「廃業届を出す」という言い方は広く使われていますが、実際に出す書類は、個人事業か法人かで大きく変わります。個人事業であれば税務署と都道府県への届出が中心で、様式も決まっています。一方、法人には「廃業届」という一枚の書類は存在しません。株主総会の決議から始まり、解散の登記、債権者への公告、清算、清算結了の登記と、段階を踏んで会社そのものを消していく手続きになります。

この違いを知らずに動くと、「書類を出したのに終わらない」という状態が長く続きます。ここでは、どちらの場合に何が必要かを順序に沿って整理し、あわせて「出す前に確かめておいたほうがよいこと」も書いておきます。届出を出した後では戻せない判断がいくつかあるためです。

個人事業をやめるときに出す書類

個人事業の場合、中心になるのは税務署への届出です。事業を廃止した旨の届出書を提出し、青色申告をしていた場合は青色申告の取りやめ届出書も合わせて出します。消費税の課税事業者であれば、事業廃止の届出が別に必要です。給与を支払っていた場合は、給与支払事務所等の廃止の届出も出します。

これに加えて、都道府県の税事務所にも事業廃止の届出を出します。個人事業税の扱いが変わるためです。許認可を受けて営業していた場合は、その許認可ごとに廃止の届出先が決まっています。飲食店であれば保健所、建設業であれば許可を出した行政庁、古物商であれば公安委員会です。許認可の届出は忘れやすいところで、放っておくと更新の案内が届き続けたり、名簿に残り続けたりします。

従業員を雇っていた場合は、社会保険と労働保険の手続きが別の流れになります。年金事務所、労働基準監督署、ハローワークのそれぞれに廃止や喪失の届出が必要です。従業員の離職票は再就職に直結するので、ここは期限を守って進めることになります。

法人には「廃業届」という書類はない

法人をやめる場合、まず株主総会の特別決議で解散を決めます。決議の日が解散日になり、そこから会社は「清算中の会社」になります。解散と清算人の選任を法務局に登記し、税務署・都道府県・市町村にも異動の届出を出します。

登記の後は、債権者に向けて解散したことを公告し、分かっている債権者には個別に通知します。この期間は一定の日数を置くことが求められており、その間に債権の申し出を受け付けます。並行して、売掛金を回収し、買掛金や借入金を払い、資産を現金に換えていきます。すべて終わって残った財産を株主に分配し、清算結了の登記をして、ようやく会社が消えます。

つまり法人の場合、「届出を出す」のではなく「手続きを一巡させる」ことになります。決議から清算結了まで、債権者への公告の期間だけでも相応の日数がかかり、資産の処分や税務申告を含めると、数か月から一年以上かかることもあります。残余財産を株主に分配する段階では課税の扱いが論点になるため、税務の設計は早い段階で税理士に相談しておくのが安全です。

解散の決議は、出した後では戻せない

届出や登記の順序以上に大事なのは、「どの段階までなら引き返せるか」です。個人事業の廃止届は、事業をやめた事実を届け出るものなので、やめなければ出す必要はありません。法人の解散決議も、法律上は会社の継続を決議し直す道が残されている場面がありますが、いったん解散を登記すると、取引先や金融機関、従業員にその事実が伝わります。登記は誰でも見られるので、「やめると決めた会社」として扱われることになります。

ここが実務上の分かれ目です。会社を第三者に引き継ぐ可能性を少しでも考えているなら、解散の決議より前に検討しておく必要があります。清算中の会社の株式を買う形は、買い手から見ると論点が増えます。許認可は廃止され、従業員は離れ、取引先は別の仕入先を探し始めているためです。会社として続いていること自体が、引き継ぐ側から見た価値の一部になっています。

届出の前に確かめておきたい4つのこと

順序を間違えると取り返しがつかないものを挙げます。

  • 許認可が引き継げる種類かどうか。許認可には、会社ごと引き継げるもの、手続きを踏めば承継できるもの、取り直しが必要なものがあります。取り直しに時間がかかる業種では、許認可があること自体が引き継ぐ価値になります。
  • 不動産や設備が、やめた後にいくらで換わるか。事業に組み込まれている設備は、単体で売ると評価が下がることがあります。事業ごと引き継いでもらう場合と、処分する場合で、手元に残る金額が変わります。
  • 従業員の次の行き先。廃業を選ぶと、雇用は原則として終わります。引き継ぐ形であれば、雇用を続ける前提で話を進める余地があります。
  • 個人保証と担保の整理。借入に個人保証を付けている場合、会社を清算しても保証が自動で消えるわけではありません。金融機関との話は、決議の前に始めておく必要があります。

やめる手続きと、引き継ぐ手続きは並行して考えられる

廃業と事業承継は、どちらかを選ばなければいけないものではなく、順序の問題として考えられます。相手が見つかるかどうかを先に確かめ、見つからなければやめる、という順序です。逆にすると、やめる手続きが進んだ後では相手を探す条件が悪くなります。

どちらの道も、判断には同じ材料が要ります。決算書、資産の一覧、借入と保証の状況、許認可、従業員の状況です。これらを揃えておけば、処分したときに手元に残る金額と、引き継いでもらう場合の見通しを並べて比べられます。どちらが良いかではなく、自社の場合はどうなるかを数字で見てから決めるのが、後悔の少ない順序です。

なお、ここで触れた税務と法務の扱いは、会社の状況によって結論が変わります。実際に手続きを進める際は、税理士・司法書士・弁護士など、それぞれの専門家に確認してください。

よくあるご質問

A.事業を廃止した日から一定の期間内に提出することが求められています。具体的な期限と様式は、所轄の税務署で確認してください。青色申告の取りやめ、消費税、給与支払事務所の廃止など、同時に出す書類がそれぞれ別にあります。
A.債権者への公告の期間を置く必要があるため、最短でも数か月はかかります。資産の処分や訴訟・税務の論点が残っていると一年以上かかることもあります。期間の見通しは、資産と債務の状況によって大きく変わります。
A.法律上の道が閉じるわけではありませんが、条件は悪くなります。許認可は廃止され、従業員が離れ、取引先が他の仕入先に切り替わっていくためです。引き継ぐ可能性を考えるなら、決議の前に検討してください。
A.登記の登録免許税、官報への公告費用、専門家への報酬、設備の処分費用などがかかります。賃借物件の原状回復や在庫の廃棄が必要な場合は、その費用も加わります。金額は会社の規模と資産の内容で変わるため、見積りを取って確かめてください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役副社長。中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら