本稿は、経営者の方ではなくM&A仲介の実務者、およびこれから仲介会社で働こうとしている方に向けた実務教材です。受託前の説明でいちばん多い事故は、嘘をつくことではなく、都合のよいところだけを言うことです。「相談は無料です」「半年ほどで終わります」。どちらも間違いではありませんが、それだけを伝えれば、後から出てくる費用と遅れは、すべて裏切りとして受け取られます。お金と時間は、経営者がいちばん気にしていながら、最も聞きにくい事柄です。本稿では、受託前に何をどう言い切り、不確実な部分をどう扱うかを型にします。
なぜ受託前に言い切るのか
費用と期間の説明を後回しにすると、三つの損失が起きます。
- 相手が最後まで気にしながら話す:費用が未確定のまま進むと、ヒアリングへの答えも構えたものになります
- 後で説明すると、条件の追加に見える:同じ内容でも、先に言えば体系、後に言えば追加です
- 止まったときに、信頼ごと失う:途中で止まる可能性を伝えていなければ、止まった瞬間にすべての説明が疑われます
逆に、先に言い切ってしまえば、その後の会話は事業と条件の話に集中できます。費用の話をする顔ではなく、事実を伝える顔で、淡々と言う。これが受託前の説明の基本姿勢です。
費用の全体像を、一枚で見せる
当社の体系であれば、次の一枚で説明できます。口頭だけで済ませず、必ず書いたものをお渡ししてください。
| 時点 | 当社の費用 | 補足 |
|---|---|---|
| ご相談〜買い手候補との交渉 | 0円 | 相談料・着手金・月額報酬はいただきません |
| 基本合意の締結時 | 中間金(成功報酬額の10%) | 成功報酬から全額を差し引きますが、基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません |
| 最終契約・クロージング時 | 成功報酬から中間金を差し引いた残額 | 成功報酬は移動総資産レーマン方式、最低2,000万円(税別) |
| 別途かかり得るもの | 実費・専門家費用 | 登記費用、弁護士・税理士へ直接ご依頼になる費用など |
成功報酬の基準額は、株式価値(譲渡対価)と負債総額の合計です。料率だけを伝えて基準額の定義を省くと、後で必ず認識がずれます。基準額の定義は、料率より先に説明してください。試算は料金ページの計算機で一緒に確かめられます。
また、最後の行を落とさないこと。仲介手数料以外にかかるものがあることを先に伝えておかないと、後から出てきた実費が不信の種になります。
期間は、幅で伝えて断定しない
期間の質問には「半年から一年程度」とだけ答えがちですが、それでは相手は自分の予定を立てられません。工程ごとに幅で示してください。
| 工程 | 主にかかること | 期間が延びる要因 |
|---|---|---|
| 資料の受領と整理、評価の試算 | 決算・契約・株主の確認 | 資料が揃わない、名義が未整理 |
| 買い手候補の検討と打診 | 匿名の概要書での打診、承諾の取得 | 打診先を絞る必要がある、業種が特殊 |
| 面談と条件のすり合わせ | トップ面談、意向表明の受領 | 条件の隔たり、決裁に時間を要する |
| 基本合意から調査 | 買い手による調査対応 | 資料の追加、指摘事項の是正 |
| 最終契約とクロージング | 契約書の調整、前提条件の充足 | 許認可の承継、金融機関との調整 |
右の列を一緒に伝えることが肝心です。何があると延びるのかを知っていれば、遅れは事故ではなく想定内になります。期間の説明の詳しい組み立ては「想定スケジュールの立て方」を参照してください。
あわせて、経営者の側の予定も聞いておきます。決算期、繁忙期、役員の改選、借入の借換えの時期、ご本人の体調や年齢に関わる事情。これらは工程の順番を組み替える理由になります。期間は、こちらの標準工程を当てはめるものではなく、相手の事情に合わせて引き直すものだと考えてください。
「途中で止まる」ことを、先に伝える
最も伝えにくく、最も伝えるべきことです。M&Aは、進めたからといって必ず成立するものではありません。受託前に、次を率直に伝えます。
- 止まる可能性はある:条件が折り合わない、調査で論点が出る、相手方の事情が変わるなど
- どの時点で何が残るか:基本合意の前に止まった場合、当社にお支払いいただく費用は発生しません。基本合意の後に不成立となった場合、お預かりした中間金は返金いたしません
- 止まっても失われないもの:整理した資料、把握できた論点、自社の見え方。次に動くときの準備になります
- 止める判断は依頼者のもの:進めないという判断も、いつでもしていただけます
二番目を省略しないでください。中間金の差引きだけを伝えて返金の扱いを落とすのは、有利な側だけを伝えることになります。一つの文の中で、両方を言う。これは社内で徹底している書き方でもあります。
説明したことを、書面と記録に残す
口頭の説明は、必ず記憶の差になります。次の三つを習慣にしてください。
- 説明用の一枚を渡す:費用の表と工程の表を、その場で手元に残していただく
- 当日中に要点を書いて送る:何を説明し、何を宿題にしたかを箇条書きで返す
- 社内の記録に、説明日と内容を残す:担当が変わっても、同じ説明が再現できる状態にする
契約形態の説明責任については「専任と非専任の違い」、受託するかどうかの判断そのものは「受託するかどうかの判断基準」で扱っています。
記録は自分のためでもあります。受託から成約まで一年近くかかることも珍しくなく、その間に担当者の記憶は必ず薄れます。「そのときどう説明したか」を残していなければ、後から認識のずれが生じたときに、どちらが正しいのかを確かめる手立てがありません。説明した内容を書いて残すことは、依頼者を守ると同時に、実務者自身を守る作業です。
最後に一点。説明を尽くしたうえで、その日のうちに契約をお願いすることは当社ではしません。持ち帰って、ご家族や顧問の先生と相談していただく時間をお取りいただく。相談料・着手金・月額報酬が0円である以上、考える時間をお渡しすることに何のコストもかかりません。
よくあるご質問
Free Consultation
都合の悪いことから先に言う。そういう説明を学べます。
プラチナパートナーズでは、初回相談から成約まで一気通貫で担うアドバイザーを募集しています。M&A業界が初めての方も、実務の型から丁寧にお伝えします。
経営者の方のご相談は、無料相談フォーム(またはinfo@platinumpartners.jp)から承ります。ご契約やご決断を急がせることはありません。