M&Aの案件は、一件が数か月から一年かかります。担当は必然的に複数を並行して持ちます。問題が起きるのは、忙しいときではなく、複数の締切が同じ週に重なったときです。どの案件に時間を割くかという全体方針は「案件の優先順位づけ」で扱いました。本稿はその先で、重なってしまった週をどう捌き、お待ちいただく方にどう伝えるかに絞ります。当社の募集要項は採用情報をご覧ください。

なぜ重なるのか|重なり方には型がある

予測できない重なりもありますが、多くは構造的に起こります。型を知っておくと、事前に散らせます。

  • 月末・期末に寄る——決算資料の受領、取締役会、金融機関の期日。相手側の暦に引っ張られて集中します
  • 工程の山が同じ形をしている——企業概要書の作成、DDの対応、最終契約の詰め。どの案件も同じ重さの山を持つため、開始時期が近いと山も近づきます
  • 止まっていた案件が同時に動き出す——買い手の検討が長引いていた案件が、まとめて返ってくることがあります
  • 相手の都合で前倒しになる——買い手の社内決裁の日程、譲渡企業の資金繰りの都合

対策の半分は、着手の時期をずらすことです。新しい案件を受けるとき、既存案件の山がどこにあるかを見てから開始時期を決める。これは受託の段階でしかできない調整です。もう半分は、山の中身を前倒しで削っておくこと。資料の依頼は早めに出す、想定問答は空いている週に作る。工程表の立て方は「案件のスケジュール管理」で扱っています。

重なった週に、何から手をつけるか

すべてを同じ熱量でやろうとすると、全部が薄くなります。次の順で捌きます。

順位内容考え方
1期限を動かせないもの契約上の期日、決済日、相手方の取締役会。遅れると案件そのものが壊れる
2相手を止めているものこちらの返答待ちで先方の作業が進まないもの。自分の1時間が相手の1週間を止めている
3不安にさせているもの連絡が途切れている依頼者への状況共有。短くてよいので入れる
4品質が結果を左右するもの企業概要書、価格の説明資料。時間をかけた分だけ結果が変わる
5動かしても影響が小さいもの社内資料の整備、先の日程の調整

順位付けで間違えやすいのが2と4の関係です。自分が抱えている「作り込み」より、相手を止めている一本のメールが先です。返答を待っている側は、待っている間ずっと何も進められません。5分で返せるものを後回しにして、半日の資料づくりを先にやると、案件全体の速度が落ちます。

3を落とさないことも重要です。進捗がない週ほど連絡が減りますが、依頼者にとって沈黙は「何も起きていない」ではなく「忘れられたのではないか」と受け取られます。動きがないことを伝えるのも報告のうちです。

一方で、落としてはいけないものがあります。情報管理の手順、記録の作成、二重確認。忙しさを理由に省くと、事故はここから起きます。急ぐときほど手順を守る、という順番は崩しません。

お待ちいただくときの伝え方

優先順位をつけるということは、誰かにお待ちいただくということです。黙って遅れるのと、伝えて待っていただくのとでは、同じ遅延でも意味が違います。

伝えるときは、次の四点を短く揃えます。

  1. 今どうなっているか——「本日時点では、まだ買い手側の回答が届いておりません」
  2. いつ返すか——「○月○日までにお返しします」と日付で置く。「来週中」は幅がありすぎます
  3. それまでに何が起きるか——「その間にこちらで資料の整理を進めます」
  4. 急ぐ場合の連絡先——「ご事情が変わった場合は、いつでもご連絡ください」

避けたい伝え方もあります。「他の案件が立て込んでいまして」は、言わないほうがよい言葉です。依頼者にとって自分の会社の将来は唯一の関心事で、他の案件の都合は理由になりません。事実として忙しくても、伝えるべきは「いつ返すか」です。

また、謝罪だけで終わらせないこと。「申し訳ありません」に日付が伴わないと、不安はそのまま残ります。逆に、日付を置いたら必ず守ります。守れないと分かった時点で、期日を待たずに再連絡します。約束の更新は、期日前にしか意味がありません。

期日を置く以上、置く前に自分の週を見る必要があります。埋まっている枠を見ずに「明日までに」と答えると、翌日また謝ることになります。少し余裕のある日付を置き、早く返せたらそれで良い、という順番にします。

抱えすぎを個人の努力で解こうとしない

ここまでは捌き方の話ですが、捌き方で解ける限界があります。限界を超えているサインは、本人より先に案件に出ます。

  • 返信が遅れる相手が、いつも同じ案件になっている
  • 記録を後回しにする日が続いている
  • 確認せずに「たぶん大丈夫です」と答える回数が増えた
  • 資料を作る時間が取れず、前回の使い回しで済ませている

これは能力の問題ではなく、件数の問題です。件数の問題を気合いで解こうとすると、いちばん声の小さい依頼者が割を食います。気づいた時点で上長に共有し、担当の組み替えや支援を相談します。相談の仕方は「上司・先輩へのエスカレーション」で扱っています。

組織の側にも設計が要ります。一人が持てる件数の上限を決めておくこと、工程の山が重ならないように新規の着手を調整すること、担当を一人にしない体制にすること。持てる件数を超えて任せることは、依頼者に対する不利益であって、担当者の頑張りで埋める話ではありません。

当社は少人数で、役員が現場に立っています。担当が抱えている件数と工程の山は、同じ場で見えている前提です。抱えすぎているときに手を挙げられることを、運用の前提にしています。

まとめ|速さではなく、途切れないこと

要点を整理します。

  • 重なりには型がある。着手時期をずらし、山の中身を前倒しで削る
  • 捌く順は、動かせない期限 → 相手を止めているもの → 不安にさせているもの → 品質が効くもの
  • 5分で返せる一本を、半日の資料づくりより先に出す
  • 情報管理・記録・二重確認は、忙しさを理由に省かない
  • お待ちいただくときは、状況・日付・その間の動き・連絡先の四点を短く伝える
  • 「他の案件が立て込んで」は言わない。謝罪ではなく日付を置く
  • 限界のサインが出たら、個人で解かず上長に共有する

依頼者から見て良い担当者は、いつも即答する人ではなく、連絡が途切れない人です。速度は落ちることがあります。途切れないことは、忙しくても選べます。

よくあるご質問

A.工程の段階によって必要な時間がまったく違うため、件数だけの目安を置くのは適切ではありません。デューデリジェンスや最終契約の局面にある案件は、それだけで大きな時間を占めます。件数ではなく、抱えている案件の工程の山がどこにあるかで見るほうが実態に合います。
A.言い訳を書かず、現状・いつ返すか・その間にこちらが進めることを短く書いて、すぐ返信してください。催促が来た時点で、こちらの報告が足りていなかったということです。以後は、進捗がない週も定期的に状況をお伝えする形に切り替えます。
A.情報管理の手順、記録の作成、数値の二重確認は落としません。事故はここから起きます。調整してよいのは、社内資料の体裁や先の日程の調整など、遅れても案件と依頼者に影響しない部分です。
A.伝えずに案件が滞るほうが、依頼者にも会社にも損失が大きくなります。伝えるときは、件数だけでなく、どの案件のどの工程が重なっているかを具体的に示してください。判断材料が揃っていれば、担当の組み替えや支援の相談がその場で進みます。

Free Consultation

連絡が途切れないことを、当たり前にします。

進捗がない期間も、状況を定期的にお伝えします。ご契約やご決断を急がせることはありません。
採用に関するご質問は採用情報を、ご相談はメール(info@platinumpartners.jp)でも承ります。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら