M&Aの相談先は民間の仲介会社だけではありません。各都道府県には事業承継・引継ぎ支援センターが設置されており、公的な相談窓口として機能しています。「無料で相談できるなら、そちらのほうが費用は安いのではないか」——当然のご質問です。本稿では、公的な窓口を使う場合の費用構造を、民間の仲介と比べながら整理します。制度の内容や運用は変わり得ますので、最新の情報は各機関の公表資料でご確認ください。
公的な相談窓口とは何か
事業承継・引継ぎ支援センターは、中小企業の事業承継とM&Aを支援するために各都道府県に設置された公的な機関です。後継者が不在の企業と、譲り受けを希望する企業のマッチング支援も行われています。
特徴は、相談そのものに費用がかからない点です。現状の整理、進め方の助言、必要に応じた専門家の紹介など、初期の段階で費用の負担なく相談できます。
また、国はM&A支援機関に係る登録制度を設けており、一定の要件を満たす民間の支援機関が登録されています。中小企業庁の中小M&Aガイドライン(第3版・令和6年8月)の遵守を宣言することなどが要件とされています。公的な窓口から民間の登録機関に引き継がれる場面もあります。
つまり、公的ルートと民間ルートは対立するものではなく、入口が違い、途中でつながることもあるという関係です。
無料なのはどこまでか
費用を考えるうえで重要なのは、無料の範囲がどこまでかです。整理すると次のようになります。
| 段階 | 公的窓口 | 民間仲介(当社の場合) |
|---|---|---|
| 初期相談・現状整理 | 費用の負担なく相談できる | 相談料0円 |
| 資料作成・相手先探索 | 支援の範囲は機関により異なる | 着手金・月額報酬0円 |
| デューデリジェンス | 専門家への依頼費用は別途必要 | 専門家費用は別途必要 |
| 契約書の作成・レビュー | 弁護士等への依頼費用は別途必要 | 弁護士等への依頼費用は別途必要 |
| 成約時 | 引き継がれた支援機関の報酬が発生し得る | 成功報酬(最低2,000万円・税別) |
ご覧のとおり、デューデリジェンスや契約書に関わる専門家費用は、どちらのルートでも発生します。これは仲介の報酬とは別に、外部の専門家に支払う費用だからです。この点を「公的だから全部無料」と誤解すると、資金計画が崩れます。
また、公的窓口から民間の登録支援機関に引き継がれた場合、その機関の報酬体系が適用されます。どの段階で、どの機関の報酬が発生するのかを、引き継ぎの時点で確認しておく必要があります。
費用以外で違うところ
費用だけを見れば公的窓口が有利に見えますが、実務では次のような違いがあります。どちらが良い・悪いではなく、性質の違いとして理解してください。
- 相手先の探索範囲——公的機関は地域内のネットワークが中心になりやすく、民間は広域の候補にあたれることがあります
- 関与の深さ——交渉の場に同席して条件を詰めるところまで担うか、助言にとどまるかは機関によって異なります
- 進行の速さ——公的機関は相談件数に対する体制の制約があり、進行に時間を要する場合があります
- 案件の規模——一定以上の規模では、民間の仲介・FAが関与するのが一般的です
率直に申し上げると、小規模な譲渡ほど公的ルートの合理性が高くなります。民間の仲介には最低手数料があり、譲渡対価が小さい案件では手数料の比率が高くなるためです。当社の最低手数料は2,000万円(税別)ですので、この水準が対価に対して重いと感じられる規模であれば、公的窓口を含めた他の選択肢を検討していただくほうが合理的です。
この点は「最低手数料はなぜあるのか」「小規模案件の費用をどう考えるか」でも率直に整理しています。当社にご相談いただいた場合も、規模や状況によっては他の方法をご提案することがあります。
補助金で費用は減らせるか
費用の軽減という点では、事業承継・M&A補助金という制度があります。M&Aに要する費用の一部を対象とする国の補助制度です。
対象となり得る費用には、専門家への委託費や、デューデリジェンスに要する費用などが含まれます。ただし、対象となる費用の範囲、補助率、上限額、申請の要件は年度ごとに変わります。また、公募の時期が限られているため、いつでも申請できるわけではありません。
重要な注意点として、補助金は後払いが原則です。先に費用を支払い、実績報告を経てから交付を受ける流れになります。したがって、資金繰りの面では一度は全額を負担する必要があります。
また、申請には要件があり、支援機関がM&A支援機関登録制度に登録されていることが求められる場合があります。必ず最新の公募要領をご確認のうえ、申請の可否を判断してください。要件を満たさない支出は対象外となります。
どう使い分けるか
現実的な使い分けの考え方を挙げます。
- まず公的窓口に相談する——費用がかからず、中立的な立場からの整理が得られます。何も決まっていない段階に向いています
- 並行して民間にも相談する——相談料が無料であれば、比較の材料が増えます
- 規模と手数料を試算する——自社の場合に民間の手数料がいくらになるかを確認し、対価に対して重すぎないかを見る
- 広く相手先を探したいなら民間——候補の幅を優先する場合
- 地域内での承継を重視するなら公的窓口——地域のネットワークを生かす場合
どちらか一方に絞る必要はありません。相談の段階では、複数の窓口を使って構いません。費用が発生するのは契約を結んでからです。ただし、仲介契約を結んだ後は、専任条項の有無に注意してください。
相談先の全体像は「M&Aは誰に相談すべきか」で整理しています。銀行、税理士、仲介会社、公的機関——それぞれの立場と役割の違いをご確認ください。
費用を比べるときの注意
最後に、公的ルートと民間ルートの費用を比べるときに、見落としやすい点を挙げます。
- 成約までの期間——期間が延びれば、その間の経営判断が保留され、機会損失が生じることがあります
- 社内の負担——資料の準備や質問への対応は、どちらのルートでも自社で行います
- 専門家費用——デューデリジェンスや契約書の費用は、ルートにかかわらず発生します
- 成約条件の差——譲渡価格や雇用条件の差は、手数料の差より大きくなることがあります
- 税負担——株式譲渡益への課税は20.315%です。手取りは手数料だけでは決まりません
とくに成約条件の差は、費用の比較では見えません。譲渡価格が数千万円変われば、手数料の差は相対的に小さくなります。費用を抑えることと、良い条件で成約することは、別の目標であるという点を意識してください。
当社は、ご相談の初期段階で手数料の見込みをお伝えします。その金額が自社にとって重いと感じられる場合は、公的窓口を含めた他の選択肢もご案内します。ご相談の段階で費用が発生することはありません。税務・法務の判断は、税理士等の専門家にご確認ください。
なお、当社は現在、中小企業庁「M&A支援機関登録制度」への登録手続中です(最新の状況は中小M&Aガイドライン遵守宣言のページに掲載しています)。補助金のご活用をお考えの場合は、その時点での支援機関の登録要件とあわせてご確認ください。申請手続きの代行は行っておりません。