工務店は、地域で注文住宅を建て、建てた後の修繕やリフォームを続けていく事業です。大手の住宅メーカーとは違い、設計から施工、引き渡し後の付き合いまでを地域の中で完結させているのが特徴です。
譲渡の場面で見られるのは、受注の残高よりも、その受注を取れている理由と、建てた後の責任をどう引き継ぐかです。住宅は引き渡し後も長く責任が続く商品なので、他の建設業とは違う論点が出ます。ここでは順に整理します。
許可と、技術者の要件
建設業の許可が前提になります。一定金額以上の工事を請け負うには許可が必要で、許可には経営業務の管理を担う者と、営業所ごとの専任技術者を置く要件があります。許可の種類(知事許可か大臣許可か、一般か特定か)と、業種の区分も確認されます。
株式譲渡の形であれば、会社が持つ許可はそのまま残ります。ただし、許可の要件を満たしている人が辞めると、要件を満たせなくなります。経営者自身が経営業務の管理を担う者になっている場合、交代後に誰が担うのかが条件になります。事業譲渡の形では、譲り受ける側が自ら許可を持っている必要があります。
加えて、建築士事務所の登録をしている場合は、管理建築士の要件があります。設計を自社で行っている工務店では、ここが論点になります。資格者が1人しかいない会社では、その人の処遇が最初に問われます。
要件の詳細は制度で定められており改正もあるため、行政庁の公表資料と、行政書士・弁護士に確認してください。
職人と下請けの体制
工務店の施工は、自社の社員と、長く付き合っている下請けの職人で成り立っています。大工、基礎、屋根、板金、電気、設備、内装といった職種ごとに、頼める相手がいるかどうかが施工能力そのものです。
引き継ぐ側が見るのは、この関係が会社に属しているのか、経営者個人に属しているのかです。発注の判断、単価の決め方、工程の調整を経営者が1人で握っている会社では、交代後に職人が離れる懸念が残ります。
確かめられるのは、下請けごとの取引の記録があるか、単価の表があるか、現場の管理を担う社員がいるか、若手が入っているかです。職人の高齢化は業界に共通する課題で、それ自体は減点になりません。論点は「その後どう続けるのか」が見えるかどうかです。
譲渡の前にできることとして、発注の記録を残す、単価を表にする、現場監督を複数体制にする、といった形で集中を薄められます。
進行中の工事と、受注残の中身
住宅の工事は着工から引き渡しまで数か月から1年かかり、その間に代金を分割で受け取ります。したがって譲渡の時点で、進行中の現場がいくつもある状態になります。
引き継ぐ側が見るのは、進行中の現場ごとの入金と支出の状況、着工していないが契約済みの案件がいくらあるか、見積りの前提と実際の原価が離れていないかです。資材の価格が上がった後に、上がる前の見積りで契約した案件が残っていると、その現場は赤字になります。
加えて、工期の遅れがある現場、施主との間で話がついていない変更がある現場は、引き継いだ側が処理することになります。これらは調査の段階で現場ごとに確認されます。
受注残の金額だけを示すのではなく、現場ごとの進捗と採算を出せる状態にしておくと、説明が通ります。原価の管理が現場ごとにできていない会社では、ここで評価が下がります。
引き渡し後の責任が、長く続く
住宅には、引き渡し後の責任が法律で定められています。住宅の品質確保の促進等に関する法律により、新築住宅の構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分について、一定期間の瑕疵担保の責任が定められています。あわせて、住宅瑕疵担保履行法により、資力を確保する措置(保険への加入または保証金の供託)が求められます。
引き継ぐ側から見ると、過去に建てた住宅の責任が、そのまま付いてきます。株式譲渡であれば、会社が負っている責任は会社に残ります。したがって、過去の施工で問題が起きていないか、クレームが残っていないか、保険に加入しているかが調査の対象になります。
さらに、法律上の責任を超えて、自社で長期の保証を出している工務店があります。この保証の内容と、対象となる棟数は、引き継ぐ側の将来の負担です。保証の条件を文書で整理しておく必要があります。
アフターの体制も見られます。建てた施主からの修繕の依頼は、継続的な売上になる一方で、人手を使います。この両面が評価されます。
引き継ぐ側の動機
工務店を買う側の動機は、次のように分かれます。
- 同業が地域を広げる。別の地域の工務店が、商圏を加える形。職人の相互の応援や、資材のまとめ買いが見込めます。
- 住宅メーカーやビルダーが施工力を得る。営業の力はあるが施工が足りない会社が、施工の体制を取り込む形。
- 不動産業が建築を取り込む。土地の仕入れや仲介を手がける会社が、建てる機能を持つ形。
- リフォーム会社が新築を加える。あるいはその逆。
どの動機でも、見られるのは施工できる体制が続くかどうかです。受注は営業で作れますが、建てる人は短期間では揃いません。
加えて、地域での屋号の扱いが論点になります。長く地域で建ててきた名前は、施主から見れば保証の相手でもあります。名前を残すか変えるかは、アフターの受け皿をどうするかと一緒に決める話です。
許可の承継、契約の引き継ぎ、税務の扱いは個別の事情で変わります。実際に進める際は、弁護士・税理士・行政書士に確認してください。