葬祭業は、需要が人口動態にほぼ完全に規定される、珍しい業種です。景気にも流行にも左右されにくい一方、その需要の増加が必ずしも収益の増加につながらないという難しさを抱えています。まずは、需要を規定する数字から確認します。

数字で見る葬祭業界の現在地

厚生労働省「令和6年(2024)人口動態統計(確定数)の概況」(令和7年9月16日公表)によると、令和6年の死亡数は1,605,378人で、前年の1,570,016人より29,362人増加し、調査開始以来最多となりました。死亡率(人口千対)は13.3で、前年の13.0より上昇しています。

あわせて、出生数は686,173人で明治32年の調査開始以来最少、合計特殊出生率は1.15で過去最低となりました。出生数と死亡数の差である自然増減数は△919,205人で、過去最大の減少です。実数・率ともに18年連続で減少しています。

死因別では、第1位が悪性新生物(死亡数384,111人、死亡総数に占める割合23.9%)、第2位が心疾患(14.1%)、第3位が老衰(12.9%)です。老衰が上位に入っていることは、高齢での死亡が増えていることを示しています。

葬祭業から見れば、これらの数字は「対象となる件数は確実に増え続けている」ということを意味します。人口動態は短期間で反転するものではなく、この傾向は当面続くと見るのが自然です。

需要は増えるのに、単価は上がらないという構造

件数が増えているにもかかわらず、葬祭業の経営が楽になったという話をあまり聞かないのはなぜか。理由は葬儀の形式の変化にあると、業界では広く指摘されています。

参列者を広く招く従来型の葬儀に代わり、家族と近親者のみで行う小規模な形式や、通夜・告別式を行わない形式を選ぶ方が増えている——これは、多くの事業者が実感として語る変化です。ただし、その比率について信頼できる全国的な公表統計は限られますので、本稿では具体的な数値の断定は避けます。

形式が小規模になれば、1件あたりの施行金額は下がります。同時に、返礼品や飲食といった付帯収益も縮小します。件数が増えても売上が伸びない、あるいは件数の増加以上に人件費と施設維持費が重くのしかかる——これが多くの葬祭事業者が直面している構造です。

また、高齢で亡くなる方が増えることは、参列者となる同世代の方も高齢化しているということを意味します。参列規模が小さくなる背景には、この人口構造の変化もあります。

制度の枠組み|許認可はどこにかかるのか

葬祭業を理解するうえで押さえておきたいのが、許認可の所在です。葬儀の施行そのものについては、法律上の許可制度が設けられていません。一方で、火葬場や墓地の経営については「墓地、埋葬等に関する法律」に基づく許可が必要とされています。

この違いは、M&Aの場面で重要になります。葬儀の施行を主とする事業者であれば、事業そのものに許可承継の論点は生じにくい一方、火葬場や墓地・納骨堂を保有している場合は、その扱いが交渉の中心的な論点になります。

また、遺体の搬送を自社で行う場合は、貨物自動車運送事業の許可(いわゆる霊柩運送)が関わります。国土交通省の集計では、貨物自動車運送事業者のうち霊柩に区分される事業者は4,799者です(令和7年3月31日現在)。搬送を自社で行っているか外部に委託しているかは、事業の構造を左右します。

そのほか、飲食の提供を行う場合の食品衛生に関する許可、互助会形式で前受金を預かる場合の割賦販売法に基づく規制など、事業の内容によって関わる制度は異なります。

許認可の要否と承継の可否は、事業の内容・地域・スキームによって異なります。実行にあたっては、必ず所管の官公庁および専門家にご確認ください。

経営環境の変化|施設・人材・前受金

葬祭業の経営で重い論点は、次の三つに集約されます。

  • 施設——斎場・式場を自社で保有している場合、その稼働率が収益を大きく左右します。小規模葬が増えれば、大きな式場は使われにくくなり、投資の回収計画が変わります。逆に、小規模葬に適した式場を持つ事業者は稼働を確保しやすくなります。
  • 人材——葬祭ディレクターをはじめ、経験を積んだスタッフの確保が課題です。24時間の対応が求められる業態であり、労務管理と処遇の設計が採用力に直結します。
  • 前受金——互助会形式で会費を前受している場合、その残高は将来の役務提供義務であり、実質的な負債です。会計上の処理と、承継時の取扱いは慎重な確認が必要になります。

加えて、地域における関係——寺院、病院・介護施設、自治体、返礼品業者などとのつながりは、この業界の受注の入口です。これらの関係が経営者個人に紐づいているのか、法人に紐づいているのかは、承継を考えるうえで最初に整理すべき点です。

事業承継の観点|施設・互助会・人材

帝国データバンクの2025年調査によると、国内企業の後継者不在率は50.1%です。葬祭業は地域に根ざした家業として営まれてきた例が多く、代表者の高齢化とともに承継が課題となっています。

承継やM&Aを検討する際に整理しておきたい論点は次のとおりです。

  • 施設の権利関係——斎場・式場・安置施設が自社所有か賃借か、担保の設定状況、建物の築年数と修繕の履歴。不動産の比重が大きい事業では、事業と不動産をどう切り分けるかが設計の中心になります。
  • 互助会・前受金——会員数、前受金残高、解約に関する取扱い、関係法令への対応状況。買い手が最も慎重に確認する項目のひとつです。
  • 施行件数の実績——直近数年の件数と単価の推移、形式別の内訳。件数だけでなく、1件あたりの粗利の推移を示せることが交渉の材料になります。
  • 紹介ルート——病院・介護施設・寺院・自治体など、受注の入口ごとの件数構成。特定のルートへの依存度も見られます。
  • 人材——葬祭ディレクター等の有資格者、勤続年数、24時間体制のシフト設計。
  • 車両——霊柩車・寝台車の保有状況と車齢、運送事業の許可の有無。

不動産の比重が大きい会社の譲渡設計については「不動産を保有する会社の売却」を、葬儀社に固有の評価の論点は「葬儀社のM&A」もあわせてご覧ください。

まとめ|地域の信頼が残っているうちに

死亡数は令和6年に160万人を超え、調査開始以来最多を記録しました。葬祭の需要そのものは、確実に増え続けています。しかし、その需要を収益に結びつけられるかどうかは、施設の設計、人材の確保、そして地域における信頼の維持にかかっています。

葬祭業の価値は、決算書に表れない部分——地域での評判、紹介してくれる関係先、経験を積んだスタッフ——に多く宿ります。そのどれもが、事業を縮小し始めると急速に失われるものです。施行が続き、スタッフが在籍しているうちであれば、事業を引き継ぐ相手を探す余地があります。

当社プラチナパートナーズは、成功報酬型のもと、葬祭業を含む中小企業の事業承継・会社売却をご支援しています。施設・前受金・人材の整理から、守秘義務を徹底のうえ対応いたします。

本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。

よくあるご質問

A.件数と単価を分けて示してください。厚生労働省「令和6年(2024)人口動態統計(確定数)の概況」(令和7年9月16日公表)によると令和6年の死亡数は1,605,378人で調査開始以来最多となり、対象となる件数が増え続けていることは確かです。一方、参列者を広く招く従来型に代わって小規模な形式を選ぶ方が増えているという変化は、多くの事業者が実感として語るところです。ただし比率について信頼できる全国統計は限られるため、断定はできません。直近数年の件数と単価の推移、形式別の内訳、そして1件あたりの粗利の推移を示せることが、交渉の材料になります。
A.買い手が最も慎重に確認する項目のひとつです。互助会形式で会費を前受している場合、その残高は将来の役務提供義務であり、実質的な負債です。会計上の処理と承継時の取扱いは慎重な確認が必要になります。整理しておくべきは、会員数、前受金残高、解約に関する取扱い、関係法令への対応状況です。互助会形式で前受金を預かる場合には割賦販売法に基づく規制が関わるため、対応状況を書面で示せるようにしておいてください。会計処理や法令適用の具体的な判断は、税理士・弁護士にご確認ください。
A.誰に紐づいているかを最初に整理してください。寺院、病院・介護施設、自治体、返礼品業者などとのつながりは、この業界の受注の入口です。これらの関係が経営者個人に紐づいているのか法人に紐づいているのかは、承継を考えるうえで最初に整理すべき点になります。準備としては、受注の入口ごとの件数構成を作り、特定のルートへの依存度も含めて示すことです。関係が個人に強く紐づいている場合は、一定期間ご本人が関与しながら引き合わせていく設計が取られることもあります。葬祭業の価値は決算書に表れない部分に多く宿るため、この整理が説明の中心になります。
A.何を保有しているかによって論点が変わります。葬儀の施行そのものについては法律上の許可制度が設けられていない一方、火葬場や墓地の経営については「墓地、埋葬等に関する法律」に基づく許可が必要とされています。したがって、施行を主とする事業者であれば許可承継の論点は生じにくく、火葬場や墓地・納骨堂を保有している場合はその扱いが交渉の中心になります。また遺体の搬送を自社で行う場合は貨物自動車運送事業の許可(いわゆる霊柩運送)が関わり、国土交通省の集計では霊柩に区分される事業者は4,799者です(令和7年3月31日現在)。要否と承継の可否は所管の官公庁および専門家にご確認ください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら