会社を譲ることを考えたとき、1社だけに相談して決めるのか、複数に当たるのかという選択があります。複数の事業者に提案させて比べる形は、ビューティーコンテストと呼ばれることがあります。
大型の案件では一般的な進め方です。中小企業のM&Aでも、条件を比べられるという利点があります。
一方で、情報が広がる範囲が増えるという代償があります。やるなら、聞き方を揃えて、範囲を管理する必要があります。
聞く項目を揃える
比べるには、同じことを聞く必要があります。各社が自分の得意な形で提案してくると、並べても比較になりません。
揃えて聞く項目を挙げます。
- 立場。仲介かFAか。仲介なら相手方からも報酬を受け取るのか。
- 費用の全体。相談料・着手金・月額報酬・中間金・成功報酬のうち、どれが発生するか。それぞれいつ、いくら。
- 成功報酬の基準額。何に料率を当てるのか(株式の対価か、移動総資産か)。最低額はいくらか。自社の数字を入れて計算した金額を出してもらう。
- 不成立の場合。各段階で止まったときに、いくら払って終わるのか。
- 契約の縛り。専任の期間、解約の条件、テール条項の範囲と期間。
- 担当者。提案する人と進める人が同じか。担当の経験。
- 買い手候補の当て方。自社の情報か、プラットフォームか、他社との連携か。想定される候補の種類。
- 想定する価格帯と、その根拠。
- 想定する期間。
この9項目を書面で出してもらうと、並べられます。口頭の説明だけだと、後から内容が変わります。
価格の見通しで選ばない
比べるときに最も気をつけるところです。「いちばん高い価格を提示した会社」を選ぶのは、危ない選び方です。
理由は単純で、提案の時点の価格は、誰の約束でもないからです。実際の価格は買い手が決めます。提案する事業者は、高い見通しを示すことで依頼を取ることができ、それに対する責任を負いません。
したがって、見るべきは金額ではなく根拠です。どういう計算で、どの前提を置いて、どの買い手を想定してその金額になるのか。根拠を説明できる相手と、できない相手に分かれます。
あわせて、下がる方向の話をするかどうかを見ます。調査で何が出てきそうか、どこが弱いかを指摘してくる相手は、現実的に見ています。良いことしか言わない提案は、後で条件が下がります。
当社の場合は、相談料・着手金・月額報酬をいただいておらず、基本合意の時点で成功報酬額の10%を中間金としてお支払いいただき、成約時の成功報酬から全額を差し引きます。ただし、基本合意後に不成立となった場合、中間金の返金はいたしません。計算の方法は料金・費用に書いています。
情報が広がる範囲を決める
複数に当たると、自社の情報を渡す先が増えます。ここを管理しないと、比べた代償のほうが大きくなります。
やることは3つです。
1. 秘密保持の取り決めを、各社と結んでから話す。提案を聞く段階でも必要です。
2. 渡す資料を同じにする。決算書3期分と概要だけ、といった形で揃えます。各社が追加で求めてきても、提案の段階では渡さない。
3. 社名を出す前の承諾を確認する。提案の段階で買い手候補に当ててしまう事業者がいます。依頼する前に打診されると、情報が広がったまま契約しないことになります。
加えて、当たる数を決めておきます。3社程度が実務的な範囲です。5社以上に当たると、管理が難しくなり、業界内で噂になる可能性が上がります。
1社に絞る前に確かめること
提案を聞いて1社に決める段階で、確かめることがあります。
契約書の現物を読む。提案書に書いてある条件と、契約書の条項が一致しているかを見ます。提案書では触れていない条項が契約書にあることがあります。
テール条項の範囲。契約が終わった後も、紹介を受けた相手と成約したら報酬が発生する定めです。対象となる相手の範囲(ネームクリアした相手までか、接触した全部か)と期間を確かめます。
専任の期間と、自動更新。期間が切れたら自動で延びる条項が入っていないか。
解約の条件。途中でやめられるか。やめたときに何が残るか。
報告の頻度。打診の状況をどのくらいの頻度で知らせてくれるか。これを決めておかないと、進んでいるのか分からない期間が続きます。
複数に当たらないほうがよい場合
最後に、この進め方が向かない場合を書きます。
秘密を守ることが最優先の場合。従業員や取引先に知られると困る度合いが高いなら、当たる数を減らすほうが安全です。地域に同業が少ない業種では、特にそうです。
すでに相手の候補が見えている場合。取引先から打診を受けている、同業から声がかかっている。この場合は、その相手との交渉を支える事業者を1社選ぶ形になります。
急ぐ事情がある場合。提案を集めて比べるには時間がかかります。健康の問題や資金の都合で急ぐなら、1社に絞って進めるほうが早くなります。
規模が小さい場合。手数料の金額が小さい案件では、提案に力を入れてもらえないことがあります。
いずれの場合も、先に挙げた9項目を聞くことは1社でもできます。比べる相手がいなくても、答えが曖昧な項目があれば、そこが後で問題になる場所です。