顧問税理士から紹介を受けて仲介会社と話を始めた。後になって「紹介した先生にも手数料が要ると聞いた」。こうした行き違いは実際に起こります。誰に、いくら払うことになるのかを、最初に確かめる方法を整理します。
手数料が発生し得る相手を並べる
M&Aの過程で、報酬が発生し得る相手は複数います。整理すると次のとおりです。
仲介会社またはFA(成功報酬・中間金など)。紹介者(税理士、銀行、知人など)。専門家(弁護士、税理士、公認会計士への個別の依頼)。買い手側の仲介会社(仲介の場合、買い手が支払う)。
このうち、依頼者が負担するのはどれなのか。ここを最初に確認しないまま進むと、後から想定外の請求に驚くことになります。
仲介とFAで、構造が違う
仲介は、売り手と買い手の間に立ち、双方から手数料を受け取る形です。FA(ファイナンシャル・アドバイザー)は、一方の当事者だけに就き、その当事者から手数料を受け取ります。
仲介の場合、売り手が支払う手数料と買い手が支払う手数料は別々に決まります。売り手の負担が買い手の手数料によって変わることは、通常ありません。
ただし、双方から受け取るという構造は利益相反を含みます。中小M&Aガイドライン(第3版)は、仲介である旨と双方から手数料を受け取ることを、両当事者に事前に説明するよう求めています。説明がないまま進んでいる場合は、確認してください。
紹介者への謝礼は誰が払うのか
もっとも行き違いが起きやすいのがここです。税理士や銀行から仲介会社を紹介された場合、紹介者と仲介会社の間で紹介料の取り決めがあることがあります。
この場合、紹介料は仲介会社が受け取った手数料の中から支払われるのが通常で、依頼者が別に負担するものではありません。ただし、紹介者が依頼者に対して別途の報酬を求める契約になっている場合もあり得ます。
確認の仕方は単純です。「先生への謝礼は、私が別に払うのですか」と両方に聞いてください。仲介会社にも、紹介者にも。答えが食い違ったら、書面で整理してもらいます。
契約書のどこに書いてあるか
手数料に関する定めは、仲介契約(アドバイザリー契約)の中にあります。確認すべき条項名は、おおむね決まっています。
「報酬」「手数料」の条で、金額と算定方法。「支払時期」の条で、いつ払うか。「費用負担」の条で、実費の扱い。そして「本契約終了後の取扱い」や「残存条項」の条に、テール条項が置かれていることがあります。
紹介者が関与している場合に、その紹介者への報酬について契約書に何も書かれていないのであれば、それは「依頼者は負担しない」という意味なのか、「別途の合意による」という意味なのかを確認してください。書かれていないことは、後から争いになります。
専門家への個別の依頼は別
混同しないでいただきたいのが、ご自身で専門家に依頼した場合の費用です。
最終契約書を自社の弁護士に確認してもらう。譲渡益の試算を顧問税理士に依頼する。不動産の鑑定評価を取る。これらは仲介手数料とは別に発生します。
これは二重取りではなく、別の役務に対する別の対価です。ただし「どこまでが仲介手数料に含まれるのか」は会社によって違います。契約書のレビューを仲介会社が行うのか、自分で弁護士に頼むのか。業務の範囲を書面で確認してください。
複数の支援機関が関与する場合
案件によっては、複数の支援機関が関わることがあります。相手先を探した会社と、交渉を進めた会社が違う。途中で担当が変わった。こうした場合は整理が必要です。
とくに注意すべきは、以前に契約していた仲介会社のテール条項です。契約が終了していても、その会社が紹介した相手と成約すれば手数料が発生し得ます。
過去に他社と仲介契約を結んだことがある場合は、その契約書を出してください。解約済みでも、テール期間と対象先が残っている可能性があります。ここを確認しないまま進むのが、二重請求のもっとも典型的な原因です。
確認の仕方
実務としてお勧めしているのは、一枚の紙に書き出してもらうことです。
「この案件が成約したとき、私が支払う先と金額をすべて書いてください」。仲介会社に対して、こう頼んで構いません。中小M&Aガイドライン(第3版)は、手数料の体系と金額、業務の範囲について、契約締結に先立って書面を交付して説明することを求めています。
口頭で「うちだけです」と言われて終わるのではなく、書面で受け取ってください。後から別の請求が来たとき、その紙が判断の基準になります。
買い手側の手数料を気にする必要はあるか
仲介の場合、買い手も手数料を支払います。「買い手の負担が大きいと、その分だけ買収価格が下がるのではないか」という懸念を持たれることがあります。
理屈としては、買い手にとって手数料も投資額の一部ですから、まったく無関係ではありません。ただし実務上、買い手は事業の価値そのものを見て価格を決めます。手数料を理由に大きく価格が動くことは多くありません。
むしろ確認すべきは、双方から手数料を受け取る構造が開示されているかです。開示されていれば、どちらに有利な調整が働き得るかを、こちらも意識して交渉できます。