利益が出ていない部門がある。譲渡の前に畳むべきか、そのまま引き継いでもらうか。答えは条件によって分かれます。判断の材料を整理します。

まず、本当に不採算かを確かめる

判断の前に、数字を正確にしてください。

中小企業では、部門別の損益が出ていないことが珍しくありません。感覚で「あの部門は赤字だ」と思っているだけ、という場合があります。

確認すべきは、共通費の配賦です。本社経費、社長の報酬、家賃をどう振り分けているか。配賦の仕方で、黒字にも赤字にもなります。

そして、限界利益で見てください。売上から変動費だけを引いた利益。これがプラスなら、その部門は固定費の回収に貢献しています。

畳めば、その分の固定費が他の部門にのしかかります。

切ったほうがよい場合

整理を検討すべき条件を挙げます。

限界利益がマイナス。売れば売るほど赤字。続ける理由がありません。

市場が縮小している。回復の見込みがない。

人と設備を専有している。他の部門に振り向けられる資源がある。

本業と関係がない。買い手にとって不要。

リスクを抱えている。許認可、環境、労務。

これらに当てはまるなら、譲渡の前に整理したほうが、価格にも交渉にもプラスに働きます。

そのまま渡したほうがよい場合

逆のケースです。

限界利益が出ている。固定費の回収に貢献している。

買い手にとって価値がある。自社に無い技術、顧客、許認可。売り手には不採算でも、買い手の事業と組み合わせれば黒字になることがあります。

撤退に費用と時間がかかる。人員、設備、契約の解除。

他の部門と切り離せない。顧客が重なっている、設備を共有している。

この場合、無理に切らないでください。撤退の費用で純資産が減り、かえって不利になります。

切る場合の手順

整理を選ぶ場合の実務です。時間がかかります。

① 撤退の範囲を決める。部門全体か、特定の商品・顧客か。

② 従業員の処遇を決める。配置転換が最優先。解雇は最後の手段で、法的な要件が厳しい。

③ 取引先に伝える。予告期間を守る。契約の解除条項を確認する。

④ 設備・在庫を処分する。売却、廃棄、他部門への転用。

⑤ 賃貸借・リースを解約する。違約金が生じることがあります。

6か月から1年を見ておいてください。そして、必ず社会保険労務士・弁護士に相談してください。

撤退の費用を計算する

判断の材料として、撤退にかかる費用を見積もってください。

従業員。配置転換の教育費用、あるいは退職金・解決金。

設備。除却損、撤去費用、原状回復。

在庫。評価損、処分費用。

契約。解約金、違約金、リースの残債。

取引先。損害賠償を求められる可能性。

これを合計し、その部門の年間赤字額と比べてください。

撤退費用が赤字の3年分を超えるなら、そのまま渡すほうが合理的かもしれません。

買い手にどう説明するか

そのまま渡す場合の伝え方です。

隠さないこと。デューデリジェンスで必ず分かります。

示すべきは、部門別の損益と、赤字の理由撤退した場合の影響です。

「この部門は営業利益で年◯円の赤字ですが、限界利益は◯円のプラスで、固定費の回収に貢献しています。撤退すると、他部門の負担が◯円増えます」。

この説明ができると、単純な減額要因ではなくなります。

また、買い手側で改善できる可能性があれば、それも伝えてください。「調達を共通化すれば原価が下がる余地があります」。

価格への影響

実際の交渉での扱いです。

不採算部門があると、正常収益力から差し引かれるのが通常です。

ただし、買い手が撤退を前提にする場合、その撤退費用も価格から引かれます。

つまり、売り手が先に整理しておけば、その費用を自分で負担する代わりに、価格の減額を避けられるという構造です。

どちらが有利かは、撤退費用の金額と、減額される見込み額の比較になります。

買い手によって、評価が分かれる部門もあります。同業なら不要でも、異業種なら価値がある。複数の候補に当たってから判断するのも一案です。

部門ごとに売るという選択

もう一つの形です。不採算部門だけを、別の相手に譲渡する。

その部門を欲しがる会社が、別に存在することがあります。同業、あるいはその市場に参入したい会社。

手続きは事業譲渡になります。資産・契約・従業員を個別に移すため、手間はかかります。

また、従業員の同意が必要です(事業譲渡では雇用契約は自動的には承継されません)。

「畳む」と「売る」では、従業員にとっての意味がまったく違います。雇用が続くなら、納得も得やすい。

畳むと決める前に、引き受け手を探す価値はあります。のれん分けという選択もご覧ください。

判断の順序

まとめます。次の順で検討してください。

① 部門別の損益を正確に出す。共通費の配賦を確認し、限界利益で見る。

② 撤退費用を見積もる。

③ 買い手にとっての価値を考える。不要か、価値があるか。

④ 引き受け手を探せないか検討する。

⑤ そのうえで、切るか渡すかを決める。

①を飛ばして判断しないでください。「赤字だから切る」は、限界利益を見ていない判断かもしれません。

数字を出すのに、1〜2か月。それだけの価値があります。

※ 本稿は一般的な考え方をご紹介するものであり、個別の法務・税務アドバイスではありません。実際の取り扱いは会社の状況や契約の定めによって異なります。専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.条件によります。限界利益がマイナス、市場が縮小している、人と設備を専有している、本業と関係がない、リスクを抱えている、という場合は整理を検討してください。逆に限界利益が出ていれば、畳むとその分の固定費が他部門にのしかかります。
A.共通費の配賦を確認してください。本社経費・社長の報酬・家賃の振り分け方で、黒字にも赤字にもなります。そして限界利益(売上から変動費だけを引いた利益)で見てください。これがプラスなら固定費の回収に貢献しています。
A.撤退の範囲決定、従業員の処遇(配置転換が最優先、解雇は法的要件が厳しい)、取引先への予告、設備・在庫の処分、賃貸借・リースの解約で、6か月から1年を見てください。必ず社会保険労務士・弁護士にご相談ください。
A.従業員(配置転換の教育費、退職金)、設備(除却損・撤去・原状回復)、在庫(評価損・処分費)、契約(解約金・リース残債)を合計し、その部門の年間赤字額と比べてください。撤退費用が赤字の3年分を超えるなら、そのまま渡すほうが合理的かもしれません。
A.隠さず、部門別の損益・赤字の理由・撤退した場合の影響を示してください。「営業利益で年◯円の赤字ですが、限界利益は◯円のプラスで固定費の回収に貢献しており、撤退すると他部門の負担が◯円増えます」という説明ができると、単純な減額要因ではなくなります。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら