人が採れない。欠員を抱えたまま、譲渡できるのか。結論から言えばできますが、見られ方が変わります。どう示すかを整理します。

買い手はどこを見るか

買い手が確認するのは3点です。

① 事業は回っているか。欠員があっても受注をこなせているなら、大きな問題にはなりません。

② 受注を断っているか。人が足りずに仕事を断っているなら、それは伸びしろでもあり、制約でもあります。

③ 残った人に負荷が集中していないか。長時間労働、離職の連鎖。ここが最も警戒されます。

とくに③は、未払残業代のリスクにも直結します。労務デューデリジェンスで見られる論点です。

欠員の内容を整理する

示すべき資料を挙げます。

現在の人員と、必要な人員。部門別・職種別に。

欠員の期間。いつから空いているか。

募集の状況。どの媒体で、何人応募があり、何人面接し、何人採用に至ったか。

離職の状況。過去3年の入退社。理由の内訳も。

欠員による影響。断った受注、残業時間の推移、外注への振り替え。

この5つが出せると、状況が正確に伝わります。「人手が足りない」という言葉だけでは、程度が分かりません。

業界全体の問題なら、そう示す

重要な区別です。自社固有の問題か、業界全体の問題か。

建設、運送、介護、飲食、製造の現場職。採用難は業界全体の構造です。

この場合、買い手も同じ状況を知っています。むしろ、「人を確保できている会社」として価値が上がることもあります。

示す材料としては、有効求人倍率など公的統計があります。ただし、数値を使うときは出典名と公表年を必ず併記してください。

逆に、同業は採れているのに自社だけ採れない場合は、賃金水準、労働条件、評判に原因があります。ここは正直に見てください。

離職率が高い場合

最も重く見られる状況です。人が採れないのではなく、辞めていく。

買い手が知りたいのは、辞める理由です。

賃金。同業と比べて低い。

労働時間。長時間労働が常態化している。

人間関係。特定の管理者に集中していないか。

仕事の内容。きつい、将来が見えない。

理由が特定できて、対策が取れるものなら、説明できます。「賃金を昨年見直し、その後の離職は止まっています」。

理由が分からない、あるいは対策を取っていない場合は、価格に影響します。

採用を進めるべきか

譲渡の前に採用すべきかという判断です。

進めるべき場合。受注を断っている、特定の資格者が欠けている(許認可の要件など)、残業が恒常化している。いずれも、放置すると価値が下がります。

急がなくてよい場合。事業が回っている、買い手側で人を補える見込みがある。

注意点として、譲渡の直前に採用すると、教育が済んでいない状態で引き渡すことになります。人件費だけが増えて、戦力になっていない。

採用するなら、1年前には着手してください。

外注・派遣で埋めている場合

実務でよくある形です。正社員が採れないので、外注や派遣で回している。

買い手の見方は分かれます。

柔軟性があると評価されることもあれば、コストが高い・品質が安定しないと見られることもあります。

確認されるのは、契約の形です。請負なのか、派遣なのか、業務委託なのか。

実態と契約が合っていない場合、労務上の問題になり得ます。指揮命令の有無、就業場所、時間管理。

ここはデューデリジェンスで見られます。社会保険労務士に確認してもらってください。

人手不足が価値になる場合

視点を変えます。買い手にとって、人手不足が理由で買うことがあります。

自社に人がいて、仕事が足りない。あるいは、その地域・業種で人を採るより、会社ごと買うほうが早い。

とくに、有資格者がいる会社は価値があります。建設業の技術者、運送業の運行管理者、介護の管理者。

「人が採れない業界だからこそ、人がいる会社に価値がある」という構造です。

したがって、在籍している人の資格と経験を、きちんと示してください。資格の一覧、勤続年数、年齢構成。

欠員より、在籍者の価値を先に伝える。

年齢構成を示す

あわせて確認される項目です。従業員の年齢分布。

高齢に偏っていれば、数年で大量の退職が発生します。買い手はそれを織り込みます。

若手がいなければ、技能の承継ができません。

示すべきは、年代別の人数と、今後5年の定年退職予定

そして、その対策。採用計画、定年後の再雇用、技能の文書化。

「対策を考えている」と示せるかどうかで、評価が変わります。何も考えていない会社と、計画がある会社では、買い手の不安が違います。

正直に示すのが最短

最後に、方針の整理です。

人手不足は、隠せません。組織図、給与台帳、残業時間の記録を見れば分かります。

したがって、先に出してください。「現在◯名の欠員があり、◯月から募集していますが、応募が◯件にとどまっています」。

そのうえで、事業への影響と、対策を示す。

買い手にとって、人手不足そのものより、把握していないことのほうが不安です。

そして、買い手側で解決できる場合があることも忘れないでください。グループの人材、採用力、待遇。売り手には解けない問題が、買い手には解けることがあります。

※ 本稿は一般的な考え方をご紹介するものであり、個別の法務・税務アドバイスではありません。実際の取り扱いは会社の状況や契約の定めによって異なります。専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.できます。買い手が見るのは、事業が回っているか、受注を断っているか、残った人に負荷が集中していないかの3点です。とくに3つ目は未払残業代のリスクにも直結し、労務デューデリジェンスで見られます。
A.現在の人員と必要な人員(部門別・職種別)、欠員の期間、募集の状況(媒体・応募数・面接数・採用数)、過去3年の入退社と離職理由、欠員による影響(断った受注・残業時間の推移・外注への振り替え)の5つです。
A.最も重く見られます。買い手が知りたいのは辞める理由(賃金・労働時間・人間関係・仕事の内容)です。理由が特定でき対策を取っているなら説明できますが、理由が分からない、対策を取っていない場合は価格に影響します。
A.受注を断っている、許認可の要件となる資格者が欠けている、残業が恒常化している、という場合は進めてください。ただし直前の採用は、教育が済んでいない状態で引き渡すことになります。採用するなら1年前には着手してください。
A.あります。買い手が「その地域・業種で人を採るより会社ごと買うほうが早い」と考える場合です。とくに有資格者がいる会社は価値があります。在籍している人の資格・勤続年数・年齢構成をきちんと示し、欠員より在籍者の価値を先に伝えてください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら