「一社だけに任せて大丈夫だろうか」「何社かに頼めば、いい相手が見つかりやすいのではないか」——ご相談の中でよくいただくお気持ちです。実際、複数社に相談すること自体は珍しくありません。ただし費用の面では、整理しておくべき論点があります。二重に手数料がかかることはあるのか、契約が重なるとどうなるのか。本稿では費用の観点から整理します。相談段階の考え方は「複数の仲介会社に相談してよいか」もご覧ください。
「相談」と「契約」を分けて考える
まず最初に、混同されやすい二つを分けておきます。相談することと、仲介契約を結ぶことは別です。
複数の会社に相談し、話を聞き、見積もりを取ることは自由です。当社を含め、相談料を無料としている会社であれば、この段階で費用は発生しません。むしろ、複数社の説明を聞き比べることは、判断材料を増やすという意味で合理的です。
費用の論点が生じるのは、仲介契約を結んだ後です。契約には報酬条項があり、契約の形態によっては他社への依頼が制限されます。したがって、問うべきは「複数社に相談してよいか」ではなく、「複数社と契約を結んでよいか、結んだらどうなるか」です。
当社は相談料・着手金・月額報酬を0円としていますので、ご相談の段階で費用が発生することはありません。他社と比較検討中であることをお伝えいただいても、何ら差し支えありません。
専任契約と非専任契約|そもそも結べるのか
仲介契約には、大きく二つの形態があります。
| 形態 | 内容 | 複数社との契約 |
|---|---|---|
| 専任(独占)契約 | その会社にのみ依頼する。他社への依頼を禁じる | できない。違反すれば契約違反となる |
| 非専任契約 | 他社への依頼を妨げない | できる。ただし実務上の論点が生じる |
中小企業のM&A仲介では、専任契約が多く用いられます。理由は、仲介会社が成約前の費用を負担して案件を進めるためです。他社が先に成約させれば、投じた労力は回収できません。専任を求めるのは、この構造に由来します。
したがって、専任契約を結んだ後に他社と契約すれば、契約違反となり、損害賠償の問題が生じ得ます。複数社と契約したいのであれば、非専任の形をとるか、既存の契約を適切に終了させる必要があります。専任契約とテール条項については「専任契約とテール条項」で詳しく整理しています。
非専任で複数社に頼んだ場合、費用はどうなるか
非専任の形で複数社に依頼した場合、成功報酬を払うのは、成約に寄与した一社というのが基本です。二社に二重で成功報酬を払うことは、通常は想定されません。
ただし、問題が起きないわけではありません。実務でトラブルになりやすいのは次の場面です。
- 同じ買い手候補に、複数社から打診が行く——買い手からすれば「あの会社は売り急いでいる」と見られ、交渉上不利になります
- どちらの紹介で成約したかが争われる——A社が紹介した候補と、B社の仲介で成約した場合など
- テール条項が重なる——契約終了後も、紹介した相手と成約すれば報酬が発生する定めが、複数社に及ぶ
- 情報の管理が難しくなる——同じ資料が複数のルートで出回り、秘密保持の統制が効きにくくなります
とくに一つ目は、費用ではなく条件に影響する点で深刻です。同じ案件が複数の経路で市場に出れば、買い手は希少性を感じません。手数料を比べる以前に、譲渡価格そのものが下がる可能性があるということです。
二つ目は、実際に報酬の請求が重なり得る場面です。「成約への寄与」の判定は契約の定め方によりますので、非専任で進めるなら、この点の定義を各社の契約書で確認しておく必要があります。
テール条項が重なるとどうなるか
テール条項とは、契約が終了した後も一定期間内に、その仲介会社が紹介した相手と成約した場合には報酬が発生する、という定めです。仲介会社の労力を保護するための条項で、それ自体は不当なものではありません。
問題は、複数社と順に契約を結んだ場合です。A社との契約を終了し、B社と契約して成約したとき、その相手がA社の紹介先だったなら、A社のテール条項が働く可能性があります。この場合、B社への成功報酬とA社への報酬が重なることになりかねません。
したがって、契約を切り替える際には次を確認してください。①テール条項の期間(1年か2年か)②対象範囲(紹介した相手のリストが明示されているか)③終了時に紹介先リストの確認ができるか。
リストが明示されていない契約では、後から「あの会社も当社が紹介した」と主張される余地が残ります。契約終了の際に、紹介先を書面で確定させておくことが、実務上の備えになります。
セカンドオピニオンという使い方
複数社と契約するのではなく、一社と契約しつつ、別の視点を得るという方法もあります。
たとえば、提示された企業価値の水準が妥当か、契約書の条項に不利な点はないか、といった点について、顧問税理士や弁護士に見てもらう方法です。これは仲介契約に違反するものではなく、むしろ推奨されるべき確認です。
また、契約を結ぶ前の段階で複数社から見積もりと説明を受け、比較してから一社を選ぶ——これが最も合理的な進め方です。選ぶのは契約前であって、契約後ではありません。見積もりの取り方は「手数料の見積もりをどう取るか」で整理しています。
費用の面では、契約前の相談と比較に費用がかからないのであれば、複数社を見る負担は時間だけです。時間をかけるのは契約前——この順序を守れば、後の余計な費用は避けられます。
確認しておくこと
複数社との関係について、確認すべき項目をまとめます。
- 契約の形態——専任か非専任か。他社への依頼が禁じられているか
- 契約期間——何か月か。自動更新の定めはあるか
- 中途解約——解約できるか。違約金の定めはあるか
- テール条項——期間、対象範囲、紹介先リストの明示
- 報酬の発生条件——「成約への寄与」がどう定義されているか
- 秘密保持——資料の返還・廃棄の定めがあるか
これらはすべて、契約書に書かれているはずの事柄です。読んでも分からない書き方であれば、質問してください。質問への回答が曖昧な相手とは、契約しないという判断もあり得ます。
当社は、ご相談の段階で費用を頂戴しません。他社と比較されている場合も、当社の料金体系と契約条件を率直にご説明します。ご契約の前に総額の目安を書面でご提示し、契約書の条項についてもご質問にお答えします。