M&Aの本や記事に、買収防衛策の名前がいくつも出てきます。ポイズンピル、ホワイトナイト、ゴールデンパラシュート。その中にパックマンディフェンスがあります。

仕掛けられた側が、逆に仕掛けてきた相手を買収しようとする対抗策です。食べに来た相手を食べ返す、という意味で、ゲームの名前が付いています。

これは上場企業で、意思に反する買収を仕掛けられた場面の話です。中小企業のM&Aは合意の上で進むので直接は関係しませんが、「買う・買われる」が一方向ではないという視点は使えます。

どういう仕組みなのか

上場企業の株式は市場で売買されているので、ある会社が別の会社の株を買い集めて支配を取ることができます。相手の経営陣が反対していても、株主から買い集めれば成立します。

仕掛けられた側の対抗策の1つが、相手の株を自分が買い集めることです。相手の支配を取れれば、仕掛けてきた側が自分の子会社になるので、買収は止まります。

実際には、成立しにくい手法です。理由は3つあります。

資金。相手を買うだけの資金が必要です。仕掛けてきた側のほうが規模が大きいことが多く、その場合は買い返せません。

時間。買収は短期間で進みます。その間に資金を手当てし、買い集めるのは難しくなります。

株主の判断。自社の株主が、経営陣の対抗策を支持するとは限りません。高い価格で買ってもらえるなら売りたいと考える株主がいます。

したがって、実務では交渉の材料として使われることが多い手法です。

日本の非上場会社では、そもそも起きにくい

非上場の会社では、この種の攻防はほぼ起きません。理由は株式が市場で売買されていないことです。

さらに、非上場会社の定款には通常株式の譲渡制限が入っています。株主が株を売るには、取締役会などの承認が必要です。承認しなければ、知らない相手が株主になることはありません。

したがって、中小企業のM&Aは経営者(=多くの場合は支配株主)が決めない限り進みません。意思に反して買われることは、構造上起きにくくなっています。

ただし、例外的に問題が起きる場合があります。

  • 株式が分散している。相続で分かれた、過去に従業員や取引先に持たせた。
  • 譲渡制限が無い、または不備がある。古い定款のまま見直していない。
  • 名義株がある。実質の所有者と名義が違う。

この状態だと、少数株主が第三者に株を売る、相続人が売る、といったことが起こりえます。防衛策を考えるより、名簿と定款を整えるほうが実質的な対策になります。

中小企業で「買われる側が買う側になる」場面

パックマンディフェンスそのものは関係ありませんが、向きが入れ替わる場面は中小企業にもあります。

打診されたことで、逆に相手を買う話になる。同業から「譲ってもらえないか」と来たが、話をするうちに自社のほうが条件がよく、相手を引き受ける形になる。両社とも後継者の問題を抱えていると、これが起きます。

売るつもりが、資本提携になる。全部を譲るのではなく、一部の出資を受けて提携する形に落ち着く。

売却の検討を通じて、買う側の視点を持つ。自社を評価してもらう過程で、何が評価されるのかが分かります。それを使って、自社が他社を買う判断ができるようになります。

この3つめは実務的に効きます。売却の検討は、自社の強みと弱みを外から見る機会になります。結果として売らない判断になっても、その整理は残ります。

防衛策の用語を、中小企業の文脈に置き換える

他の防衛策も、名前だけ知っていても使い道がありません。中小企業の文脈に置き換えると、意味のある話になります。

ホワイトナイト(友好的な別の買い手を探す)。中小企業では、複数の買い手候補に当たることがこれに相当します。1社だけと話すと条件を比べられません。

ゴールデンパラシュート(経営陣の退職金を高くしておく)。中小企業では、役員退職金の設計が譲渡の条件と税負担に関わります。ただし防衛のためではなく、手取りの設計としての話です。

ポイズンピル(新株予約権で買収者の持分を薄める)。中小企業では、種類株式や譲渡制限が同じ機能を担います。

クラウンジュエル(重要な資産を売って魅力を下げる)。これは中小企業では意味を持ちません。価値を下げれば自社も損をします。

用語を覚えるより、自社の株主構成と定款を見るほうが実益があります。

「買われたくない」と思ったときにやること

譲渡を考えていない会社が、備えとしてやれることを整理します。

1. 株主名簿を現物で確かめる。誰が何株持っているか。相続で分かれていないか。連絡が取れるか。

2. 定款の譲渡制限を確かめる。譲渡に承認が必要か。承認の機関はどこか。古い定款のままになっていないか。

3. 名義株を整理する。設立時に名前を借りた株が残っていないか。

4. 相続の備えをする。株主が亡くなったときに誰に渡るか。定款に相続人に対する売渡請求の定めがあるか。

この4つは、買われたくない場合にも、将来譲る場合にも、同じように必要になる整理です。やっておいて損がありません。

逆に、何も整理していない状態がいちばん弱くなります。株が散らばり、連絡が取れない株主がいる状態では、譲ることも守ることもできません。会社法の判断は個別の事情で変わるため、弁護士に確認してください。

よくあるご質問

A.買収を仕掛けられた会社が、逆に仕掛けてきた相手を買収しようとする対抗策です。相手の支配を取れれば買収が止まります。資金と時間の制約から成立しにくく、交渉の材料として使われることが多い手法です。
A.非上場会社の株式は市場で売買されておらず、定款に譲渡制限があるのが通常なので、意思に反して買われることは構造上起きにくくなっています。ただし株式が分散し、譲渡制限に不備がある場合は例外です。
A.用語としての防衛策より、株主名簿の確認、定款の譲渡制限、名義株の整理、相続の備えのほうが実益があります。これらは将来譲る場合にも同じように必要になる整理です。
A.断っても構いません。そのうえで、株主名簿と定款を確かめてください。打診が来るということは、外から見て魅力がある会社だという意味でもあります。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役副社長。中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら