「M&A仲介の仕事内容」を調べると、報酬や働き方の話は出てきますが、実際に何をしているのかは意外と書かれていません。

この仕事は、1件の案件が始まってから終わるまで、短くても数か月、長ければ1年以上かかります。その間に何をしているのかを、工程に沿って整理します。工程ごとに必要な力が違うので、自分がどの部分に向くかを考える材料にもなります。

案件を見つける

最初の工程は、譲渡を考えている経営者に出会うことです。経路は、金融機関や税理士からの紹介、過去に接点のあった経営者からの連絡、自分から連絡を取る形、問い合わせを受ける形に分かれます。

ここで必要なのは、売り込む力よりも「まだ決めていない人の話を聞ける力」です。譲渡を考え始めた経営者は、やめるか続けるか、誰に話すか、いつ動くかを決めていません。その段階で「売りましょう」と押すと離れます。

実務としてやることは、会社の状況を聞き、本人が何に困っているのかを整理し、選べる道を並べることです。その結果「今は動かない」になることもあります。そこで関係が切れないようにしておくのが、この工程の成果になります。

この部分は時間がかかり、しかも成果が出るまでの見通しが立ちにくい工程です。ここを担えるかどうかが、この仕事を続けられるかの分かれ目になります。

会社を理解して、資料を作る

依頼を受けたら、決算書3期分と周辺の資料を預かり、会社の状況を把握します。見るのは数字だけではありません。誰が何をしているか、売上がどこから来ているか、経営者が抜けたら何が止まるか、簿外に何があるかです。

そのうえで、2種類の資料を作ります。会社名を出さずに概要だけを示すものと、承諾を得た相手に渡す詳しい資料です。これを作る作業が、会社を理解する作業そのものになります。書けない部分は、理解していない部分です。

同時に、譲渡の価格の見通しを立てます。評価の方法は複数あり、業種と会社の状況で使い分けます。ここで出した数字が、後の交渉の出発点になります。高すぎる見通しを示すと、相手が見つからず、依頼者の期待だけが残ります。

必要な力は、資料を読む力と、聞き取る力と、書く力です。会計の知識は必要ですが、会計士である必要はありません。

買い手を探して、会わせる

次の工程は、引き継ぐ相手を探すことです。同業、別業種からの参入、投資を目的とする買い手、個人と、候補の種類が分かれます。自社が持つ買い手の情報、プラットフォーム、金融機関や他の事業者との連携を使います。

打診は、会社名を出さずに概要だけを示し、関心があれば秘密保持の取り決めを結び、それから詳しい資料を渡す順序で進めます。社名を出す前に依頼者の承諾を取ります。この手順を飛ばすと、情報が広がります。

関心を示した相手とは、経営者同士の面談を設定します。ここは実務の中でも神経を使う場面です。何を話し、何をまだ話さないか、どちらが先に条件を出すか、質問にどう答えるかを、事前に双方と確認します。

面談の後、意向表明を受け、条件を比べ、どの相手と進めるかを決めます。価格だけで決まるわけではなく、従業員の扱い、引き継ぎの期間、支払いの方法も比べる材料になります。

交渉を支え、調査を通す

相手が決まると、基本合意に向けて条件を詰めます。価格、支払いの時期と方法、経営者がいつまで関わるか、従業員の処遇、不動産の扱い、個人保証の整理です。仲介の立場では、双方に同じ事実を伝えながら、まとまる形を探します。

基本合意の後、買い手が調査を行います。財務、税務、法務、労務の資料が求められ、質問が大量に来ます。この工程で実務の量がいちばん増えます。資料を集め、質問の意図を整理し、答えを揃え、専門家とのやりとりを進めます。

調査で問題が見つかれば、条件の見直しの話になります。ここで必要なのは、見つかったものを隠さずに扱い、どう処理するかを双方に示す力です。隠すと、後でより大きく壊れます。

最終契約の条項を詰め、クロージングの段取りを組み、決済と引き渡しを行います。契約書の作成は弁護士が担いますが、何を書くべきかを整理するのは仲介の仕事です。

成約した後と、成約しなかった場合

クロージングの後も、やることが残ります。従業員への説明、取引先への挨拶の順序、名義の変更、金融機関との手続きです。ここを放り出すと、せっかくの取引が現場で揉めます。

一方で、すべての案件が成約するわけではありません。相手が見つからない、条件が合わない、調査で問題が出る、依頼者の気が変わる。どの段階でも止まります。

止まった案件にかけた時間は戻りません。成功報酬型の報酬の形では、成約しなければ収入になりません。この仕事の負荷の大半は、ここから来ます。何件を同時に持ち、どの案件にどれだけ時間を配るかの判断が、常に必要になります。

必要な力をまとめると、聞き取る力、資料を読んで書く力、段取りを組む力、そして都合の悪いことを先に言える力です。専門知識は後から身につきますが、最後の1つは性質に近い部分があります。この仕事の質は、そこで決まります。

働き方についても触れておきます。案件の工程に合わせて動くので、繁閑の差が大きくなります。面談や調査の期間は予定が埋まり、案件の切れ間は資料や新しい相談に時間を使います。訪問の相手は地方にいることも多く、移動が入ります。報酬は成果に連動する部分を持つ形が一般的で、固定給との組み合わせは会社ごとに違います。当社の条件は採用情報に記載しています。

よくあるご質問

A.案件を見つける工程は営業の性質を持ちますが、売り込む力よりも「まだ決めていない人の話を聞ける力」が効きます。その後の工程は、資料を読んで書く作業、段取りを組む作業が中心になります。
A.必須ではありません。決算書を読む力は必要ですが、監査や税務申告を自分で行うわけではなく、契約書の作成は弁護士が担います。専門家とやりとりできる程度の理解が求められます。
A.依頼を受けてから成約まで、短くても数か月、長ければ1年以上かかります。相手を探す期間と、調査から最終契約までの期間が、それぞれ読みにくい部分です。
A.どの段階でも止まります。成功報酬型の報酬の形では、成約しなければ収入になりません。何件を同時に持ち、どの案件に時間を配るかの判断が常に必要になります。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役副社長。中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら