買収した会社の単価が、明らかに安い。あるいは、仕入が高い。直したくなりますが、順序を誤ると取引を失います。実務を整理します。
なぜ、その価格なのかを先に理解する
最初にすべきことです。安い理由、高い理由には、経緯があります。
長年据え置いてきた。値上げを言い出せなかった。
量をまとめてもらっている。単価は安いが、数が出る。
他の取引とセットになっている。この商品は安いが、別の商品で取っている。
過去の経緯。困ったときに助けてもらった、といった貸し借り。
この経緯を知らずに価格だけ動かすと、関係が壊れます。
前経営者と、営業担当者に、必ず聞いてください。
最初の半年は動かさない
実務の原則です。買収直後に値決めを変えないでください。
理由は3つです。
① 経緯が分かっていない。上記のとおりです。
② 取引先が警戒している。資本が変わった直後は、相手も様子を見ています。ここで条件を変えれば、「やはり変わった」となります。
③ 従業員が反発する。営業担当者が築いた関係を、本社が壊すと見られます。
まず、関係を維持することを優先してください。
例外は、明らかな赤字取引です。続けるほど損失が出るものは、早く手をつける必要があります。
対象を絞る
全部を一度に見直さないでください。優先順位をつけます。
赤字の取引。原価を割っているもの。
利益率が極端に低い取引。
長期間、単価が据え置かれているもの。原材料費や人件費が上がっているのに、価格が変わっていない。
量が少なく、手間がかかる取引。
逆に、主要な取引先は後回しにしてください。失った場合の影響が大きいためです。
小さい取引から始めて、反応を見る。これが実務的な進め方です。
誰が伝えるか
重要な設計です。本社の人間が直接伝えないでください。
相手から見れば、「買収した会社が来て、値上げを言い出した」という構図になります。
伝えるのは、これまでの担当者です。関係があり、経緯を知っている人。
そして、その担当者が納得していることが前提です。「本社に言われたので」という伝え方をされると、相手にも伝わります。
まず社内で合意を作ってください。なぜ見直すのか、どういう根拠か。担当者が自分の言葉で説明できる状態にする。
根拠を示す
値上げを受け入れてもらうには、理由が要ります。
使える根拠を挙げます。
原材料費の上昇。具体的な品目と上昇率。
人件費の上昇。最低賃金の改定、採用市場の状況。
物流費の上昇。
エネルギー費の上昇。
「買収されたので」は理由になりません。相手にとって、何の関係もありません。
また、いつから据え置いているかを示すと説得力が増します。「10年間、同じ単価でお願いしてきました」。
下請取引のルールに配慮する
法令上の重要な論点です。
買い手が親事業者に該当し、相手が下請事業者に該当する場合、下請代金支払遅延等防止法の適用があります。
この法律は、買いたたき(通常支払われる対価に比べて著しく低い代金を不当に定めること)などを禁じています。
また、発注時の書面(3条書面)の交付や、支払期日の定めについても規定があります。
買収によって資本関係が変わると、適用の有無が変わることがあります。資本金の額で判定されるためです。
必ず、弁護士に確認してください。知らずに違反すると、公正取引委員会の勧告の対象になり得ます。
仕入先への値下げ要請
逆の方向です。グループの調達力で、仕入単価を下げる。
これは買収のシナジーとして期待される部分ですが、慎重に進めてください。
まず、上記の下請取引のルールがあります。一方的な減額は問題になり得ます。
次に、相手にも理由が要ります。「量が増えるので単価を」という交換であれば、合理的です。量を増やさずに単価だけ下げるのは、単なる押し付けです。
そして、長年の仕入先を失うリスクを考えてください。安い仕入先に切り替えた結果、品質や納期が悪化することがあります。
失注のリスクを見積もる
判断の前提として、失った場合の影響を計算してください。
その取引の年間売上と、粗利。失った場合、固定費はどうなるか。
製造業では、量が減ると単位あたりの原価が上がります。他の取引の採算にも影響します。
そのうえで、「失ってもよい取引」かを判断してください。
赤字の取引なら、失っても構いません。むしろ改善です。
黒字だが利益率が低い取引は、判断が分かれます。数字を出してから決めてください。
段階を踏む
最後に、進め方の整理です。
① 経緯を聞く。前経営者と担当者から。(買収後すぐ)
② 原価を把握する。取引ごとの採算を出す。(3〜6か月)
③ 社内で方針を決める。どの取引を、どう見直すか。
④ 担当者と合意する。根拠を共有する。
⑤ 小さい取引から打診する。反応を見る。
⑥ 主要な取引先へ。(1年目の後半以降)
急がないでください。1年かけて整えるくらいの設計が、結果として早い。買収後に取引条件を見直すときの注意点もご覧ください。