買収の予算を組むとき、株式の代金だけを見ていると足りません。調査の費用、専門家への報酬、仲介やFAへの手数料、登記の費用、そして買った後の統合にかかる費用が出ます。

さらに、検討した案件のうち、成約に至らないものがあります。調査まで進んで見送った案件の費用は、何も取得しないまま出ていきます。1件あたりの費用だけでなく、何件検討してどれだけ出るのかで予算を考える必要があります。ここでは費用の種類と発生する時点、予算の組み方を整理します。

費用が発生する時点で並べる

検討の段階ごとに、何が出るのかを並べます。

  • 案件を探す段階。仲介やFAと契約する場合、着手金や月額の報酬が発生する形があります。プラットフォームの利用料が発生する形もあります。
  • 検討の段階。資料を見て判断するだけなら、大きな費用は出ません。
  • 意向表明から基本合意。契約書のレビューを弁護士に依頼する費用が出ます。基本合意の時点で中間金が発生する形があります。
  • デューデリジェンス。ここがいちばん大きくなります。財務・税務を会計事務所に、法務を法律事務所に、労務を社会保険労務士に依頼する費用です。環境や不動産の調査が加わる業種もあります。
  • 最終契約とクロージング。契約書の作成・交渉の報酬、印紙税、株式の名義変更や登記の費用です。会社分割や合併では登録免許税がかかります。
  • 買った後。システムの統合、会計方針の統一、就業規則や給与制度の見直し、取引先への挨拶に伴う費用が出ます。

このうち、調査費用と専門家報酬は成約しなくても出ます。ここが買い手側の予算で最も読みにくい部分です。

デューデリジェンスの範囲で金額が決まる

調査の費用は、見る範囲をどこまで広げるかで変わります。全部を同じ深さで見れば確かですが、費用と時間が膨らみます。実務では、その会社で問題が出やすいところに重みを置く形を取ります。

例えば、従業員が多く残業の管理が曖昧な会社なら労務を厚く見る、在庫が大きい会社なら実地の確認を入れる、許認可が事業の前提になっている業種なら法務を厚く見る、土地を使う事業なら土壌の調査を入れる、という考え方です。

範囲を決めるには、その前の段階で論点を絞っておく必要があります。資料を見た段階で「ここが気になる」を言葉にできていれば、調査の設計ができます。逆に、漠然と全部を頼むと費用が膨らみ、しかも肝心なところが薄くなることがあります。

調査の費用は、原則として依頼した買い手が負担します。売り手が負担する形は通常ありません。売り手側が資料を整えるための費用は、売り手が負担します。

空振りの費用を予算に入れる

買収を続けて行う会社では、検討した案件の数と、成約した案件の数が一致しません。資料を見て見送るだけなら費用は小さいですが、調査まで進んで見送った案件には、調査費用と専門家報酬が残ります。

これを「無駄」と見るか「必要な費用」と見るかで、予算の立て方が変わります。調査で見つかったから見送れたのであれば、その費用は買わない判断を支えた費用です。逆に、調査を省いて買った結果、後から問題が出れば、その方が高くつきます。

予算を組むときは、1件あたりの費用ではなく、年間でいくつ検討していくら使うのかで見るほうが実態に合います。初めての買収では、1件で成約する前提を置かないほうが安全です。

会計上の扱いで、買収した期の利益が変わる

払った費用が、その期の費用として落ちるのか、取得した資産の価額に含まれるのかは、処理によって分かれます。株式を取得するために直接要した支出は株式の取得価額に含める扱いとなる場合があり、その期の費用にならないことがあります。事業を取得した場合は、のれんの金額や取得した資産の価額に影響します。

手数料の金額が大きい取引では、この振り分けで買収した期の決算の見え方が変わります。金融機関との約定に財務指標の条項が入っている場合、影響が出ることもあります。契約を結ぶ前の段階で、税理士・会計士に確認してください。詳しくは払った手数料の会計処理で整理しています。

あわせて、消費税の扱いも見ておく必要があります。株式の譲渡は消費税が課されない取引ですが、事業譲渡では譲渡される資産の内容に応じて課税関係が生じ、金額が大きくなります。資金の手当てを含めて、見積りの段階で入れてください。

資金調達の条件と、費用の出る時点を合わせる

借入で資金を手当てする場合、費用が出る時点と、融資が実行される時点がずれます。調査費用は基本合意の後、クロージングの前に出ます。融資はクロージングに合わせて実行されるのが通常なので、調査費用は自己資金で立て替えることになります。

加えて、融資の審査には調査の結果が使われます。つまり、調査をしてからでないと融資の話が固まらず、調査の費用は融資が決まる前に出ます。この順序を知らずに進めると、手元の資金が足りなくなります。

金融機関には、検討の段階で早めに相談しておくほうが扱いやすくなります。買収の資金に加えて、買った後の運転資金も必要になるためです。買った直後は、入金と支払いのサイクルが変わることがあります。手元の資金を薄くしたまま買うと、統合の初期に動けなくなります。

なお、会計・税務の扱いは制度と個別の事情で変わります。実際の処理と資金計画は、税理士・会計士・金融機関に確認してください。

よくあるご質問

A.依頼した買い手が負担するのが通常です。売り手が自社の資料を整えるための費用は、売り手が負担します。調査の費用は成約しなくても発生します。
A.見る範囲と深さで決まります。財務・税務・法務・労務のどこを厚く見るか、不動産や環境の調査を入れるかで変わります。前の段階で論点を絞っておくと、範囲の設計ができます。
A.処理によって分かれます。株式の取得に直接要した支出は株式の取得価額に含める扱いとなる場合があり、その期の費用にならないことがあります。事業を取得した場合はのれんや資産の価額に影響します。税理士に確認してください。
A.調査まで進んで見送った案件の費用は、何も取得しないまま発生します。年間でいくつ検討していくら使うのかで予算を見るほうが、実態に合います。初めての買収では、1件で成約する前提を置かないほうが安全です。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役副社長。中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら