建築用の金属製品、鉄骨、サッシ、金物、金属容器、ばね、ボルト——金属製品製造業は、事業所数で製造業の最多を占める、裾野の広い分野です。その需要の多くは建設に紐づいており、建設現場で起きていることが、そのまま経営環境になります。本稿では、公表資料をもとに整理します。
金属製品製造業の現在地|事業所数は製造業で最多
総務省・経済産業省「2024年経済構造実態調査(製造業事業所調査)」によると、金属製品製造業の事業所数は3万368事業所で、製造業の産業中分類のなかで最も多く、構成比13.7%を占めます(2024年6月1日現在)。従業者数は60万2242人(構成比7.8%)、製造品出荷額等は17兆3985億円(2023年、前年比2.8%増)、付加価値額は6兆4610億円(同2.9%増)でした。
事業所数は前年比0.7%減、従業者数は前年比0.9%減と、いずれも減少しています。製造業全体(事業所数0.5%減、従業者数0.2%減)と比べると、減少のペースはやや速いといえます。
この分野の特徴は、1事業所あたりの規模が小さいことです。事業所数は製造業で最多ですが、製造品出荷額等の構成比は4.7%にとどまります。小規模な事業者が地域の建設需要や製造業の裾野を支えている、という構図が数字に表れています。
需要の土台|建設投資は増加、しかし工事量は伸び悩む
需要側の指標として、建設投資の動向を見てみます。
国土交通省「令和7年度(2025年度)建設投資見通し」(2025年8月公表)によれば、2025年度の建設投資は75兆5700億円で前年度比3.2%増と見通されています。内訳は、政府投資が25兆2100億円(前年度比0.7%増)、民間投資が50兆3600億円(同4.5%増)で、民間投資が全体の伸びを牽引する形です。
また、国土交通省「建築着工統計調査報告」によれば、2024年度の新設住宅着工戸数は81万6018戸で前年度比2.0%増となり、3年ぶりに増加しました。
金額ベースの投資額は増えています。しかし、これがそのまま製品の出荷量に結びつくとは限りません。建設コストの上昇によって、同じ金額でも実際の工事量が減っている可能性があるからです。
工期の長期化が意味すること
この点を裏づけるのが、資材の需要動向です。
一般社団法人セメント協会の「セメントハンドブック2026年度版」によれば、2025年度のセメント国内需要は3053万2000トンで前年比93.5%となり、7年連続のマイナスとなりました。同資料は、その要因として「近年の慢性的な人手不足に加え、時間外労働の上限規制や夏場の熱中症対策による作業時間の短縮により工期が長期化し出荷数量は減少」「週休2日制導入の拡大により土曜日の出荷が大幅に減った」ことを挙げています。官需についても「労務費などの上昇が続き、実工事量が減少したことから前年比マイナスとなった」としています。
建設業では、2024年4月から時間外労働の上限規制が適用されています。これにより、現場の稼働時間が減り、工期が延びる傾向が続いています。
金属製品メーカーにとって、この変化は「受注はあるが、納入が先に延びる」という形で現れます。売上の計上時期がずれ、資金繰りの読みが難しくなる。在庫と仕掛品が滞留する。こうした影響は、決算書の数字だけを見ていても分かりにくいものです。
人手不足という構造的な制約
人手不足は、需要側だけでなく供給側にも及んでいます。
前掲の経済構造実態調査では、金属製品製造業の従業者数は60万2242人で前年比0.9%減となりました。溶接、曲げ、組立、そして現場での取付け——いずれも経験が必要な工程であり、採用も育成も容易ではありません。
加えて、コストの転嫁も十分ではありません。中小企業庁「価格交渉促進月間(2025年9月)フォローアップ調査結果」(2025年11月28日公表)によれば、コスト全般の価格転嫁率は53.5%、労務費の転嫁率は50.0%でした。同調査では、労務費の転嫁率が初めて50%に到達したとされていますが、逆にいえば人件費の上昇分の半分は自社が吸収しているということです。
2026年1月1日から施行された「中小受託取引適正化法」(旧下請法)では、協議に応じない一方的な代金決定が禁止されました(公正取引委員会・中小企業庁)。また、公正取引委員会等が策定した労務費の転嫁に関する指針の周知も進められています。
事業承継の観点|受注と人員のどちらが先に細るか
帝国データバンクの2025年調査によれば、国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。金属製品製造業の承継で問われるのは、「受注と人員のどちらが先に細るか」という現実的な問題です。
受注があっても人が足りなければ、断らざるを得ません。断り続ければ、取引先は他社に移ります。逆に、人を確保できても受注がなければ、固定費が重くのしかかります。この二つのバランスが崩れ始めたとき、選択肢は急速に狭まります。
ご相談をいただく背景として多いのは、次のようなものです。
- 受注はあるが、対応できる人員が減り、売上を伸ばせない
- 元請から品質管理や安全管理の体制強化を求められ、単独では対応が難しい
- 設備の更新と人材の採用を同時に行う資金余力がない
- 個人保証を次の世代に引き継がせたくない
M&Aによって同業やグループの一員となることで、採用力や受注の幅が広がる場合があります。ただし、どのような効果が得られるかは相手と条件によって異なりますので、一般化はできません。
M&Aで引き継ぐときに整理しておきたいこと
買い手が確認する主な項目です。
| 領域 | 整理しておきたいこと |
|---|---|
| 受注 | 受注先別の売上構成と依存度、受注残と納期の状況、断った案件の有無と理由。 |
| 人員 | 職種別の人員構成と年齢、有資格者(溶接、玉掛け、高所作業等)の在籍状況。 |
| 設備 | 加工機・溶接設備・クレーンの設置年と更新見込み、法定点検の実施状況。 |
| 許認可 | 建設業許可(施工を伴う場合)の業種と有効期限、経営事項審査の状況。 |
| 在庫・仕掛 | 仕掛品の評価方法、長期滞留品、工期のずれによる資金繰りへの影響。 |
| 安全 | 労災の履歴、安全衛生管理体制、元請からの安全指導の記録。 |
この分野では、有資格者の在籍状況が受注可能な範囲を決めることがあります。誰がどの資格を持っているか、更新時期はいつかを一覧にしておくと、事業の実力を正確に伝えられます。
金属加工の技術的な論点は「金属加工・板金業のM&A」、金物・建築金物の分野は「金物・建築金物業のM&A」で解説しています。
当社プラチナパートナーズは、金属製品関連企業の事業承継をご支援しています。相談料・着手金・月額報酬は0円です。
本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。統計は調査時点・集計範囲により数値の定義が異なるため、個別の判断にあたっては原典および専門家へのご確認をお願いいたします。