デューデリジェンスが始まると、買い手側から資料の依頼リストが届きます。契約書、議事録、台帳、就業規則、許可証、保険証券——数十から百を超える項目になることも珍しくありません。このとき、資料がどこにあるか分かっている会社と、探すところから始める会社では、進行の速さも売り手側の負担もまったく違います。本稿では、売却を考える段階で行っておきたい社内資料の棚卸しについて、手順と優先順位を整理します。

資料が探せないことの、目に見えないコスト

資料が散在していると、まず時間を失います。依頼リストへの回答が遅れれば、それだけ検討期間が延び、その間に買い手側の事情が変わることもあります。M&Aは時間が経つほど不確実性が増す取引です。

次に、負担が社長に集中します。どこに何があるかを知っているのが社長だけという会社では、資料探しが社長の仕事になります。本業を進めながらの対応は現実的に重く、これが検討の途中で疲弊してしまう原因になることもあります。

そして、印象の問題があります。依頼した資料が出てこない、出てきた資料が最新版か分からない、という状況が続くと、買い手は「管理が行き届いていない会社」という前提で他の説明も聞くようになります。事業の実力とは別のところで評価が動くのは、もったいないことです。

どんな資料が求められるか

案件によって範囲は異なりますが、中小企業の譲渡で共通して求められるのは、おおむね次の領域です。まずはこの分類で、社内のどこにあるかを確認します。

  • 会社の基本:定款、登記事項証明書、株主名簿、株主総会・取締役会の議事録
  • 財務:決算書と申告書(3〜5期)、総勘定元帳、試算表、資金繰り表
  • 契約:取引基本契約、賃貸借契約、リース契約、借入の契約書、保険証券
  • 人事労務:就業規則、賃金規程、雇用契約書、勤怠記録、社会保険関係
  • 資産:固定資産台帳、不動産の登記、車両・設備の一覧、在庫の管理資料
  • 許認可・法務:許可証、届出の控え、知的財産の登録、係争の記録

これらは会社に存在しているはずのものですが、保管場所が経理、総務、現場、税理士事務所、社長の自宅などに分かれているのが実情です。棚卸しの目的は、集めることではなく、どこに何があるかを一覧にすることです。

調査の全体像は「デューデリジェンス(DD)とは」で解説しています。あわせてご覧ください。

棚卸しの進め方|一覧を作るところから

実務的な手順は次のとおりです。数日から数週間で、ひととおりの見通しが立ちます。

  • 上記の分類で、想定される資料を書き出す
  • それぞれについて、所在(場所・担当者)と最新版の年月を記入する
  • 見つからないもの、存在しないものに印をつける
  • 存在しないものについて、作るべきか、なくてよいかを判断する
  • 更新が止まっているもの(就業規則、組織図など)を洗い出す

この作業は、社長がひとりで行う必要はありません。経理・総務の担当者に「書類の保管状況を整理したい」という趣旨で依頼すれば、M&Aに触れずに進められます。情報管理の考え方は「秘密保持の重要性」をご参照ください。

なお、原本を一か所に集める必要はありません。所在が分かっていれば足ります。むしろ、普段使う書類を移動させると業務に支障が出ることもあります。

見つからないことが多い資料

棚卸しをすると、次のような資料が見当たらないことがよくあります。いずれも、あとから対応できるものです。

株主総会・取締役会の議事録。中小企業では作成が形骸化していることがあります。過去分をさかのぼって作ることは適切ではありませんが、今後の運用を整えることはできます。必要な決議が行われていたかの確認と、記録の残し方については、司法書士や弁護士など専門家にご相談ください。

取引基本契約書。長年の取引が口頭や注文書のやり取りだけで続いているケースです。これは今からでも締結できます。

雇用契約書・労働条件通知書。古くから勤めている従業員の分が見当たらないことがあります。労務の整備は買い手の関心が高い領域ですので、社会保険労務士など専門家に相談のうえ整えておくとよいでしょう。

株主名簿。名義と実態が一致しているかの確認も含め、早めに手をつけたい項目です。株式が分散している場合、集約には時間がかかります。

整理の副産物|自社の現在地が見える

資料の棚卸しには、M&Aの準備以外の効果もあります。契約の期限が一覧になれば更新漏れを防げますし、労務の未整備が見つかれば、それは今の会社にとってのリスクでもあります。

また、資料を並べることで、自社の姿を外から見る機会になります。決算書だけでは見えなかった費用の中身、実態と合っていない規程、使われていない資産。これらは磨き上げの対象になります。磨き上げの全体像は「企業価値を高める磨き上げ」で整理しています。

逆に、棚卸しをしてみたら思ったより整っていた、という会社もあります。それが分かれば、準備に時間をかけずに検討を進めるという判断もできます。いずれにせよ、現在地が分かることに意味があります。

整理は「作る」より「在りかを知る」|まとめ

売却の準備として資料を整えるというと、新しく何かを作る作業を想像されるかもしれません。しかし実際に効くのは、すでにあるものの所在を知っていることです。これは費用もかからず、今日から始められます。

そのうえで、存在しないと分かったものについて、必要なら作る。優先順位は、契約書と労務関係、そして株主名簿です。いずれも整えるのに時間がかかり、かつ買い手の関心が高い領域だからです。

当社では、初回のご相談の段階で、業種と規模に応じた資料の一覧をお渡しし、棚卸しの進め方をお伝えしています。相談料・着手金・月額報酬は0円ですので、売却時期が定まっていない段階でもお気軽にご相談ください。

よくあるご質問

A.売却を意識した段階で始めて早すぎることはありません。所在の一覧を作るだけなら数日から数週間です。契約書の締結や労務の整備など、作るのに時間がかかるものが見つかることもあるため、早いほど選択肢が増えます。
A.書類の保管状況を整理したい、という趣旨で依頼すれば、通常の業務改善として進められます。実際、資料の所在を把握することは売却の有無にかかわらず有用ですので、目的の説明に無理はありません。
A.過去にさかのぼって作成することは適切ではありません。必要な決議が行われていたかの確認と、今後の記録の残し方について、司法書士や弁護士など専門家にご相談のうえ対応されることをおすすめします。

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相談料・着手金・月額報酬は0円です。基本合意時の中間金と成功報酬については料金体系をご覧ください。業種と規模に応じた資料一覧をお渡しします。
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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら