統合でやるべきことを書き出すと、数十項目になります。全部はできません。何をやらないと決めるかが、実質的な計画になります。整理します。
まず、全部書き出す
絞る前に、やるべきと思ったことをすべて書き出してください。
会計、人事、労務、システム、購買、営業、品質、法務、広報。領域ごとに、思いつく限り。
この段階では、優先順位をつけないこと。まず全体像を見る。
実際にやると、30〜80項目になります。
そして、この量を見て初めて、全部はできないと分かります。
書き出さずに着手すると、目の前のものから手をつけることになり、重要なものが後回しになります。
3つに分ける
次に、各項目を3つに分けてください。
① いますぐ。やらないと危険が生じる、あるいは法令に反する。
② 1年以内。放置すると損失が積み上がるが、今日明日ではない。
③ やらない(当面)。あったほうがよいが、無くても回る。
③に入れることを、恐れないでください。
実務では、①が5〜10項目、②が10〜20項目、残りは③になるのが普通です。
①を3か月で終える。これが現実的な設計です。
①に入るもの
判断の基準を示します。いますぐ着手すべきもの。
安全と法令。労働災害のリスク、許認可の期限、労働時間の管理、ハラスメント対応の体制。放置すれば買い手の責任です。
資金。口座、印章、支払いの承認。不正と誤処理を防ぐ最低限。
止まると事業が止まるもの。基幹システム、主要設備、キーマンの処遇。
期限があるもの。登記、各種の届出、契約の更新。
この4つ以外は、①に入れないでください。
先送りしてよいもの
③に入れてよいものを挙げます。
制度の統一。人事評価、賃金体系、就業規則。不利益変更の論点もあり、急ぐと揉めます。
システムの統合。基幹システムを揃えるのは、費用も期間も大きい。
ブランド・社名・ロゴ。顧客が名前で選んでいるなら、変えないほうがよい。
事務用品、什器、名刺の様式。
会議体の形式。
いずれも、統合の目的そのものではありません。揃えることが仕事になっていないかを確認してください。
シナジーを初年度に求めない
絞り込みで最も効く判断です。
買収の目的にシナジーがあっても、初年度から求めないでください。
クロスセル、共同購買、人材の交流。いずれも、相互の信頼ができてから始めたほうが成功率が上がります。
統合初期に本社の商品を売らせようとすると、現場は「本社の都合を押し付けられた」と感じます。
実務では、1年目は現状維持、2年目から連携を試すという設計が取られます。
投資回収の計画に、この時間を織り込んでおいてください。初年度からシナジーを前提にした計画は、たいてい未達になります。
やらないと決めたものを管理する
重要な実務です。③に入れたものを、忘れないでください。
一覧に残し、いつ見直すかを書いておく。「1年後に再検討」「◯◯が終わってから」。
そして、やらない理由も書く。「現場の負担が大きいため」「効果が見込めないため」「順序として後」。
理由を書いておくと、前提が変わったときに気づけます。
逆に、理由を残さずに先送りすると、そのまま忘れられます。
そして数年後、「なぜこれが整っていないのか」という話になります。
現場に説明する
絞り込みの結果を、買収された側にも伝えてください。
伝えるべきは、「何をやるか」より「何をやらないか」です。
「人事制度は当面変更しません」「社名はそのままです」「システムの統合は予定していません」。
これを言わないと、従業員は「いつか全部変わる」と考え続けます。
宙ぶらりんの状態が、最も落ち着きません。
そして、期限を添えてください。「当面3年間は」「1年後に改めて検討し、その際は事前に説明します」。
「変えない」ではなく「いつまで変えない」と言う。
本社側の期待も調整する
見落とされやすい点です。絞り込みは、買い手の社内にも説明が要ります。
買収を承認した側は、早く成果を見たいと考えています。
「なぜまだシステムを統合していないのか」「なぜ制度を揃えないのか」。
したがって、絞り込んだ理由と、いつ着手するかを、社内にも共有してください。
そして、初年度の計画に、統合の進捗を項目として入れる。業績だけで評価されると、現場は短期の数字合わせに走ります。
統合の進捗を誰に報告するかも併せてご覧ください。
見直しの時期を決める
最後に、設計の締めです。
絞り込みは、一度決めて終わりではありません。
3か月後。①が終わったか。②の優先順位は変わっていないか。
1年後。③に入れたものを、改めて見る。
状況が変わったとき。キーマンが辞めた、業績が変わった、法改正があった。
見直しの場を、定例の報告に組み込んでおいてください。
「やらないと決めたこと」を定期的に見る仕組みがあれば、先送りは管理された判断になります。
無ければ、それはただの放置です。