地味ですが、止まると現場が困ります。社用車、リース中の設備、保険、カード類。株式譲渡なら名義は変わりませんが、確認すべきことはあります。

株式譲渡なら、名義はそのまま

まず前提です。株式譲渡では法人格が変わらないため、車検証の所有者・使用者の名義も、リース契約も、保険契約もそのまま継続します。

「名義変更が必要」と思い込んで手続きを始めると、余計な費用と手間がかかります。

変更が必要になるのは、本店を移転した場合の使用の本拠の位置商号を変更した場合の名称です。これらは車検証の記載事項なので、変更登録が要ります。

事業譲渡の場合は別です。一台ずつ移転の手続きが必要になります。

自動車保険の等級を確認する

見落とすと金額に効く論点です。法人契約の自動車保険には、ノンフリート等級やフリート契約があります。

所有・使用する車両が10台以上ある場合、フリート契約となり、保険料は会社全体の事故率で決まります。

ここで注意すべきは、買収後にグループの他社と契約をまとめようとする場合です。契約を切り替えると、積み上げてきた割引が失われることがあります。

保険料を下げるつもりで、かえって上がることがあります。切り替える前に、代理店に試算してもらってください。

運転者の範囲と年齢条件

実務で事故につながる論点です。保険の運転者限定の条件を確認してください。

「記名被保険者本人と配偶者に限定」「35歳以上」といった条件が付いていると、買収後に本社から来た社員が運転して事故を起こした場合、補償されないおそれがあります。

法人契約では通常、運転者の限定は付けませんが、小規模な会社では個人契約に近い形で加入していることがあります。

買収後に運転する人が変わるなら、必ず条件を見直してください。保険料は上がりますが、事故のときに支払われないほうが高くつきます。

リース契約の支配権条項

確認すべき契約条項です。リース契約に、支配権の異動に関する条項が入っていることがあります。

「賃借人の株主構成に重大な変更が生じた場合、賃貸人は契約を解除できる」といった定めです。

実際に解除されることは稀ですが、通知義務が定められている場合、履行しないこと自体が契約違反になります。

デューデリジェンスの段階でリース契約を一覧にし、該当する条項があれば、クロージング前後に通知または承諾の取得を行ってください。

リースの残債と中途解約

買収後に不要な資産が出ることがあります。使っていない設備、過大な車両。

リースは、原則として中途解約できません。解約する場合、残リース料相当額の違約金を求められるのが通常です。

したがって、デューデリジェンスの段階でリースの残債と残期間を把握してください。「不要なら解約すればよい」という前提で価格を考えると、想定が狂います。

また、リース資産は貸借対照表に載らない場合があります。(会計基準や契約の形態によります)。契約書で確認してください。決算書だけを見ていると見落とします。

ETC・ガソリンカード・高速道路の割引

細かいのですが、止まると現場が困る類です。

ETCカード。法人契約のクレジットカードに紐づいています。カードの名義人が前経営者個人であることがあります。退任すると使えなくなります。

ガソリンカード。同様です。

高速道路の大口・多頻度割引。契約者の変更手続きが要る場合があります。

これらはクロージングの翌日に使えないと、配送が止まります。前経営者が退任する日と、カードの切り替え日を合わせてください。

車検と定期点検の管理

引き継ぎで抜けやすい実務です。

車検の時期は車両ごとに違います。誰が管理していたのかを確認してください。前経営者や特定の従業員が把握しているだけという会社があります。

一覧を作ってください。車両番号、車種、初度登録、車検満了日、使用者、点検整備の記録。

また、整備を頼んでいる工場との関係も引き継ぎます。長年の付き合いで融通が利いていることがあり、安いからと切り替えると、緊急時に対応してもらえなくなることがあります。

駐車場の契約

あわせて確認してください。社用車の駐車場が、前経営者個人の名義で借りられていることがあります。

あるいは、前経営者が所有する土地を無償で使っている場合。譲渡後にその土地が使えなくなれば、車両の置き場がなくなります。

デューデリジェンスで、事業に使っている不動産の所有と契約の状況を確認してください。「昔からここに置いている」という状態は、契約がないことを意味します。

譲渡の前に、書面の賃貸借契約を結び直してもらうのが確実です。

チェックリストにして渡す

まとめます。この領域は、難しくはないが、数が多い。だから抜けます。

クロージング後のチェックリストに、次を入れてください。

車検証の記載事項の変更(本店移転・商号変更があった場合) / 自動車保険の契約内容と運転者の条件 / リース契約の通知義務 / ETC・ガソリンカードの名義 / 車検・点検の期限一覧 / 駐車場の契約

担当者を決めて、期限を切る。これだけで、現場が止まる事故はほぼ防げます。許認可・契約の名義変更も併せてご覧ください。

※ 本稿は一般的な考え方をご紹介するものであり、個別の法務・税務アドバイスではありません。実際の取り扱いは会社の状況や契約の定めによって異なります。専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.法人格が変わらないため、車検証の名義もリース契約も保険契約もそのまま継続します。変更が必要なのは、本店を移転した場合の使用の本拠の位置と、商号を変更した場合の名称です。事業譲渡の場合は一台ずつ移転の手続きが必要です。
A.運転者限定や年齢条件です。「記名被保険者本人と配偶者に限定」といった条件が付いていると、買収後に本社から来た社員が運転して事故を起こした場合に補償されないおそれがあります。運転する人が変わるなら必ず見直してください。
A.切り替えると積み上げてきた割引が失われることがあります。所有・使用する車両が10台以上ある場合はフリート契約となり、保険料は会社全体の事故率で決まります。切り替える前に代理店に試算してもらってください。
A.支配権の異動に関する条項(株主構成の重大な変更で解除できる、通知義務があるなど)と、残債・残期間です。リースは原則として中途解約できず、解約時は残リース料相当額の違約金を求められるのが通常です。
A.ETCカードとガソリンカードです。前経営者個人の名義であることがあり、退任すると使えなくなります。クロージングの翌日に使えないと配送が止まるため、退任日とカードの切り替え日を合わせてください。駐車場の契約も確認してください。

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譲渡した後のことも、ご相談ください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら