観光・レジャー施設は、感染症の影響を最も強く受け、そして最も明確に回復した分野です。ただし、その回復は一様ではありません。集客が戻る一方で、施設の老朽化と人手の不足という課題が残されています。数字から整理します。
数字で見る観光・レジャー施設業界の現在地
日本政府観光局(JNTO)の推計値によると、2025年の訪日外国人旅行者数は4,268万3,600人となり、初めて4,000万人を突破しました。過去最高だった2024年(3,687万148人)を15.8%上回り、過去最高を更新しています。
消費額についても、観光庁のインバウンド消費動向調査の速報値で、2025年の訪日外国人旅行消費額は9兆4,559億円とされています。
この規模は、観光・レジャー施設にとって大きな追い風です。宿泊施設はもちろん、テーマパーク、温浴施設、体験型施設、土産物店に至るまで、訪日客の増加は幅広く影響します。
ただし、注意しておきたいのは、この恩恵が地域と施設によって大きく異なることです。主要な観光地とそれ以外、外国語対応ができる施設とそうでない施設とで、回復の度合いには差があります。全国の数字がそのまま自社の状況を表すわけではない、という前提で読む必要があります。
受け皿はどう変わったか|施設数から読む
受け入れ側の変化は、厚生労働省「令和6年度衛生行政報告例の概況」から読み取ることができます。令和6年度末現在の生活衛生関係施設数は次のとおりです。
| 施設 | 施設数 | 前年度比 |
|---|---|---|
| 旅館業(計) | 98,338 | 4,863施設増(5.2%増) |
| 旅館・ホテル営業 | 52,946 | 1,908施設増(3.7%増) |
| 簡易宿所営業 | 44,901 | 2,992施設増(7.1%増) |
| 下宿営業 | 491 | 37施設減(7.0%減) |
| 常設の興行場 | 4,826 | 3施設増(0.1%増) |
| 映画館 | 1,468 | 14施設減(0.9%減) |
| スポーツ施設 | 387 | 8施設増(2.1%増) |
| 公衆浴場(計) | 23,668 | 5施設減(0.0%減) |
| 一般公衆浴場 | 2,730 | 117施設減(4.1%減) |
| その他の公衆浴場 | 20,938 | 112施設増(0.5%増) |
この表からいくつかのことが読み取れます。宿泊施設は増加しており、なかでも簡易宿所営業が7.1%増と伸びが大きいこと。いわゆる銭湯にあたる一般公衆浴場は4.1%減と減少が続く一方、スーパー銭湯などを含む「その他の公衆浴場」は微増していること。映画館は減少しています。
需要が戻っているなかでも、業態によって明暗が分かれているということです。
経営環境の変化|集客は戻っても設備は古い
観光・レジャー施設に共通する課題が、設備の更新です。多くの施設は、数十年前に建設され、その後の改修を重ねながら運営されてきました。感染症の影響で収益が落ち込んだ時期に投資を見送った施設も多く、老朽化が一気に表面化しています。
具体的には、次のような投資が同時に必要になります。
- 建物・設備の大規模修繕(屋根、外壁、給排水、空調)
- 省エネルギー対応(空調・照明の更新、ボイラーの更新)
- 客室・浴場・遊具などの更新とリニューアル
- 予約システム、決済、多言語対応といったデジタル投資
- バリアフリー対応
資材価格と工事費が上昇するなかで、これらを同時に進めるには相応の資金が要ります。集客が戻り、営業利益が改善しても、その利益が過去の借入返済と当面の修繕に消えてしまう——という状況は珍しくありません。
人手をめぐる課題と、季節変動という宿命
もうひとつの課題が人手です。宿泊・飲食・レジャーの現場は、感染症の影響下で人材が他業種へ流出し、その多くが戻っていないと言われます。稼働率を上げたくても、対応できる人員がいなければ受け入れを絞るしかありません。
加えて、この業界には季節変動という宿命があります。繁忙期に人手を確保し、閑散期には固定費を抑える——この調整が難しく、通年雇用と繁忙期の増員をどう組み合わせるかが経営の腕の見せどころになります。
また、観光地では宿泊施設・飲食店・交通事業者が同じ人材を奪い合う構造があり、賃金の上昇が続いています。処遇の改善は必要である一方、それを価格に転嫁できるかどうかは、施設の立地とブランドに左右されます。
事業承継の観点|不動産・許認可・人材
帝国データバンクの2025年調査によると、国内企業の後継者不在率は50.1%です。観光・レジャー施設は家族経営で始まった例が多く、代表者の高齢化と、大規模修繕という重い投資判断が同時に到来しているケースが目立ちます。
承継やM&Aを検討する際に整理しておきたい論点は次のとおりです。
- 不動産——土地・建物の所有形態、担保の設定、簿価と時価の差。事業と不動産を一体で譲渡するのか、切り分けるのかという設計が、この業種では特に重要になります。
- 修繕の履歴と計画——過去の大規模修繕の時期と内容、今後必要となる修繕の見積り。買い手はここを慎重に見ます。隠さず示すほうが、結果的に交渉は進みます。
- 許認可——旅館業、飲食店営業、公衆浴場、興行場、温泉の利用許可など、施設の内容に応じた許可の一覧と有効期限。株式譲渡であれば法人が存続するため一般に維持されますが、事業譲渡では新たな許可取得が前提となるのが通常です。
- 稼働と単価——月別の稼働率・入場者数と単価の推移。季節変動を含めて示せると、買い手が事業計画を立てやすくなります。
- 人材——正社員とパート・アルバイトの構成、繁忙期の人員確保の方法、外国人材の受入状況。
- 予約・販売チャネル——直販と仲介の比率、送客の依存度。
不動産の比重が大きい会社の譲渡設計については「不動産を保有する会社の売却」を、宿泊施設に固有の論点は「ホテル・旅館のM&A」もご参照ください。
まとめ|集客が戻っているいまこそ
訪日外国人旅行者数は2025年に4,268万人と過去最高を更新し、宿泊施設の数も増えています。観光・レジャーへの需要は、確かに戻ってきました。問題は、その需要を受け止める施設と人が、十分に整っているかどうかです。
M&Aの場面では、業績が回復している局面のほうが評価されやすいのが一般的です。集客が戻り、稼働が上向いているいまは、事業の価値を説明しやすい時期といえます。反対に、修繕を先送りし、稼働が落ち始めてからでは、投資負担が価格から差し引かれることになります。
当社プラチナパートナーズは、成功報酬型のもと、観光・レジャー施設を含む中小企業の事業承継・会社売却をご支援しています。不動産・許認可・人材の整理から、守秘義務を徹底のうえ対応いたします。
本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。