会社の売却を考え始めたとき、多くの経営者様が最初に迷うのが「顧問税理士に、いつ、どう伝えるか」です。長年会社の数字を見てもらってきた相手だからこそ相談したい。しかし、売却の検討を知られること自体に戸惑いもある——このような揺れる心情は、決して珍しいものではありません。本稿では、顧問税理士に言い出しにくいと感じる心理の正体から、顧問税理士の強みと限界、共有のタイミングの一般的な考え方、税務面で担ってもらいたい役割、そして仲介会社との連携の実際まで、順を追って整理します。
「顧問税理士に言い出しにくい」という現実
「会社を売ろうかと考えている」——この一言を顧問税理士に切り出せず、検討が止まってしまう経営者様は少なくありません。その背景には、いくつかの心理があります。
長年の関係だからこその遠慮
創業以来、あるいは先代の時代から会社を支えてくれた税理士に対して、「会社を手放す」という話は裏切りのように感じられてしまう。顧問契約が終わることへの気兼ねもあり、切り出すこと自体に心理的なハードルが生じます。
情報が広がることへの不安
M&Aの検討は、従業員・取引先・金融機関に知られると動揺を招きかねない、極めて秘匿性の高い情報です。「悪気はなくても、どこかで話が漏れたら」という不安から、身近な相手にほど話せなくなるという逆説が起こります。
反対されるのではないかという懸念
「まだ早いのでは」「もったいない」と諭されるのではないか、という懸念もよく伺います。売却は経営者様ご自身の人生の決断であるだけに、身近な人の反対を想像すると口が重くなるものです。
こうした心理はいずれも自然なものです。大切なのは、「言い出しにくいから誰にも相談しない」のではなく、秘密保持を前提に相談できる相手を確保しつつ、適切なタイミングで顧問税理士の力を借りる道筋を描くことです。誰に何を相談できるかの全体像は「M&Aは誰に相談すべきか|銀行・税理士・仲介会社の違いと使い分け」でも解説しています。
顧問税理士の強みと限界を整理する
顧問税理士とどう連携するかを考えるには、その強みと限界を冷静に整理しておくことが役立ちます。
強み|自社の数字を最も知る存在
- 決算書・税務申告の内容を長年にわたり把握しており、数字の経緯や背景まで説明できる
- 役員貸付金や保険積立など、貸借対照表の「論点になりやすい項目」の事情を知っている
- 経営者様個人の税務(所得・相続の状況)まで見えている場合が多い
- 売却に伴う税負担の試算を、実際の数字に基づいて行える
限界|M&A実務は専門外の場合がある
一方で、税理士の業務の中心は日常の税務顧問・申告業務であり、M&Aの実務経験は事務所によって差があるのが実情です。買い手候補の探索網を持っているわけではなく、企業概要書の作成、交渉の進行、契約条件の調整といったM&A固有のプロセスは専門外という場合もあります。これは能力の優劣ではなく、専門領域の違いです。
つまり、「顧問税理士に任せれば売却まで完結する」わけでも、「顧問税理士抜きで進めてよい」わけでもありません。M&Aの進行は仲介会社が、税務の検証は顧問税理士が担う——この役割分担が、双方の強みを活かす現実的な形です。
どの段階で共有するか|一般的な進め方
では、顧問税理士にはどの段階で共有すればよいのでしょうか。決まった正解はありませんが、実務では次のような進め方が多く見られます。
検討初期|仲介会社と秘密保持のうえで検討
「売るかどうかもまだ決めていない」という段階では、仲介会社と秘密保持契約(NDA)を締結したうえで、譲渡価格の目安や進め方の情報収集を行うケースが一般的です。この段階なら、社内外の誰にも知られずに、売却が選択肢になり得るかどうかを見極められます。
方向性が固まった段階|顧問税理士へ共有
売却の方向で進めると決めた段階、遅くとも買い手候補との具体的な交渉に入る前後で、顧問税理士に共有する進め方が多く見られます。スキームの税務検証や資料の整備など、顧問税理士の協力が実務上不可欠になるためです。もちろん、信頼関係が厚く最初から相談したいという場合には、検討初期から共有して差し支えありません。
共有する際のポイント
- M&Aの検討が秘匿性の高い情報であることを伝え、取り扱いに配慮してもらう
- 「相談」なのか「決定の報告」なのか、自分の中で位置づけを明確にして話す
- 仲介会社との面談に同席してもらうなど、三者で認識を揃える場を早めに設ける
顧問税理士に担ってもらいたい役割
M&Aのプロセスにおいて、顧問税理士に担っていただきたい役割は主に次の三つです。
1. 売却スキームの税務影響の検証
株式譲渡か事業譲渡か、役員退職金と組み合わせるか——スキームによって税負担は変わります。株式譲渡益への課税(20.315%)を前提に、実際の数字に基づいて手取り額を試算し、スキームの妥当性を検証する役割は、自社の数字を知る顧問税理士の独壇場です。税金の基本は「会社売却にかかる税金|株式譲渡益課税と手取り額の考え方」をご参照ください。
2. 株価算定・企業概要書のための資料整備
譲渡価格の目安を算定するには、直近数期分の決算書・税務申告書・勘定科目内訳明細書などの資料が必要です。これらを迅速かつ正確に揃えられるかどうかで、検討のスピードは大きく変わります。顧問税理士の協力があれば、資料の準備は格段にスムーズになります。
3. デューデリジェンス(DD)への対応支援
基本合意後には、買い手側による財務・税務のデューデリジェンスが行われます。会計処理や税務処理に関する質問への回答、根拠資料の提出など、顧問税理士のサポートが最も力を発揮する場面です。DDの流れと売り手の準備は「デューデリジェンス(DD)とは|調査項目と売り手の準備」で詳しく解説しています。
仲介会社と顧問税理士の連携の実際
実際のM&Aでは、仲介会社と顧問税理士は対立する存在ではなく、役割を分担する協力関係にあります。典型的な分担は次のとおりです。
| 場面 | 仲介会社の役割 | 顧問税理士の役割 |
|---|---|---|
| 検討初期 | 秘密保持のうえ情報提供・価格目安の提示 | (共有後)税負担の試算・意見 |
| 相手探し・交渉 | 買い手候補の探索・条件交渉の調整 | スキームの税務面の検証 |
| DD | プロセス全体の進行管理 | 財務・税務の質問対応・資料提出支援 |
| 成約後 | クロージングの実務調整 | 譲渡所得の確定申告 |
連携がうまくいくコツは、早い段階で三者(経営者様・仲介会社・顧問税理士)の顔合わせを行い、情報共有のルールと役割分担を確認しておくことです。仲介会社が税理士に説明を尽くし、税理士の指摘をプロセスに反映する——この往復が機能している案件ほど、交渉も手続きも安定して進みます。
当社のスタンス|顧問税理士・弁護士との連携を歓迎します
当社プラチナパートナーズは、依頼者様の顧問税理士・弁護士との連携を歓迎しています。当社は売り手・買い手双方から報酬を受領する仲介形態であり、両当事者の間に立つ調整役です。だからこそ、依頼者様の側に立って税務・法務を検証する専門家の存在は、取引の質と依頼者様の安心を高める大切なパートナーだと考えています。
初回のご相談に顧問税理士に同席いただくことも、方向性が固まってから共有する進め方も、どちらにも対応します。「まだ顧問税理士には話していない」という段階のご相談も、秘密保持を徹底のうえでお受けしていますので、無料相談からお気軽にお聞かせください。
よくあるご質問
Free Consultation
顧問税理士に話す前でも、話した後でも。
秘密保持を徹底のうえ、検討段階のご相談からお受けします。顧問税理士・弁護士の同席も歓迎です。
メール(info@platinumpartners.jp)でも承ります。