10年前に結んだ取引基本契約が、そのままになっている。期限が切れているものもある。デューデリジェンスで必ず見られる項目です。整え方を解説します。

まず、一覧を作る

最初の作業は棚卸しです。契約書をすべて集めて、表にしてください。

列は、相手先 / 契約名 / 締結日 / 有効期限 / 自動更新の有無 / 支配権の異動に関する条項 / 原本の所在。

集める場所は、金庫、書庫、社長の机、経理のキャビネット、担当者の引き出し。

この作業で、必ず「無い」ものが出ます。それも記録してください。

一覧を作るだけで、デューデリジェンスの対応時間が大きく減ります。

期限切れが示すもの

買い手から見た意味を整理します。

法的な根拠が曖昧。期限が切れた契約に基づく取引は、条件の根拠が不明確になります。

管理ができていない。他の書類も同様だろう、と見られます。

相手方の意向が読めない。更新していないのは、相手が更新を望んでいないからかもしれない。

ただし、実務上は、期限が切れても取引が続いていることが普通です。慣行として同じ条件で継続している。

この実態を説明できるようにしてください。「期限は切れているが、条件は変わらず継続している」。

自動更新条項を確認する

多くの取引基本契約には、自動更新の定めがあります。

「期間満了の3か月前までに双方いずれからも申出がないときは、同一条件でさらに1年間更新されるものとし、以後も同様とする」。

この条項があれば、期限切れではありません。自動的に更新されています。

したがって、まず条項の有無を確認してください。「期限が切れている」と思っていたものが、実は有効かもしれません。

逆に、条項が無く、期限を過ぎているものは、法的には契約が終了している可能性があります。ここは弁護士にご確認ください。

支配権の異動に関する条項

M&Aで最も重要な確認事項です。

取引基本契約に、株主や代表者の変更について定めた条項があることがあります。

事前の承諾を要する。通知を要する。解除事由とされている。

これがあると、クロージング前に相手方の承諾または通知が必要になります。

主要な取引先の契約に解除条項があれば、買い手の評価が変わります。

一覧を作る段階で、この条項の有無を必ず記録してください。チェンジオブコントロール条項もご覧ください。

更新するかどうかの判断

期限が切れている契約を、今から結び直すべきか。

判断の材料を挙げます。

結び直すべき場合。取引額が大きい、条件が曖昧、相手が上場企業などで書面を重視する、支配権の条項を入れたい・外したい。

そのままでよい場合。取引額が小さい、長年同じ条件で問題なく続いている、相手も書面を気にしていない。

注意すべき点があります。結び直すと、条件が見直される可能性があります。相手にとっても交渉の機会になるためです。

不利な条件に変わるリスクを考えたうえで判断してください。

更新するときの伝え方

相手に不自然に思われない進め方です。

理由の説明。「社内の書類を整理している」「管理体制を見直している」。M&Aのためとは言えません。

一斉にやらない。全取引先に同時に連絡すると、何かあると勘繰られます。

主要な取引先から、順次。数か月かけて、自然な頻度で。

契約書の内容は大きく変えない。条件を変えようとすると、交渉が始まります。期間と当事者だけを更新する形にすると、相手も応じやすい。

時間をかけてください。譲渡の話が具体化してから急に始めると、必ず疑われます。

契約が無い取引の扱い

書面そのものが存在しない取引もあります。

今から結べるなら、結んでください。ただし、上と同じ配慮が要ります。

結べない場合、取引の実態を示す資料を揃えてください。

注文書・請書。見積書。請求書と入金の記録。納品書。

これらで、取引条件、数量、期間が分かります。

そして、買い手には正直に伝えてください。「書面の契約はありませんが、こうした資料で条件が確認できます」。隠すより、はるかに良い結果になります。口約束の取引を契約書にするもご覧ください。

原本の管理を整える

あわせて整えるべき点です。

原本がどこにあるか。金庫か、ファイルか、担当者の手元か。

写しがあるか。原本を紛失した場合に備えて。

電子化されているか。スキャンして保存しておくと、デューデリジェンスでの提出が楽になります。

誰が管理しているか。その人が辞めたら分からなくなる状態を避ける。

そして、更新期限を管理する仕組みを作ってください。カレンダーに登録し、期限の3か月前に通知が来るようにする。

これは譲渡後も、買い手が引き継いで使えます。

1年前から始める

時期の話です。この作業は、譲渡を考え始めた時点で着手してください。

理由は2つ。時間がかかることと、案件が動いてから始めると不自然なことです。

一覧を作るのに数週間、相手との更新に数か月。主要な取引先を回るだけで半年かかることもあります。

そして、整えた状態で1期を過ごせば、それが平常の姿になります。

デューデリジェンスで指摘されてから直すのと、最初から整っているのとでは、評価がまったく違います。

費用はほとんどかかりません。時間だけが必要な作業です。

※ 本稿は一般的な考え方をご紹介するものであり、個別の法務・税務アドバイスではありません。実際の取り扱いは会社の状況や契約の定めによって異なります。専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.買い手からは、法的な根拠が曖昧、管理ができていない、相手方の意向が読めない、と見られます。ただし実務上は期限が切れても取引が続いていることが普通です。「期限は切れているが条件は変わらず継続している」と説明できるようにしてください。
A.「期間満了の3か月前までに双方いずれからも申出がないときは、同一条件でさらに1年間更新される」といった定めです。この条項があれば期限切れではなく自動的に更新されています。まず条項の有無を確認してください。
A.支配権の異動に関する条項です。株主や代表者の変更について、事前の承諾を要する・通知を要する・解除事由とされている、といった定めがあると、クロージング前に相手方の承諾または通知が必要になります。一覧を作る段階で必ず記録してください。
A.取引額が大きい、条件が曖昧、相手が書面を重視する、支配権の条項を入れたい・外したい、という場合は結び直してください。ただし結び直すと相手にとっても交渉の機会になり、条件が見直される可能性があります。
A.「社内の書類を整理している」「管理体制を見直している」という理由で、一斉ではなく主要な取引先から順次、数か月かけて進めてください。内容は大きく変えず、期間と当事者だけを更新する形にすると相手も応じやすくなります。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら