歯科医院は「コンビニより多い」と言われ続けてきました。しかし、公表されている統計を丁寧に読むと、状況はすでに変わりつつあります。歯科診療所の数も歯科医師の数も、直近では減少に転じているのです。本稿では、厚生労働省が公表している数値をもとに歯科医院業界の現在地を確認し、それが事業承継の場面でどのような論点につながるのかを整理します。

歯科診療所と歯科医師|ともに減少に転じた

厚生労働省「令和6(2024)年医療施設(動態)調査」によれば、令和6年10月1日現在の歯科診療所は66,378施設で、前年に比べ440施設(0.7%)減少しました。うち無床の歯科診療所は66,358施設で、こちらも440施設(0.7%)の減少です。同じ調査で一般診療所が313施設増加していることと対照的な動きです。

歯科医師の数も減少しています。厚生労働省「令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計」(令和7年12月23日公表)によると、令和6年12月31日現在の届出歯科医師数は103,652人で、前回(令和4年)に比べ1,615人(1.5%)減少しました。同じ統計で医師は1.3%増、薬剤師は1.7%増となっているなかで、歯科医師だけが減少しているという構図です。

なお、女性歯科医師は28,197人(前回比784人・2.9%増)で、全体の27.2%を占めます。若い年齢層ほど女性比率が高く、29歳以下では48.8%に達しています。

「歯科医院が過剰である」という前提で語られてきた業界像は、統計上はすでに転換点を過ぎています。ただし、これは競争が緩んだことを意味しません。減少しているのは主に、開設者が高齢になり後継者が見つからないまま閉院した診療所であると考えられ、地域によっては歯科医療の提供体制そのものが薄くなるという別の課題が生じます。

年齢構成|歯科診療所の平均年齢は55.2歳

同じ「令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計」によると、診療所に従事する歯科医師は88,703人で、平均年齢は55.2歳です。年齢階級別では「60〜69歳」が21,997人(24.8%)と最も多く、「70歳以上」も13,834人(15.6%)を占めます。60歳以上が4割を超えている計算になります。

病院(医育機関附属の病院を除く)に従事する歯科医師の平均年齢は46.5歳、医育機関附属の病院では36.8歳ですから、診療所とはやはり大きな開きがあります。そして注目すべきは、診療所に従事する歯科医師の平均年齢が長期的に上昇し続けている点です。同統計の年次推移をみると、平成初期には46歳台であった平均年齢が、令和6年には55.2歳に達しています。

「29歳以下」が2,617人(3.0%)、「30〜39歳」が12,387人(14.0%)にとどまっているという分布も見逃せません。新しく歯科診療所に入ってくる歯科医師の層が薄いということは、承継の相手方となる若手が限られるということでもあります。

この年齢構成は、承継のタイミングを考えるうえで示唆的です。周囲の歯科医院も同じように高齢化しているのであれば、閉院が集中する局面では、承継先を探す競争が起きる可能性があります。

歯科衛生士・歯科技工士|支える人材の需給

歯科医院の経営は、歯科医師だけで成り立つものではありません。厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)」によると、令和6年末現在の就業歯科衛生士は149,579人で、前回(令和4年)に比べ4,396人(3.0%)増加しました。就業場所別では「診療所」が90.6%(135,499人)と圧倒的多数を占めています。

一方、就業歯科技工士は31,733人で、前回に比べ1,209人(3.7%)減少しました。年齢階級別の構成割合では「65歳以上」が19.3%(6,127人)と最も多くなっています。歯科技工の担い手が減り、かつ高齢化しているという状況は、補綴物の供給という形で歯科医院の日常業務に直結します。

歯科衛生士は増えているとはいえ、有効求人倍率の高さから採用が難しいという実感を持たれている経営者は多いはずです。統計上の増加と、個々の医院での採用のしやすさは別の話であり、地域差も大きいと考えられます。

承継の場面では、この人材が引き継げるかどうかが価値を大きく左右します。長く勤めている歯科衛生士がいる医院は、患者との関係も含めて引き継ぐ側にとって魅力的です。歯科技工所との取引関係についても、歯科技工所のM&Aの記事で触れているとおり、供給体制の維持という観点から確認されることがあります。

令和8年度診療報酬改定と歯科の方向性

令和8年度診療報酬改定は2026年6月に施行されました。改定率は診療報酬本体がプラス3.09%(令和8年度・令和9年度の2年度平均)、薬価等がマイナス0.87%です(厚生労働大臣記者会見・令和7年12月24日)。

厚生労働省保険局医療課「令和8年度診療報酬改定の概要【歯科】」(令和8年3月5日版)に示された基本方針では、歯科に関する具体的方向性として「口腔疾患の重症化予防等の生活の質に配慮した歯科医療の推進、口腔機能発達不全及び口腔機能低下への対応の充実、歯科治療のデジタル化の推進」が挙げられています。あわせて、かかりつけ歯科医機能の評価も方向性として明記されました。

重点課題として掲げられた「物価や賃金、人手不足等の医療機関等を取りまく環境の変化への対応」は歯科にも共通します。人件費と材料費・光熱水費の上昇が経営を圧迫するなかで、賃上げと業務効率化の両立が求められている構図です。

「歯科治療のデジタル化の推進」という方向性は、口腔内スキャナーやCAD/CAMといった機器への投資判断に関わります。設備投資は、承継を控えた経営者にとって判断が難しいテーマです。回収期間が承継のタイミングを超える投資は踏み切りにくく、一方で投資を止めれば競争力が落ちるという緊張があります。

診療報酬の算定要件・施設基準の詳細は厚生労働省の告示・通知によります。個別の適用については所管の地方厚生局および専門家にご確認ください。

事業承継の観点で何が論点になるか

帝国データバンクの2025年の調査では、国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。歯科医院の場合、開設者の資格に依存する事業であるため、承継先は原則として歯科医師に限られます。母集団が限られるうえに、前述のとおり若手歯科医師の層が薄いという事情が重なります。

承継を検討される際に整理しておきたいのは、次のような点です。

  • 患者数・リコール率の推移と、診療圏の人口動態
  • 保険診療と自費診療の売上構成、自費の内容
  • ユニット(チェア)の台数と稼働状況、設備の導入時期
  • 歯科衛生士・歯科助手・受付の人数と勤続年数
  • 建物の所有形態と賃貸借契約の残存期間
  • 歯科技工所・材料商社との取引関係

承継先を親族・従業員・第三者のいずれに求めるかという選択肢の比較は後継者不在の解決策としてのM&Aの記事で整理しています。とくに設備は、承継の交渉で必ず論点になります。ユニットやレントゲン、滅菌設備の更新時期が近い場合、引き継ぐ側はその投資額を織り込んで条件を考えます。逆に、直近で更新を終えている医院は、その点を明確に説明できることが交渉上の材料になります。

また、歯科医院は院長個人の技術と人柄に患者がついているケースが多く、承継直後に患者が離れるリスクを引き継ぐ側は警戒します。一定期間、前院長が診療を継続する形での引き継ぎが選択されることもあります。この点は個別の事情によって大きく異なり、一律の正解はありません。

まとめ|チェアが埋まっているうちに

歯科医院業界の現在地を統計で確認すると、歯科診療所は66,378施設で前年から440施設減少し、歯科医師も103,652人で前回から1.5%減少しました。診療所に従事する歯科医師の平均年齢は55.2歳で、60歳以上が4割を超えています。「過剰」から「担い手の減少」へと、業界の課題は移りつつあります。

承継という観点では、これは追い風にも向かい風にもなりえます。地域で歯科医療を担い続けたい若手や、複数医院の展開を考えている法人にとって、既存医院を引き継ぐ選択肢の価値は上がっています。一方で、閉院が集中する局面では、条件のよい医院に相手が集まりやすくなります。

チェアが埋まり、スタッフが定着しているうちであれば、引き継ぐ価値は明確です。当社プラチナパートナーズは、成功報酬型のもと、歯科医院を含む中小規模の事業承継をご支援しています。まずは現状の整理からご相談ください。

本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。

よくあるご質問

A.母集団は限られますが、既存医院を引き継ぐ選択肢の価値は上がっています。厚生労働省「令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計」によると、診療所に従事する歯科医師88,703人の平均年齢は55.2歳で、60歳以上が4割を超える一方、29歳以下は2,617人(3.0%)、30〜39歳は12,387人(14.0%)にとどまります。歯科診療所も66,378施設で前年から440施設(0.7%)減少しました。地域で歯科医療を担いたい若手や複数医院の展開を考える法人にとって、患者と設備がある医院は新規開業よりリスクが小さい選択肢です。ただし閉院が集中する局面では、条件のよい医院に相手が集まりやすくなります。
A.判断の難しいテーマですが、材料は揃えられます。設備は承継の交渉で必ず論点になり、更新時期が近い場合、引き継ぐ側はその投資額を織り込んで条件を考えます。逆に、直近で更新を終えている医院は、その点を明確に説明できることが交渉上の材料になります。回収期間が承継のタイミングを超える投資は踏み切りにくく、一方で投資を止めれば競争力が落ちるという緊張があります。令和8年度診療報酬改定(2026年6月施行)の歯科の方向性には「歯科治療のデジタル化の推進」が挙げられており、機器への投資判断はこの方向とも関わります。ユニットの台数と稼働状況、設備の導入時期を一覧にしたうえで比べてください。
A.引き継ぐ側が最も警戒する点です。歯科医院は院長個人の技術と人柄に患者がついているケースが多く、承継直後に患者が離れるリスクを買い手は警戒します。対応として、一定期間、前院長が診療を継続する形での引き継ぎが選択されることもあります。この点は個別の事情によって大きく異なり、一律の正解はありません。示すべき材料は、患者数・リコール率の推移と診療圏の人口動態、保険診療と自費診療の売上構成です。リコールの仕組みが定着していれば、患者は院長個人だけでなく医院の運営についているという説明ができます。
A.評価されます。厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)」によると、令和6年末現在の就業歯科衛生士は149,579人で前回比3.0%増ですが、統計上の増加と個々の医院での採用のしやすさは別の話で、地域差も大きいと考えられます。長く勤めている歯科衛生士がいる医院は、患者との関係も含めて引き継ぐ側にとって魅力的です。なお就業歯科技工士は31,733人で前回比3.7%減、65歳以上が19.3%を占めており、補綴物の供給という形で日常業務に直結します。スタッフの人数と勤続年数に加え、歯科技工所・材料商社との取引関係も整理しておいてください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら