焼肉・ステーキの店は、排気設備という重い投資と、肉の仕入という原価の論点を同時に抱えます。他の飲食業態より初期投資が大きいぶん、立地と設備が資産として評価されやすい業態でもあります。本稿では、設備・仕入・許可の三つの軸で整理します。
相談のきっかけ
この業種の相談は、原価と設備の両方から出てきます。
- 肉の仕入価格が上がった — 価格転嫁が追いつかず、原価率が悪化している
- 設備の更新時期 — ロースター・排気ダクト・空調の入れ替えに大きな資金が必要になった
- 多店舗の管理 — 店舗が増え、仕入と品質の管理が追いつかない
- 後継者がいない — 帝国データバンクの2025年調査では、日本企業の後継者不在率は50.1%です
レコフデータによれば2025年のM&A件数は5,000件超で2年連続の過去最多です。第三者への承継は、以前より一般的な選択肢になっています。
排気設備は、資産でもあり負担でもある
焼肉店の設備投資は、他の飲食業態より重くなります。
買い手から見れば、すでに排気の設備が入っている物件は、同じ業態をすぐ始められるという価値があります。ロースターの種類(無煙・ガス・炭)と設置年、ダクトの経路と清掃の履歴が確認されます。
一方で、更新の時期が近い場合は譲渡後に必要な投資として見積られます。ダクトの清掃を長年していない場合、火災のリスクとしても見られます。清掃の記録が残っていることは、管理の体制の証拠になります。
肉の仕入と原価の説明
原価率の説明が、この業種では特に重要です。
- 仕入先と取引の形 — 卸か、産地からの直接仕入か。相場の変動をどう吸収しているか
- 部位の使い方 — 1頭買い・ブロック仕入をしている場合、歩留まりの管理が利益を左右します
- 在庫の管理 — 冷凍・冷蔵の在庫がどれだけあるか。棚卸しの記録が残っているか
- 銘柄の表示 — 産地や銘柄を掲げている場合、その根拠(仕入の伝票)が残っているか
銘柄や産地の表示は、根拠の資料が残っていることが前提です。表示と仕入の実態が合っているかは、調査で確認される項目です。
※ 税務・法務の取り扱いは個別の事情で結論が変わります。実行の前に、顧問税理士・弁護士にご確認ください。
許可の確認|飲食店営業に加えて必要なもの
店内で提供するだけなら飲食店営業の許可ですが、業態によって追加の確認が入ります。
- 食肉の販売 — 持ち帰りや通販で生肉を売っている場合、食肉販売業の許可が必要です
- 自家製の加工 — ハム・ソーセージなどを作って売る場合は、食肉製品製造業の許可の論点になります
- 生食の提供 — ユッケなど生食用の食肉を扱う場合、施設と取扱いの基準があります
株式譲渡であれば許可は法人に残りますが、事業譲渡では買い手が取り直すことになります。業態に応じて必要な許可が複数あるため、店舗ごとに何を持っているかの一覧を作っておきます。手続きは保健所と専門家にご確認ください。
従業員と多店舗の体制
焼肉店は仕込みと接客の両方で人手が必要です。
開示の段階で答えられるようにしておきたいのは、店長の体制が変わるか、仕入の決定権がどうなるか、シフトと賃金が変わるかの三点です。多店舗の場合、各店の店長が実質の経営を担っていることが多く、その人たちの残留が事業の継続に直結します。
労務の面では、勤怠の記録、深夜の割増、休憩の取り扱いが確認されます。未払いの残業代が潜んでいると、価格の調整材料になります。
価格の議論で見られる数字
設備と原価の両方がある業態として、次の点が議論の対象になります。
- 店舗別の月次損益 — 売上、原価率、人件費、賃料
- 原価率の推移 — 仕入の相場が上がった局面でどう動いたか
- 設備の更新見込み — 譲渡後1〜2年で必要になる投資
- 賃貸借の残存期間と原状回復 — ダクトの撤去を含む範囲
当社の報酬は移動総資産レーマン方式(基準額=株式価値+負債総額)で、最低報酬は2,000万円(税別)です。基本合意の時点で成功報酬額の10%を中間金としてお支払いいただき、成功報酬から全額差し引きます。基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません。
売り手が先に整えられること
準備として効果が大きいのは次の三つです。
第一に、原価率の月次推移です。仕入の相場が動いた局面で、原価率をどう抑えたかが説明できると、利益の再現性が伝わります。
第二に、設備の台帳と清掃の記録です。ロースター・ダクト・空調の設置年と、ダクト清掃の実施記録。清掃の記録は、火災のリスクの説明に直接使えます。
第三に、許可の一覧です。店舗ごとに、飲食店営業のほかにどの許可を持っているか。持ち帰りや通販をしている場合は、その根拠になる許可を明示しておきます。
進め方の順番
検討の初期は、社名を出さずに進めることができます。
- 秘密保持契約を結び、匿名の概要で相手の関心を見る
- トップ面談で、相手の目的と譲渡後の運営方針を確かめる
- 意向表明・基本合意で、価格と引き継ぎの枠組みを決める
- デューデリジェンス(買い手の調査)を受け、最終契約・クロージング
この業種では、設備の状態と更新の見込みが価格の議論の中心になります。先に台帳を整えておくほど、話が具体的に進みます。