倉庫業は、物流の中でも「止めておく」機能を担う事業です。運ぶ機能と違って動きが見えにくく、統計にも表れにくい業種ですが、事業者数は物流の各分野のなかでトラック輸送業に次いで多く、中小企業が圧倒的多数を占めます。本稿では、公表されている資料から倉庫業界の現在地を整理します。
倉庫業の現在地|6,582事業者、98.9%が中小企業
一般社団法人日本倉庫協会が国土交通省の検討会に提出した資料「営業倉庫の現状と課題について」(令和6年12月10日)によれば、令和3年度の倉庫業の姿は次のとおりです(出典として「数字で見る物流2023」が示されています)。
| 区分 | 営業収入 | 事業者数 | 従業員数 | 中小企業の割合 |
|---|---|---|---|---|
| 倉庫業 | 2兆6,000億円 | 6,582 | 13万2千人 | 98.9% |
| トラック輸送業 | 18兆3,473億円 | 63,251 | 201万人 | 99.9% |
| 内航海運業 | 7,613億円 | 3,309 | 6万7千人 | 99.7% |
| 港湾運送業 | 9,911億円 | 854 | 5万1千人 | 89.0% |
出典:日本倉庫協会「営業倉庫の現状と課題について」(令和6年12月10日)より作成
営業収入では物流分野のなかで3位、事業者数では2位です。中小企業の割合が98.9%という点は、事業承継を考えるうえで重要な前提になります。
立地の面では、同資料によれば、大手事業者は歴史的に貿易・海運と結びついて臨港地区を中心に展開してきた一方、地方の倉庫は米穀などの保管需要や地域産業の物流拠点として発展し、近年は大都市近郊に配送センター機能を強化した倉庫が増えているとされています。輸入貨物の99%は海上輸送で運ばれ、そのうち52.5%が営業倉庫を経由して国内に流通しているとも記されています。
また、災害対応の面でも役割を担っており、全国1,816の拠点が災害時の「民間物資拠点」として機能し(令和6年3月現在)、47都道府県が地区倉庫協会と災害協定を締結しているとされています。
制度の枠組み|登録制度と施設設備基準
倉庫業は倉庫業法に基づく登録制です。同法では「倉庫業を営もうとする者は、国土交通大臣の行う登録を受けなければならない」とされ、登録を受けるには施設・設備の基準を満たすとともに、倉庫管理主任者を選任することが義務づけられています。
倉庫の種類は普通倉庫業・冷蔵倉庫業・水面倉庫業に大別され、普通倉庫はさらに1類から3類倉庫、野積倉庫、貯蔵槽倉庫、危険品倉庫、トランクルームに分かれます。1類倉庫の施設設備基準としては、外壁・床の強度(床には3,900N/平方メートル以上の耐力)、防水・防湿・遮熱・耐火性能、災害防止措置、防火区画、防犯措置、防鼠措置などが定められています。
この基準の存在が、参入障壁であると同時に、既存事業者の価値の裏づけにもなっています。日本倉庫協会の同資料でも、営業倉庫と類似の保管サービス(不動産賃貸契約と業務委託契約を組み合わせたもの)が提供されている「業際問題」への対応が課題として挙げられており、登録を受けた営業倉庫であることの意味が問い直されています。
登録の要否や施設設備基準の適用は、倉庫の類型や保管する貨物によって異なります。個別の判断にあたっては、所管の地方運輸局および専門家にご確認ください。
収益の構造|保管料は上がらず、建設費は上がる
倉庫業の収益構造については、日本倉庫協会の同資料が端的な指摘をしています。普通倉庫の保管料指数と建設物価指数を並べたグラフを示したうえで、「保管料は上がっていないが、建築費は高騰している」と記されています。
倉庫は装置産業です。新設には多額の投資が必要で、投資回収は減価償却期間を基準に判断されるものの、実態としてはより長いスパンでの活用が主流とされています。建設費が上がるなかで保管料が動かなければ、新規投資の採算は厳しくなります。同資料では、倉庫建設の判断基準として、荷主からの要請、立地の良さ、雇用の見込み、公的機関からの支援、建設コスト、投資回収の見込みを総合的に判断するとされています。
課題として挙げられているのが円滑な価格転嫁です。電気代の高騰や労務費の転嫁など、コスト上昇に対応した転嫁を目指すものの「道半ば」とされ、トラックの標準的な運賃制度のような仕組みが倉庫料金にはないことが指摘されています。
GX(グリーントランスフォーメーション)への対応も、設備投資の負担として挙げられています。太陽光パネル、蓄電池、EV充電設備、CO2の可視化といった取組は社会的要請である一方、大きな投資を伴います。
人材と2024年問題|5年後の人員不足率は15.9%
人材面では、具体的な数字が示されています。日本倉庫協会の同資料に引用された株式会社NX総合研究所「倉庫事業における労働力実態に関するアンケート調査」(対象:日本倉庫協会会員事業者988/3,484事業者)によれば、現在の主観的な人員不足率は職種計で7.5%、概ね向こう5年以内の離職予想人数を加味した人員不足率は15.9%とされています。
職種別では、現在の不足率が現場作業員7.8%、フォークマン8.8%、管理職7.8%、事務職5.6%。5年以内を加味すると現場作業員17.3%、フォークマン17.7%、管理職14.7%、事務職12.6%に拡大するとされています。フォークリフト作業者の不足が最も深刻になる見通しです。
あわせて、いわゆる物流の2024年問題への対応も課題です。2024年4月からトラック運転者の時間外労働に上限が適用され、荷待ち・荷役時間の短縮が求められるようになりました。同資料では、トラック予約受付システムの導入、自動化・機械化による入出庫作業の効率化、オーダーカットの前倒しや貨物情報の事前提供といった荷主側の協力の必要性が挙げられています。これらの対策には経費を伴うため、その費用負担についても荷主の理解が必要だとされています。
制度面でも動きが続いています。2025年4月に改正物流効率化法が施行され、2026年4月からは一定規模以上の荷主等に物流統括管理者(CLO)の選任が義務づけられる予定です。
事業承継の観点で何が論点になるか
倉庫会社の承継では、次の点が焦点になります。
第一に、登録と施設です。株式譲渡であれば法人が存続するため登録は一般に維持されますが、倉庫管理主任者の選任や届出事項の変更手続が必要になります。事業譲渡の場合は、譲受側が自ら登録を受けていることが前提です。
第二に、不動産の所有形態です。倉庫は自社所有か賃借かで、事業の価値の見え方がまったく変わります。自社所有の場合は土地建物の評価が、賃借の場合は契約の残存期間と条件が、それぞれ論点になります。
第三に、荷主構成です。特定の荷主への依存度が高い場合、その契約が承継後も続くかどうかが最大の関心事になります。日本倉庫協会の資料では、大手事業者の例として1事業所当たりの荷主企業数40.2社、1社平均取扱い面積552平方メートルという数字が示されています。荷主が分散していることは、それ自体がリスク耐性になります。
そして後継者です。帝国データバンクの2025年調査では国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。設備更新の負担が重い業種では、投資判断ができる体制を持つ相手に引き継ぐことが、事業の継続につながる場合があります。
M&Aで引き継ぐときに整理しておきたいこと
一般に、次のような情報が確認されます。
- 倉庫業の登録状況、倉庫ごとの類型(1〜3類、危険品、冷蔵など)と登録面積・容積
- 倉庫管理主任者の選任状況と、有資格者の在籍状況
- 土地建物の所有形態(自社所有/賃借)、賃借の場合の契約条件と残存期間
- 建物の築年数、修繕履歴、消防設備・防犯設備の更新状況
- 荷主ごとの売上構成、契約期間、保管残高の推移、料金改定の履歴
- 保管以外の収益(荷役、流通加工、輸配送、通関)の内訳
- フォークリフト等の保有台数と、有資格オペレーターの人数・年齢構成
- 自動化設備・倉庫管理システムの導入状況と、投資の残存年数
倉庫は、拠点そのものが価値を持つ事業です。登録と施設と荷主、この三つが揃っている状態で引き継げるかどうかが分かれ目になります。より実務的な論点は「倉庫業・物流施設のM&A|許認可と取引先契約の引き継ぎ」でも整理しています。
当社は成功報酬型のもと、倉庫業を含む中小企業の事業承継・会社売却をご支援しています。守秘義務を徹底のうえ、初期の整理から対応いたします。
建材や住宅設備の物流については「住宅設備・建材流通業界の動向|価格転嫁と物流の制約」でも触れています。費用の考え方は料金体系のページに公開しています。
本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。