「もう畳むつもりだった」という会社から、事業を引き受ける。株式を買うのとは、進め方が違います。何を引き受け、何を引き受けないかを設計する話になります。
なぜ廃業予定なのかを確かめる
最初に確認すべきことです。理由によって、引き受ける価値が変わります。
後継者がいない。事業そのものは回っている。最も引き受けやすい類型です。
経営者の健康上の理由。同上ですが、引き継ぎの時間が限られます。
業績の悪化。なぜ悪化したのかを見ます。市場が縮んでいるのか、経営の問題か。
借入が重い。この場合、株式を買うと債務も引き継ぎます。事業譲渡で必要な部分だけを買う形が検討されます。
株式譲渡ではなく事業譲渡を選ぶ理由
廃業予定の会社では、事業譲渡を選ぶことが多くなります。理由は3つです。
① 簿外債務を引き継がない。株式を買えば、知らない債務も付いてきます。事業譲渡なら、契約で定めたものだけを引き受けます。
② 不要な資産を引き受けない。使わない不動産、古い設備、回収できない売掛金。
③ 売り手側も整理しやすい。会社は残して清算するため、残った債務や税務の処理を売り手側で完結できます。
一方、手続きは重くなります。資産・契約・従業員を一つずつ移す必要があります。
何を買うかを一覧にする
事業譲渡では、引き受ける対象を契約書に列挙します。この一覧作りが実務の中心です。
資産。設備、車両、在庫、什器。現物を確認して、使えるものだけを選びます。
契約。取引先との契約、賃貸借、リース、保守。それぞれ相手方の同意が要ります。
従業員。本人の同意を得て、新たに雇用します。
知的財産。商標、特許、屋号、ドメイン、顧客名簿。
載せ忘れたものは移りません。「当然付いてくる」と思ったものが来ない、という事故が起こります。
従業員は自動では移らない
最も重要な実務です。事業譲渡では、雇用契約は自動的には承継されません。本人の同意が必要です。
したがって、誰に、いつ、どういう条件で声をかけるかを設計します。
提示すべきは、給与、勤務地、職務、勤続年数の扱い、有給の残日数、退職金の扱い。とくに勤続年数と退職金は、本人にとって大きい論点です。
また、廃業予定であることを従業員が知っているかも確認してください。知らされていない段階で買い手が接触すると、混乱します。公表の順序は売り手と決めてください。
許認可は取り直しになる
見落とすと致命的です。事業譲渡では、許認可は原則として承継されません。
建設業、産業廃棄物、飲食店営業、古物商、介護事業、運送業。買い手が新たに取得する必要があります。
問題は時間です。業種によっては数か月かかります。専任技術者や管理者の要件を満たす人材を確保する必要もあります。
したがって、許認可の取得時期から逆算して日程を組んでください。「譲渡は済んだが営業できない」という期間を作らないことです。
価格をどう考えるか
廃業予定の会社では、株式価値という考え方が馴染みません。会社を買うのではなく、資産と事業を買うためです。
実務では、引き受ける資産の時価を積み上げ、のれん(営業権)を加える形で考えます。
のれんの根拠は、引き継げる顧客、従業員、許認可、立地です。廃業すれば消えてしまうものを、いくらで評価するか。
売り手にとっては、廃業した場合との比較になります。廃業すれば、解体費用、原状回復、従業員への解雇予告手当、在庫の処分。出ていく費用があります。それを免れることの価値も、交渉の材料です。
消費税と税務の扱い
事業譲渡は株式譲渡と課税の仕組みが違います。
対価を受け取るのは会社であり、資産の帳簿価額との差額は会社の益金として法人税の対象になります。
また、課税資産には消費税がかかります。棚卸資産、什器備品、営業権(のれん)は課税、土地や債権は非課税です。
契約書に税込か税抜かを必ず明記してください。曖昧なまま署名すると、決済時に10%分の争いになります。
買い手側では、引き受けた資産の取得価額の配分(のれんをいくらとするか)が将来の償却に影響します。税理士にご確認ください。
スピードが価値になる
廃業予定の案件では、時間の制約があることが多くあります。
賃貸借契約の解約通知を出してしまった、従業員に廃業を伝えてしまった、取引先に挨拶を始めてしまった。動き出した廃業を止めるには、早い判断が要ります。
逆に言えば、早く動ける買い手には価値があります。「検討に3か月」と言えば、その間に従業員が辞め、取引先が離れます。
そのため、調査の範囲を絞ってでも早く判断することが、結果的に良い取引になる場面があります。専門家をどこまで入れるかも参考にしてください。
引き受けない判断も早く伝える
最後に。見送る場合も、早く伝えてください。
売り手は廃業の日程を組み直しながら待っています。返事が遅れるほど、選択肢が減ります。
「うちでは引き受けられないが、◯◯の設備だけなら」といった部分的な提案ができるなら、それも価値があります。
廃業予定の会社には、買い手がほとんど付きません。誠実に対応した買い手のことは、仲介会社も地域の金融機関も覚えています。次の案件につながります。