福井県は、眼鏡づくりに代表される精密な手仕事、繊維や機械・金属加工、そして越前和紙や漆器といった伝統工芸まで、地場産業が層をなして根付いてきた地域です。ひとつの技術を何十年もかけて磨き上げ、家族と地域の従業員でつないできた会社が数多くあります。しかし、その担い手の高齢化と後継者不在という課題は福井県も例外ではなく、「技術を絶やしたくないが、継ぐ人がいない」というお悩みを抱える経営者様は少なくありません。本稿では、福井の中小企業を取り巻く承継環境を整理したうえで、県外の買い手が地場産業の会社をどう評価するのか、会社売却をどのような手順で進めればよいのか、相談先選びの勘所まで、順を追ってご説明します。
福井の地場産業と、事業承継が抱える課題
福井県には、一般に、眼鏡フレームの製造とその周辺の表面処理・部品加工、合成繊維をはじめとする繊維関連産業、機械・金属加工、そして和紙・漆器・打刃物などの伝統工芸に連なる事業者が集積しているとされています。いずれも、少数の完成品メーカーだけで成り立っているのではなく、工程ごとに専門特化した小さな会社が連なって一つの産地を形づくってきたことが特徴です。北陸新幹線の延伸によって首都圏との往来がしやすくなったことも、近年の環境変化のひとつといえるでしょう。
その一方で、経営者の高齢化は全国共通の課題です。帝国データバンクの2025年調査によれば、全国の後継者不在率は50.1%と、およそ2社に1社で後継者が決まっていません。福井県の中小企業においても、親族に承継の意思がない、社内に株式を引き受けられる人材がいないというケースは決して珍しくありません。
産地型の産業構造には、承継という観点で固有の難しさもあります。工程を担う一社が廃業すると、その工程を代わりに担える会社が地域内に見つからず、産地全体の供給網に穴があいてしまうことがあるためです。「自社をたたむ」という判断が、自社だけの問題にとどまらない。この点は、福井の経営者様が承継を考えるうえで意識される部分ではないでしょうか。
こうした中で、第三者への承継、すなわちM&Aを選択肢に加える経営者様が増えています。レコフデータの集計では、2025年の日本のM&A件数は5,000件を超え、2年連続で過去最多を更新しました。M&Aは今や、廃業でも親族承継でもない「第三の承継の道」として定着しつつあります。三つの道の比較は「後継者不在の解決策としてのM&A」で整理しています。
福井の会社に関心を持つ買い手の一般的な傾向
「うちのような小さな会社に買い手がつくのか」という不安は、多くの経営者様が最初に口にされる点です。個別の統計に基づくものではありませんが、一般に、次のような要素が買い手から評価されやすいとされています。
代替の効きにくい加工技術
細かな公差が求められる加工や、手作業と設備が組み合わさった工程は、マニュアル化しにくく、新規に立ち上げるには長い時間がかかります。同業や川上・川下の企業にとって、そうした工程を持つ会社を引き継ぐことが、自社で一から育てるより現実的な選択肢になることがあります。
産地内での位置づけと取引関係
産地の中で特定の工程を担い、複数の取引先から継続的に発注を受けている会社は、事業の見通しが立てやすい相手として評価されます。逆に、取引先が一社に集中している場合はリスク要因として論点になりますが、これは事前に整理し、説明を準備しておけば対処できる事柄です。
職人・有資格者の存在
採用難が続くなか、技能を持った従業員がまとまった形で在籍していることは、M&Aの大きな動機のひとつです。人を採ることが年々難しくなっている業種ほど、この点の価値は大きくなります。長年かけて育てた組織は、財務諸表には表れにくい価値として評価され得ます。
もっとも、これらはあくまで一般的な傾向であり、実際に自社がどう評価されるかは事業内容・収益力・組織体制によって異なります。譲渡価格がどのような考え方で決まるのかは「M&Aの相場・価格の決まり方」もあわせてご覧ください。
会社売却の進め方|流れは全国共通、多くはオンラインで完結
「地方のM&Aは進め方が違うのでは」と心配される方もいらっしゃいますが、会社売却の基本的な流れは全国どこでも共通です。標準的なステップは次のとおりです。
| ステップ | 主な内容 |
|---|---|
| 1. 相談・秘密保持契約 | 仲介会社等に相談し、秘密保持契約を締結したうえで情報を開示 |
| 2. 企業評価・資料作成 | 譲渡価格の目安を算定し、企業概要書・匿名資料を作成 |
| 3. 買い手候補の探索・打診 | 社名を伏せた匿名資料で候補先に打診し、関心先と秘密保持契約 |
| 4. トップ面談・条件交渉 | 経営者同士の面談を経て、価格・雇用・引継ぎ等の条件をすり合わせ |
| 5. 基本合意・デューデリジェンス | 基本合意書を締結し、買い手による詳細調査(DD)を受ける |
| 6. 最終契約・クロージング | 最終契約を締結し、株式等の譲渡と対価の決済を実行 |
近年は、初回相談から資料のやり取り、買い手との面談調整までオンラインで進められる場面が大きく広がりました。県外の仲介会社に依頼したからといって、毎回上京する必要はありません。トップ面談や現地視察など対面が望ましい局面だけ日程を調整すれば十分です。各ステップの詳細は「M&Aの流れ」で解説しています。
準備から成約までは、一般に半年から1年以上を要するとされます。決算書の整理、株主名簿の確認、設備や不動産の権利関係の整理といった準備には時間がかかりますので、「まだ先の話」と思われる段階から着手しておくことが、結果的に選択肢を広げます。
福井ならではの論点|技術・雇用・情報管理をどう守るか
基本の流れは全国共通ですが、産地に根を張ってきた会社ならではの論点もあります。
技術と現場をどう引き継ぐか
職人的な技能や現場の判断が事業の中核にある場合、経営者ご自身やキーパーソンが一定期間残って引き継ぐ設計が有効です。引継ぎ期間の長さや役割、報酬の扱いは、最終契約に先立って合意しておくべき重要な条件です。「技術をどう扱うか」を条件として明示することは、価格の交渉と同じくらい重要だと考えています。
拠点の維持と従業員の生活圏
M&A後に拠点の統合や移転が行われると、従業員の通勤や生活に影響が及ぶことがあります。地元で採用してきた従業員の雇用と勤務地をどう維持するかは、譲渡条件の交渉で丁寧に詰めたいポイントです。現在の拠点を維持することを前提とする買い手を選ぶことも、交渉次第で十分に可能です。
産地内での情報管理
産地では、同業者・取引先・金融機関が近い距離で結びついています。「あの会社が売却を検討しているらしい」という情報だけが先行すれば、受注や採用、従業員の心情に影響が及びかねません。だからこそ、M&Aの検討は初期段階から秘密保持を徹底し、誰に・いつ・何を開示するかの順序を設計したうえで進める必要があります。詳しくは「M&Aにおける秘密保持」をご覧ください。
税務・制度の期限
株式譲渡によって個人株主が得た譲渡益には、原則として20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)の税率で課税されます。また、親族内承継で用いられる事業承継税制(特例措置)は、特例承継計画の提出期限が2027年9月30日、適用期限が2027年12月31日とされています。どの道を選ぶにせよ制度には期限がありますので、早めに顧問税理士等の専門家にご確認ください。
相談先の選び方|福井の経営者様が確認したいポイント
事業承継・M&Aの相談先には、複数の選択肢があります。それぞれ役割が異なりますので、検討の段階に応じて使い分けるとよいでしょう。
| 相談先 | 一般的な役割・特徴 |
|---|---|
| 事業承継・引継ぎ支援センター | 各都道府県に設置された公的な相談窓口。承継全般の初期相談や情報提供に対応 |
| 商工会議所・商工会 | 地域の経営相談窓口。専門家の紹介や各種支援制度の案内が受けられる |
| 金融機関 | 財務状況を把握したうえでの助言。取引行が承継支援の部署を持つ場合もある |
| 顧問税理士・会計士 | 自社の数字と歴史を最もよく知る立場。税務・株式の論点で不可欠 |
| M&A仲介会社 | 買い手候補の探索と交渉の実務を担う。第三者承継を具体化する段階の中心 |
第三者への譲渡を具体的に検討する段階では、候補先の探索力と交渉の実務力を持つ相談先が必要になります。選ぶ際は、次の点を確認するとよいでしょう。
- 手数料体系が明確か(着手金・中間金・成功報酬の内訳と支払時期、最低報酬額、算定の基準額)
- 中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版・令和6年8月)」の遵守を宣言しているか
- 秘密保持・情報管理の体制が整っているか
- 県内・北陸圏にとどまらず、首都圏を含む全国で買い手候補を探索できるか
- 担当者が自社の業種・規模の案件経験を持っているか
- 成約を急かさず、譲らない選択肢も含めて説明してくれるか
特に手数料は、同じ「成功報酬」という言葉でも、何を基準額として料率を掛けるのか、最低報酬額はいくらかが会社ごとに大きく異なります。契約前に総額の目安を書面で提示してもらい、複数の相談先を比較することをおすすめします。比較の観点は「M&Aの相談先はどこがよいか」「M&A仲介会社の選び方」でも整理しています。
東京の仲介会社に依頼するという選択肢
地場産業の会社にとって、首都圏に拠点を置く仲介会社に依頼することには、二つの意味があります。ひとつは、買い手候補の探索範囲です。事業拡大の意欲を持つ企業や投資会社は首都圏に多く集まっており、県内・産地内に限らず全国から候補先を検討できることは、条件面での選択肢を広げます。産地内での譲渡は話が早い反面、候補が限られ、噂も回りやすいという側面があります。もうひとつは、まさにその情報管理です。地域の商流から距離のある相手を初期の窓口とすることで、検討段階の情報が産地内に伝わってしまうリスクを抑えやすくなります。
当社のご支援|東京・日比谷から福井の経営者様へ
株式会社プラチナパートナーズは、東京・日比谷(有楽町)に拠点を置くM&A仲介・事業承継アドバイザリーファームです。所在地を問わず全国対応しており、オンライン面談を基本としながら、必要な局面ではご訪問しての面談も承ります。
手数料は、相談料・着手金・月額報酬0円の成功報酬型です。中間金は基本合意時に成功報酬額の10%を申し受け、成約時に成功報酬から全額を差し引きます(基本合意後に成立に至らなかった場合、中間金の返金はありません)。成功報酬は移動総資産レーマン方式(基準額=株式価値+負債総額、最低2,000万円・税別)で算定し、ご契約前に総額の目安を必ず書面でご提示します。
「まだ売却を決めたわけではない」「まずは自社にどれくらいの価値があるのかを知りたい」という段階のご相談も歓迎しています。秘密保持を徹底のうえ、福井の経営者様の状況に合わせた選択肢を一緒に整理いたしますので、どうぞお気軽に無料相談をご利用ください。