をまとめて扱う形が出てきます
- 参入しやすく、退出もしやすい。大型の設備投資を要しないため、施設数は景気と需要に敏感に反応します
- 運営の属人性が高い。オーナーが自ら接客している施設では、オーナーが抜けたあとに同じ評価が保てるかが問われます
- 建物が賃借であることが多い。譲渡の際に賃貸人の承諾が要るかどうかが論点になります
増えている分野は、同じ地域に競合が積み上がっている分野でもあります。5年で18.6%増というのは、開業が続いているということであり、稼働率と単価が以前と同じである保証はありません。
そしてもう一点、下宿営業の減少が示すものがあります。609施設から491施設へ、5年間で19.4%減。下宿は月単位で人を泊める営業で、学生向けの下宿や寮がここに入ります。同じ旅館業法のなかで、短期・多頻度の簡易宿所が増え、長期滞在の下宿が減っている。宿泊の需要そのものが、長く住む形から短く泊まる形へ移っていることが読み取れます。
この移り方は、譲り受ける側の見方にも影響します。短期・多頻度の事業は、稼働率と単価が月ごとに動くため、年間の平均だけでは実態が見えません。月別の推移を出せるかどうかが、説明の質を決めます。
承継のときに見られる点
評価の目は次のようなところに向きます。
- 許可の種類。旅館業法の簡易宿所営業か、住宅宿泊事業法の届出か。日数上限の有無で収益力がまったく違います
- 建物の権利。所有か賃借か。賃借なら契約期間と、譲渡に賃貸人の承諾が要るか
- 稼働率と単価の推移。直近3年の月別データがあるか
- 予約経路の構成。特定の予約サイトに偏っていないか。手数料率はいくらか
- オーナーの関与度。運営を外注しているか、自ら回しているか。後者なら、引き継ぎ後の体制をどう作るかが条件に影響します
- 消防設備と用途。建築基準法・消防法上の適合状況
この分野は「増えている」ことが必ずしも追い風を意味しません。施設数の伸びは、需要の伸びであると同時に競合の増加でもあります。自社の稼働率がその中でどう推移してきたかが、説明の中心になります。
宿泊分野全体の動きは「ホテル・旅館業界の動向」に、実務は「ホテル・旅館のM&A」に整理しています。