本稿は、経営者の方ではなくM&A仲介の実務者、およびこれから仲介会社で働こうとしている方に向けた実務教材です。中小企業の株式のほとんどには譲渡制限が付いています。そのため株式譲渡の案件では、必ず会社の承認手続きを経ることになります。手続きの全体像は「株式譲渡の実務手続き」で扱いましたが、本稿は承認の一点に絞ります。ここは形式を欠くと後から効力が争われかねない工程であり、かつ仲介者が日付と書面の整合を管理できる数少ない工程でもあります。なお具体的な手続きの適否や書面の作り方は、弁護士・司法書士にご確認ください。

まず定款を読む

承認手続きの出発点は、対象会社の定款です。登記事項証明書だけでは分からないことが多くあります。最新の定款と、その改定の経緯を必ず取り寄せて、次を確認します。

  • 株式の譲渡について会社の承認を要する旨の定めがあるか
  • 承認機関はどこか(株主総会か、取締役会か、あるいは代表取締役と定めているか)
  • 相続その他の一般承継により株式を取得した者に対する売渡請求に関する定めがあるか
  • 株券発行会社かどうか。株券を発行する旨の定めが残っていないか
  • 会社法の原則と異なる期間・手続きを定款で定めていないか
  • 種類株式があるか。ある場合、種類株主総会の決議が必要な事項はあるか

実務で驚くほど多いのが、定款が見当たらない、あるいは登記の内容と定款の記載が一致しないという状態です。設立時から改定していない、改定したが原本を紛失した、議事録は残っているが定款に反映されていない、といった例に出会います。見つからない場合は、公証役場に保存されている原始定款の謄本、過去の株主総会議事録、顧問税理士が保管している控えなどを当たります。この作業には日数がかかるため、案件の早い段階で着手します。「株券を発行する旨の定めが残っていた」と決済直前に判明すると、日程が大きく動きます。

誰が承認するのか

会社法では、譲渡制限株式の譲渡を承認する機関は、取締役会設置会社では取締役会、それ以外では株主総会とされ、定款で別段の定めを置くこともできるとされています。整理すると次のようになります。

会社の形原則の承認機関実務での確認点
取締役会設置会社取締役会取締役の員数が足りているか。譲渡の当事者である取締役は決議に加われない場合があるため、残りの人数で決議が成立するか
取締役会を置かない会社株主総会招集の手続き、議決権を行使できる株主の範囲
定款に別段の定めがある会社定款の定めによる定めの文言どおりに行えるか。代表取締役に委ねる定めがある場合の書面の残し方

とくに注意が要るのが二行目の「取締役の員数」です。中小企業では、登記上は取締役が複数いても、実際には長く退任している、亡くなっている、連絡が取れないという例があります。登記の内容と実態が一致しているかを先に確かめ、必要であれば役員変更の登記を先行させます。株主が分散している案件では、承認の前に「株式が分散している案件の集約」の論点も重なります。

請求から通知までの流れと期限

手続きの骨格は、次の順に進みます。各段階に期限が定められている点が、この工程の特徴です。

  • 譲渡承認請求:株式を譲り渡そうとする株主(または取得者)が、会社に対して承認するかどうかの決定を請求します。譲り渡す株式の数、譲受人の氏名または名称などを明らかにして行うとされています
  • 承認機関の決議:取締役会または株主総会で承認の可否を決議します
  • 会社から請求者への通知:決定の内容を通知します
  • みなし承認:請求の日から2週間(定款でこれを下回る期間を定めた場合はその期間)以内に通知をしなかった場合、承認したものとみなされるとされています
  • 承認しない場合は、会社または指定買取人が買い取る手続きに進み、こちらにも別途の期限と供託等の手続きが定められています

実務では、みなし承認に頼らず、期限内に決議と通知を確実に行うのが原則です。みなし承認は「通知を怠った」という事実に基づく効果であり、後から書面で証明しにくいからです。仲介者は、請求書の日付、決議の日付、通知書の日付の三つが矛盾なく並んでいるかを確認します。請求より前の日付で決議がされている、通知の日付が決議より前になっている、といった不整合は、後の調査や登記の場面で必ず指摘されます。

議事録の作り方

議事録は、決議があったことを示す唯一の証跡です。仲介者が起案するものではありませんが、何が書かれているべきかを知っておくことで、抜けに気づけます。

項目確認する点
日時・場所実際に開催された日時と一致しているか。書面決議による場合はその旨と根拠
出席者登記されている役員と一致しているか。定足数を満たしているか
議題と決議の内容譲渡人・譲受人・株式の種類と数が特定されているか
特別の利害関係譲渡の当事者である役員の取り扱いが記載されているか
署名・記名押印法令および定款が求める者のものが揃っているか
保管原本が会社に保管されているか。控えの受け渡しをどうするか

仲介者が絶対にやらないのは、日付を遡らせた議事録の作成に関与することです。「後から作っておいてください」という依頼を受けても、応じません。過去の議事録が欠けていることが判明した場合は、隠さず論点として上げ、取り扱いを弁護士・司法書士に確認します。短期的には案件が止まるように見えますが、後から発覚したときの損失のほうが、はるかに大きくなります。

つまずきやすい点

承認手続きで実際に案件が止まる原因は、ほぼ決まっています。先回りして確認しておけば防げるものばかりです。

  • 株主名簿が整備されていない。そもそも誰が株主かが確定しないと、請求も決議も組めません
  • 名義株・相続未分割の株式がある。実質的な所有者と名義人が異なる、相続人間で分割が済んでいない
  • 登記上の役員と実態が違う。定足数が満たせず、決議が組めない
  • 株券発行会社の定めが残っている。株券が現存しないのに定款上は発行会社のまま、という状態
  • 種類株式や属人的な定めがある。議決権の数が単純な持株比率と一致しない
  • 承認の前に譲渡が実行されてしまう。順番を誤ると、後から手続きをやり直すことになります

仲介者の役割は、案件の初期に定款・登記事項証明書・株主名簿の三つを揃え、この一覧に照らして確認しておくことに尽きます。整備に時間がかかるものが見つかったら、その所要日数を工程表に入れます(「譲渡日をいつにするか」)。承認手続きそのものは、揃っていれば数週間で終わります。止まるのは、揃っていなかったときです。

本稿は仲介実務の一般的な型を解説するものです。契約条項の解釈や個別案件における法的な適用は弁護士に、税務の取り扱いは税理士にご確認ください。アドバイザーは法律事務・税務代理を行いません。

よくあるご質問

A.会社法では、取締役会設置会社では取締役会、それ以外では株主総会とされ、定款で別段の定めを置くこともできるとされています。まず対象会社の最新の定款を確認してください。定款が見当たらない場合は、公証役場に保存されている原始定款の謄本や、過去の議事録から確認します。個別の判断は弁護士・司法書士にご確認ください。
A.譲渡承認請求の日から2週間(定款でこれを下回る期間を定めた場合はその期間)以内に通知をしなかった場合は、承認したものとみなされるとされています。ただし実務では、これに頼らず期限内に決議と通知を行うのが原則です。通知を怠ったという事実は、後から書面で証明しにくいためです。
A.隠さず論点として上げ、取り扱いを弁護士・司法書士にご確認ください。日付を遡らせて議事録を作成することに、当社が関与することはありません。短期的には案件が止まって見えますが、後から発覚したときの損失のほうがはるかに大きくなります。
A.定款・登記事項証明書・株主名簿が揃っていれば、請求から通知まで数週間で完了することが一般的です。時間がかかるのは、株主名簿が整っていない、名義株や未分割の株式がある、登記上の役員と実態が違うといった場合です。案件の初期に三つの書類を揃えて確認し、整備が要るものは所要日数を工程表に入れてください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら