買い手を持つ会社と売り手を持つ会社が組んで一つの案件を進める形は、実務でよくあります。自社だけでは相手が見つからないときに有効で、売り手にとっても選択肢が広がります。

一方で、途中でもめやすい形でもあります。もめる原因はほぼ決まっていて、役割と報酬と情報の扱いを先に決めていないことです。決めずに始めると、条件交渉が進んだ段階で「どちらが売り手に説明するのか」が曖昧になり、売り手が混乱します。本稿では、始める前に決めておく項目を整理します。

どちらが誰の側に立つのかを明確にする

最初に決めるのは、立ち位置です。自社が売り手側のアドバイザーで、相手が買い手側のアドバイザーなのか。それとも両社が共同で売り手を担当し、買い手は別に探すのか。形が違えば、やることも報酬の出どころも変わります。

曖昧になりやすいのは、相手が買い手を連れてくる形です。このとき相手は買い手の代理のように振る舞いますが、報酬を売り手から受け取ることになっている場合、立ち位置が食い違います。誰から報酬を受け取るかが、立ち位置を決めます。

売り手にも、この構図を説明しておく必要があります。「もう一社が関わっていて、その会社は買い手を担当している」と伝えておけば、相手からの連絡があっても売り手は驚きません。説明しないまま進めると、売り手は誰を信じればよいか分からなくなります。

仲介とFAの違い、そして誰の利益のために動くのかという論点は、共同で進めるときにこそ表に出ます。自社がどちらの立場で何を守るのかを、相手にも売り手にも明示しておきます。

報酬の分け方を先に書面にする

報酬の分け方は、案件が成約してから話し合うと必ずもめます。成約の喜びと配分の不満が同時に来るためです。先に書面にしておきます。

決めておく項目は次のとおりです。どちらが売り手と仲介契約を結ぶのか。報酬を受け取るのはどちらか。受け取った側が相手に支払う割合。支払いの時期。案件が途中で止まったときの扱い。買い手が別の経路から現れた場合の扱い。

特に忘れやすいのは最後の二つです。途中で止まった案件の実費をどちらが負担するのかは、止まってから決めると感情が入ります。また、相手が連れてきた買い手ではなく自社が探した買い手で成約した場合に配分が変わるのか、という点も先に決めておきます。

なお、売り手が支払う手数料の総額が、共同で進めることによって増えてはいけません。売り手から見れば、一社に頼んだのと同じ条件であるべきです。増える形になっているなら、それは売り手に不利な取り決めです。

情報の扱いを揃える

共同で進める場合、売り手の情報が二社に渡ります。売り手と交わした秘密保持の約束が、相手の会社にも及ぶようにしておく必要があります。

実務では、三者間で秘密保持契約を結ぶか、自社と相手の間で別に契約を結んで、売り手から受け取った情報の扱いを縛る形を取ります。口約束で進めると、相手が別の案件で同じ情報を使っても止められません。

渡す情報の範囲も決めます。ノンネームの段階で渡す情報、ネームクリア後に渡す情報、企業概要書そのものを渡すかどうか。段階を分けておかないと、最初から全部渡すことになります。

売り手の同意も必要です。「もう一社に情報を渡してよいか」を確かめずに渡すのは、秘密保持の約束に反します。相手の会社名と、何のために渡すのかを伝えて、同意を取ります。同意を取った日付と範囲は記録に残します。

渡した情報の記録も残します。どの資料を、いつ、誰に渡したか。案件が終わったあとに返却や破棄を求める場面があり、記録がないと何を求めればよいか分かりません。

売り手への連絡は一本にする

進行中にもっとも混乱するのは、売り手への連絡経路です。二社から別々に連絡が入ると、売り手はどちらの話が正しいのか分からなくなります。

原則は、売り手と仲介契約を結んでいる側が窓口を持つことです。相手が売り手に直接連絡する必要がある場合も、事前に共有してから行います。

これは形式の問題ではありません。条件交渉の局面では、買い手側の意向を売り手にどう伝えるかで結果が変わります。二つの経路から別のニュアンスで伝わると、売り手は判断できません。悪い知らせを伝える場面では特に、伝える順番と言い方を揃えておく必要があります。

買い手側についても同じです。買い手の社内で検討が進む過程を、二社がそれぞれ別に聞いていると、進捗の認識がずれます。週に一度でも、二社で状況を突き合わせる場を持つほうが確実です。

合わないと分かったときの抜け方

組んでみて、進め方が合わないことがあります。情報の扱いが甘い、売り手への説明が自社の方針と違う、報酬の話が後から変わる——こうした場合に、どう抜けるかを先に決めておきます。

抜けるときに守らなければならないのは、売り手の利益です。自社が抜けたことで売り手の案件が止まるのであれば、抜ける前に引き継ぎの形を作ります。売り手には、抜ける理由を説明します。

相手に渡した情報の扱いも決めます。返却するのか、破棄してもらうのか、確認の方法をどうするのか。書面に書いておけば、抜けるときの交渉が短く済みます。

共同で進める形は、うまくいけば売り手の選択肢を広げます。先に決めておく項目が多いのは、相手を疑っているからではなく、売り手を守るためです。決めた内容は書面にして、両社で持ちます。

なお、個別の判断は案件の事情によって変わります。法務・税務にまたがる論点は、弁護士・税理士などの専門家に確認してください。

よくあるご質問

A.増えない形にしてください。売り手から見て一社に頼んだのと同じ条件であるべきです。二社で分けるのは、受け取った報酬の中で行います。
A.売り手の同意が必要です。相手の会社名と渡す目的を伝えて同意を取り、日付と範囲を記録に残してください。段階を分けて、ノンネームから始めるのが実務的です。
A.成立する場合もありますが、内容の記憶が食い違ったときに確かめられません。成約してから配分を話し合うともめやすいので、始める前に書面にしておくことをおすすめします。

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執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役副社長。中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら