会社で契約している経営者保険。解約するのか、買い手に引き継ぐのか、名義をオーナー個人へ移すのか。解約返戻金が大きい場合、譲渡価格の交渉にも関わります。整理します。
まず契約を棚卸しする
最初にやることは一覧化です。次を一枚の表にしてください。
保険会社・証券番号・契約日。
契約者・被保険者・受取人。会社が契約者で、被保険者が社長、受取人が会社、という形が典型です。
年間保険料と支払方法。
現時点の解約返戻金と、その推移。保険会社に照会すれば「解約返戻金推移表」を出してもらえます。
この表が無いまま交渉に入らないでください。買い手のデューデリジェンスで必ず聞かれます。
解約返戻金は会社の財産
整理しておくべき前提です。会社が契約者であれば、解約返戻金を受け取るのは会社です。オーナー個人のものではありません。
したがって、株式を譲渡すれば、その保険も買い手のものになります。「自分が積み立てたものだから」という感覚とは別です。
解約返戻金が数千万円あるなら、それは会社の含み資産として評価の対象になります。買い手はデューデリジェンスで必ず確認します。
隠しても出てきます。最初から一覧に載せてください。
解約するか、引き継ぐか
選択肢は三つです。
① クロージング前に解約し、会社が返戻金を受け取る。会社の現預金が増え、その分が価格に反映されます。ただし解約控除で目減りする場合があります。
② そのまま買い手に引き継ぐ。契約は継続し、買い手が保険料を払い続けます。被保険者が退任した社長のままでよいのかは、保険会社に確認が要ります。
③ 契約者をオーナー個人に変更する。会社から個人へ契約を移します。個人が会社に対価を支払う必要があり、その金額の算定には税務上の論点があります。
解約控除に注意する
①を選ぶ場合の注意点です。契約から一定期間内の解約には、解約控除がかかる商品があります。
返戻率が上がりきっていない時期に解約すると、払い込んだ保険料を下回ることも珍しくありません。
解約返戻金推移表を見て、ピークがいつ来るのかを確認してください。数か月待てば大きく増える場合、クロージングの時期と併せて検討する価値があります。
ただし、そのために譲渡の時期をずらすほどの差かは冷静に比べてください。交渉が長引くリスクのほうが大きいこともあります。
名義変更(契約者変更)の論点
③は要望として出やすい形です。「この保険だけは自分で持っていきたい」というご相談があります。
可能ですが、会社から個人への財産の移転にあたります。無償で移せば、経済的利益として課税の対象になり得ます。
適正な価額で個人が会社に支払う形が原則ですが、その「適正な価額」の考え方は商品や時期によって異なります。
必ず税理士と保険会社の双方に確認してください。過去に名義変更を使った節税スキームが問題となった経緯もあり、取り扱いは慎重に見る必要があります。
経理処理を確認する
法人保険は、商品と契約形態によって保険料の経理処理が違います。全額損金、一部損金、全額資産計上。
資産計上している場合、貸借対照表に保険積立金として載っています。解約すれば、返戻金と帳簿価額の差額が損益に出ます。
この損益は、譲渡の年度の決算に影響します。役員退職金の支給と組み合わせて損益を調整する設計をとることもあります。
ここは税理士の領域です。保険の担当者の説明だけで決めないでください。
損害保険も確認する
生命保険に目が行きがちですが、損害保険も確認してください。
火災保険、賠償責任保険、自動車保険、労災の上乗せ保険、PL保険。これらは事業の継続に直結します。
株式譲渡であれば契約はそのまま続きますが、名義や口座の変更、保険料の支払方法を切り替える必要があります。
見落とすと、引き落としが止まって失効するという事故が起こります。クロージング後のチェックリストに入れてください。
買い手との交渉での位置づけ
解約返戻金が大きい場合、価格交渉の論点になります。
買い手から見れば、解約すれば現金になる資産です。そのため、純資産に加算して評価することがあります。
一方、買い手がその保険を継続したい(被保険者を後任の社長に変える等)場合もあります。どちらの前提で価格を話しているのかを、早い段階で揃えてください。
「解約する前提の価格」と「引き継ぐ前提の価格」は違います。ここが曖昧なまま基本合意に進むと、後で戻ります。
手取りの計算に入れる
まとめます。保険は、譲渡の場面で必ず出てくる割に、後回しにされやすい項目です。
やることは3つ。①契約を一覧にする ②解約返戻金推移表を取り寄せる ③税理士に経理処理と課税を確認する。
そのうえで、解約するのか引き継ぐのかを決め、買い手に開示して価格の前提を揃える。
数千万円が動く項目です。手取りの計算に、必ず織り込んでください。費用の総額で比べるも参考にしてください。