やめることを考え始めたとき、最初の困りごとは「誰に聞けばいいのか分からない」ことです。税理士に聞けば税務の話になり、金融機関に聞けば借入の話になります。どちらも必要な話ですが、全体の順序を教えてくれる相手とは限りません。
相談先には、公的な窓口、民間の専門家、金融機関、そして事業の引き継ぎを扱う事業者があります。それぞれ見える範囲が違うので、どの順番で誰に当たるかで進み方が変わります。ここでは相談先の種類と役割、費用の見通し、そしてやめると決める前に一度だけ確かめておける選択肢を整理します。
公的な相談窓口
各都道府県には事業承継・引継ぎ支援センターが置かれています。国の事業として設置されているもので、後継者がいない中小企業の相談を受け付け、第三者への引き継ぎの検討や、譲り渡し先・譲り受け先の登録制度の案内を行っています。相談そのものに費用がかからない形で運営されており、やめるか続けるかを決めていない段階でも使えます。
商工会議所・商工会、よろず支援拠点も相談の入口になります。経営の相談全般を扱うので、廃業と承継のどちらに向くかを整理する段階で使いやすい窓口です。また、事業承継やM&Aに関する費用の一部を対象とする国の補助金として、事業承継・M&A補助金があります。公募の時期と要件は年度ごとに変わるため、使えるかどうかは必ずその年度の公募要領で確認してください。
公的な窓口の利点は、特定の取引に誘導される立場ではないことです。一方で、個別の交渉や契約の実務を代わりに進めてくれるわけではありません。整理の段階と、実行の段階で、相手を分けて考えるのが実務的です。
専門家の役割は分かれている
廃業と承継のどちらでも、専門家の役割は分かれます。税理士は税務の申告と、やめた場合・引き継いだ場合の税負担の見通しを扱います。自社株の評価が論点になる場合もここです。司法書士は解散・清算の登記を扱います。弁護士は契約と、債務や係争が残っている場合の整理を扱います。社会保険労務士は従業員の社会保険・労働保険の手続きと、退職に伴う実務を扱います。
不動産や設備の価値を知りたい場合は、不動産鑑定士や設備の買取業者が関わります。ここで注意したいのは、「いくらで売れるか」は誰に聞くかで答えが変わることです。処分を前提にした査定と、事業ごと引き継ぐ前提の評価は、同じ資産でも違う金額になります。
顧問税理士がいる場合、最初の相談相手になるのが自然です。ただし、やめる判断に関わる論点は税務だけではないので、誰がどこまでを見ているのかを自分で把握しておく必要があります。全体を見る人がいないまま個別の助言が集まると、順序を間違えます。
廃業にかかる費用の内訳
やめるにも費用がかかります。主なものを並べます。
- 登記と公告。法人の場合、解散と清算結了の登記に登録免許税がかかり、官報への公告にも費用がかかります。
- 専門家への報酬。登記、清算の税務申告、契約の整理などに応じて発生します。
- 設備・在庫の処分。買い取ってもらえるものと、費用を払って廃棄するものがあります。産業廃棄物にあたるものは処分費が高くなりがちです。
- 賃借物件の原状回復。工場や店舗では、契約内容によって負担が大きくなります。
- 従業員への支払い。退職金の規定があれば、その支払いが必要です。
これらは会社の規模と資産の内容で大きく変わるので、見積りを取って合計を出すことになります。手元に残る金額は「資産を現金に換えた額 − 債務 − これらの費用」です。この計算をしないまま進めると、思っていたより残らないという結果になります。
個人保証と借入は、早い段階で話す
借入に個人保証を付けている場合、会社を清算しても保証が自動で消えるわけではありません。会社の資産で返しきれない部分が残れば、保証した個人に請求が向きます。ここは廃業の判断そのものを左右するので、決議より前に金融機関と話を始める必要があります。
経営者保証については、保証に依存しない融資を進める取り組みが続いており、金融庁の公表によれば経営者保証に依存しない融資の割合は2024年度上期で52%となっています。既存の保証についても、経営者保証に関するガイドラインに沿った整理の枠組みがあります。使えるかどうかは個別の事情によるので、金融機関と、必要なら弁護士を交えて確かめてください。
保証の見通しが立たないうちに解散を決議すると、後から取れる手が減ります。順序としては、保証と借入の話が先です。
やめる前に一度だけ確かめられること
相談先を回る過程で、一度確かめておけることがあります。「この会社を引き継ぐ相手がいるかどうか」です。会社名を出さずに、業種・規模・地域・収益の概要だけで、候補になりうる相手がいるかを聞く形が取れます。秘密保持の取り決めを先に結んでから進めるのが通常です。
確かめた結果、相手がいなければやめる判断に戻ればよく、その間に廃業の準備が止まるわけではありません。逆の順序にすると、許認可が廃止され、従業員が離れ、取引先が別の仕入先に移った後になります。選択肢を1つ試してから決めるほうが、後から振り返ったときに納得しやすくなります。
なお、ここに書いた税務・法務・保証の扱いは、会社の状況によって結論が変わります。実際に進める際は、税理士・弁護士・司法書士など、それぞれの専門家に確認してください。