ディスカウントストアは、安く仕入れて安く売ることで成り立っています。食品、日用品、酒類、医薬品、衣料など、扱う分野はさまざまです。
スーパーマーケットやホームセンターと違うのは、品揃えを揃えることより、安く出せる商品を集めることが軸になっている点です。定番を並べる商売ではなく、そのとき安く入ったものを売る形が混ざります。
したがって、譲渡の場面で見られるのは「なぜ安く仕入れられているのか」です。ここが引き継げなければ、同じ商売は続きません。
仕入の経路が、価値の中心
安く仕入れる経路はいくつかあります。
- メーカーや卸の在庫処分。季節が過ぎた商品、パッケージが変わった商品、生産を終えた商品。
- まとめ買い。量を約束して単価を下げる形。
- 規格外・訳あり品。
- 並行輸入。海外から直接仕入れる形。
- 同業や業者間の市場。
- 自社ブランドの開発。製造を委託して自社の商品として売る形。
1つめから5つめまでは、人のつながりで成り立っていることが多くあります。経営者が長年の関係で声をかけてもらっている、という形です。
したがって、引き継ぐ側が最初に確かめるのは「この仕入は会社に属しているのか、経営者個人に属しているのか」です。経営者個人の関係で入っている商品が多い場合、交代後に仕入が止まる懸念が残ります。
対策としては、仕入先ごとの取引の記録を社内に残すこと、担当を複数体制にすること、前の経営者が一定期間残ることが挙げられます。
立地と賃借の条件
小売なので、立地が売上を決めます。そして、立地は賃借の条件と一体です。
確かめられるのは次の点です。
契約の残存期間と更新の条件。定期借家か普通借家か。更新が拒絶される可能性があるか。
賃料の水準。相場と比べて高いか安いか。長く借りている物件では、相場より安いことがあります。これは引き継ぐ価値になります。逆に、相場より高い物件が残っていると負担になります。
支配権の異動に関する条項。株式の譲渡で貸主の承諾が必要になる定めがあるか。
原状回復の範囲。退去時の負担。店舗は内装と設備が入っているため、金額が大きくなります。
駐車場。別契約になっていることがあります。
複数店舗ある場合は、店舗ごとの採算が見られます。全体で黒字でも、赤字の店舗が混ざっていることがあります。買い手は、閉じる前提で計算することがあります。その場合、原状回復の費用が論点になります。
在庫の構成と回転
在庫の中身が、商売の実態を映します。
回転の速い在庫。日用品、食品。これが利益の土台です。
スポットで入った在庫。安く買えた分。利益率は高いが、続きません。
動いていない在庫。買ったが売れなかった商品。ここが膨らんでいる会社は、仕入の判断に問題があります。
引き継ぐ側は、在庫の年齢別の一覧を見ます。いつ入った在庫がいくら残っているか。これが出せない会社では、一律に割り引いて評価されます。
加えて、粗利の構成が見られます。スポットの仕入で稼いでいる割合が大きいと、その経路が続くかどうかで収益が変わります。定番商品の積み上げで稼いでいるなら、安定して見えます。
売り手として示せると強いのは、スポットを除いた利益です。経路が引き継げなかった場合でも残る部分が分かれば、買い手は安心して計算できます。
人の体制
小売は人手がかかります。レジ、品出し、発注、売価の設定。
確かめられるのは次の点です。
社員とパート・アルバイトの構成。パートの比率が高い業態です。
店長を任せられる人がいるか。複数店舗ある場合、各店の責任者がいるか。経営者が全店を見ている会社では、交代後の体制が論点になります。
発注の仕組み。誰が何を見て発注しているか。経営者が勘で決めている場合、引き継ぎが難しくなります。
労働時間の管理。シフト制の業態では、記録が曖昧になりやすく、未払残業の論点が出ます。
外国人の雇用。在留資格の管理が適切に行われているか。
この業種では、人手不足と最低賃金の上昇が共通の課題です。したがって、買い手は人件費の推移と、省人化の余地を見ます。セルフレジ、発注の自動化、シフトの仕組み。これらに投資の余地があることは、買い手にとっては伸びしろになります。
許認可と表示の管理
扱う品目によって、許可・届出が必要です。
- 食品。営業許可、食品衛生責任者の設置。
- 酒類。酒類小売業免許。
- 医薬品。登録販売者の配置など。
- 古物。中古品を扱う場合、古物商の許可。
株式譲渡では会社が持つ許可が残ります。事業譲渡では取り直しが必要なものがあります。
加えて、表示の管理が見られます。食品の表示、原産地の表示、価格の表示。並行輸入品や訳あり品を扱う場合、表示の要件を満たしているかが論点になります。
景品表示法に関わる論点もあります。二重価格の表示(「通常価格◯円が今だけ◯円」)は、根拠がなければ問題になります。安さを訴える業態なので、ここは丁寧に見られます。
過去に行政からの指導を受けた記録があれば、内容と対応が確認されます。
引き継ぐ側の動機
買う側の動機を整理します。
- 同業が店舗を増やす。仕入をまとめ、物流を共通化する形。いちばん多い形です。
- 地域に入る。別の地域のチェーンが拠点を得る形。
- 業態を加える。スーパーやドラッグストアが、価格帯の違う業態を持つ形。
- 立地を取る。店舗そのものが目的で、業態を変える形。
- 卸が小売に出る。仕入の経路を持つ側が、販売の場を得る形。
4つめの場合、従業員や屋号が残らない可能性があります。立地が目的なら、業態を変えることになります。雇用を気にする場合は、相手の目的を確かめる必要があります。
譲渡の前に整えるのは、仕入先ごとの取引の記録、店舗ごとの採算、在庫の年齢別一覧、賃貸借契約の一覧、許認可の一覧、労働時間の記録です。
このうち1つめと2つめが、評価に直接効きます。許認可・労務・表示の判断は個別の事情で変わるため、行政庁と専門家に確認してください。