「中小M&A市場動向」と「中小企業政策」は独立科目ではなく、M&A実務に含まれます。 ただし資料2は、必ず出題する想定としています(60問なら3問程度)。

項目数は少ないのに出題が確約されている、という位置づけです。 そして内容は、この制度がなぜ作られたのかそのものです。

市場構造|出発点は「経営資源の散逸」

企画競争募集要領の事業目的は、こう始まります。

中小企業の経営者に占める60〜70歳以上の割合は未だ高い水準の中で、 我が国の中小企業の経営資源散逸の防止の観点から、事業承継に対する支援をさらに強化していく必要がある。

「経営資源散逸の防止」——これが政策の目的語です。 会社がなくなると、失われるのは経営者の資産だけではありません。従業員の雇用、取引先との関係、 技術、許認可、地域の供給網が一緒に消えます。

資料3の「中小M&A市場の現状」は、市場構造として次の2つを挙げています。

  • 経営者高齢化と後継者不在の実態
  • 事業承継の選択肢としてのM&Aの定着度合い

2つ目の「定着度合い」という言葉に注目してください。 かつて会社を売ることには否定的な見方がありましたが、選択肢の1つとして定着したという認識が、 公表資料に書かれるようになっています。

市場動向|何を数えるか

資料3は、市場動向として「中小M&A件数(規模別・業種別等)」を挙げています。

試験対策として大事なのは、具体的な件数を暗記することではなく、 どの統計が何を数えているかを知っていることです。中小M&Aの件数は、公表主体によって範囲が違います。

  • 民間の調査会社が集計する公表されたM&A件数(大型案件が中心になりやすい)
  • 事業承継・引継ぎ支援センターの成約件数(公的機関を経由したもの)
  • M&Aプラットフォームの成約件数
  • 中小企業庁の各種調査

中小M&Aの多くは公表されません。譲り渡し側が非公開を望むためです。 したがって、どの数字も市場の全体像ではありません。

数字を引くときは、出典と、その統計が何を母数にしているかをセットで確認してください。 統計は毎年更新されるため、受験時点の最新の公表値を一次資料で確認するのが実際的です。

制度がつくられた直接の理由

募集要領は、市場の拡大に伴って何が起きたかを、具体的に書いています。

中小M&A市場の拡大に伴い、新規参入者が多くなるにつれ、 不慣れな中小企業者に対して十分な説明がなされていない事案や、 当事者との関係で利益相反が生じた状態で取引が進んでしまっている事案等、 不適切な支援対応を実施している事案が見受けられた。 また、各種報道等では、経営者保証が解除されない等の不適切な買い手が排除されていないという問題も クローズアップされたところである。

ここに挙がった3つが、試験の倫理・行動規範(配点25%)の中身そのものです。

市場の問題対応する規範
説明が十分でない手数料・業務内容の説明義務、重要事項説明、リスク事項説明
利益相反が生じたまま進む仲介者における利益相反のリスクと現実的な対応策
不適切な買い手が排除されない不適切な譲り受け側の排除に向けた取組(5つの調査項目)

市場動向を学ぶことは、規範の理由を学ぶことです。この対応関係が見えていると、 倫理科目の個々の規定を暗記しなくても、筋で答えを選べるようになります。

公的機関だけでは足りない、という認識

募集要領は、公的支援の限界も明記しています。

中小企業庁において、各都道府県に設置された事業承継・引継ぎ支援センターにより、 後継者不在企業等への支援を実施しており(中略) 他方で、センターのみにより全ての中小企業に対する支援を実施することは現実的ではない。 センターによる支援の中には既に、民間のM&A支援機関への橋渡しによる支援形態もあるものの、 引き続き、民間のM&A支援機関による支援も強化していく必要がある。

この一文が、資格制度の存在理由です。論理をたどると、こうなります。

  1. 経営者の高齢化と後継者不在で、経営資源が散逸しかねない
  2. 公的機関だけでは支えきれない → 民間の支援を強化する必要がある
  3. しかし民間の参入が増えた結果、不適切な支援が現れた
  4. → 質の高い支援機関・専門人材を増やし、かつ可視化する仕組みが必要
  5. → 組織にはM&A支援機関登録制度、個人には資格試験と合格者登録制度

募集要領の言葉では、「多くの経験や高いスキルを持ち、質の高い支援を実行できるM&A支援機関及び専門人材を増加させ、 かつ、そのようなM&A支援機関及び専門人材が可視化される仕組みが重要である」となります。

「定着度合い」という言い方が示すもの

資料3が「事業承継の選択肢としてのM&Aの定着度合い」を項目に置いていることには、含みがあります。 定着していなかった時期があったということです。

ガイドライン第1章は、譲り渡し側の基本姿勢として 「中小M&Aに関する基本的な認識の変化」を最初に挙げ、あわせて 「従業員・取引先等への影響の緩和」と「譲り受け側から見た、譲り渡し側の事業の魅力」を並べています。

さらに、譲り渡し側の留意点として3つが置かれています。

  • 早期判断の重要性……経営者の年齢や体力が、選択肢の幅を決める
  • 秘密保持の徹底……検討段階で漏れると、従業員の動揺や取引先の不安を招く
  • 中小M&A手続進行上の留意点

第1章には事例も8類型で挙げられています。小規模企業・個人事業主で成立した事例、 経営状況が良好でない中小企業で成立した事例、親族内承継の頓挫から移行した事例、 従業員の反対にもかかわらず成立した事例、廃業を予定していたものの成立した事例、 そして成立しなかった事例——。

成立しなかった事例が最後に置かれていることが、この文書の姿勢を表しています。 市場動向の項目は、統計の暗記ではなく、この市場に何が起きているかを説明できるかを問う範囲です。

試験で押さえる形

  • 市場構造は経営者高齢化と後継者不在、そして事業承継の選択肢としてのM&Aの定着度合い
  • 政策の目的語は「経営資源散逸の防止」
  • 制度の直接の理由は説明不足・利益相反・不適切な買い手の3つ
  • 公的機関だけでは足りないという認識が、民間の質の担保につながっている
  • 件数などの統計は公表主体によって母数が違う。中小M&Aの多くは公表されない

「中小M&A市場動向」は8項目と小さな大項目ですが、●(優先項目)が1つ—— 「不適切な譲り受け側事業者・不適切なM&A取引」に付いています。 市場の話のなかで、問題のほうに印が付いていることが、この試験の性格を表しています。

この記事について(出典と免責)

本記事は、中小企業庁が公表した資料をもとに、株式会社プラチナパートナーズが作成したものです。 本試験の実施主体・運営事業者が作成・監修・承認したものではありません。

試験の名称・科目構成・出題数・出題範囲・合格基準・実施時期等は、2026年9月時点で公表されている 検討会資料および企画競争募集要領に「想定」「現状案」として示された内容です。 試験名は資料上「中小M&A資格試験(仮称)」と表記されています。実際の試験と異なる可能性がありますので、 受験にあたっては必ず公式の試験案内をご確認ください。

本記事の法務・税務・会計に関する記述は一般的な制度の説明です。 個別の案件における判断は、必ず弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご確認ください。

出典:「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」(中小企業庁・第4回 中小M&A市場の改革に向けた検討会 資料2、2026年3月17日)/ 同 資料3「試験科目詳細」/ 「中小M&A資格試験実施事業」企画競争募集要領(中小企業庁、2026年3月27日)/ 中小M&Aガイドライン(第3版)(中小企業庁、2024年8月)/ 中小M&A専門人材(個人)向け 使命・倫理行動規範・知識スキルマップ をもとに当社が作成。

よくあるご質問

A.「中小M&A市場動向」と「中小企業政策」は独立科目ではなくM&A実務に含まれますが、資料2では必ず出題する想定とされており、60問の場合3問程度が見込まれています。
A.企画競争募集要領は、市場の拡大に伴う新規参入の増加により、説明不足の事案、利益相反が生じた状態で進む事案、不適切な買い手が排除されない問題が見受けられたことを挙げ、質の高い支援機関・専門人材を増やし可視化する仕組みが重要であるとしています。
A.公表主体によって集計範囲が異なります。中小M&Aの多くは公表されないため、どの統計も市場の全体像ではありません。出典と母数を確認したうえで、受験時点の最新の公表値をご確認ください。

Book

この試験の勉強に使えるもの:試験範囲マップ|251項目と当社コラムの対応表で、どの項目にどの記事が対応しているか(と、当社が書けていない項目)を一覧できます。

中小M&A資格試験 合格問題集|一次資料で解く、全300問

当社取締役副社長 神垣宏康が執筆した問題集です。中小M&Aガイドライン第3版・知識スキルマップ・検討会資料「試験科目詳細」といった公表資料だけから全300問を作成し、全問に出典を明記しています。

本編180問(M&A実務55/市場動向・政策17/財務・税務37/法務32/倫理・行動規範39)+本試験と同じ60問・科目配分の模擬試験2回120問。各問に解説と出典。禁忌肢が想定される問題の明示と、付録に禁忌肢チェックリスト。付録の出題範囲対応表は、資料3の小項目から問番号を引ける形にしてあります。

中小M&A資格試験 合格テキスト|一次資料で体系的に学ぶ、4科目の要点

同じシリーズの基本書です(2026年10月3日刊行)。序章で制度創設の経緯・4科目と配点・合格基準・禁忌肢・CBTでの実施形式・学習プランを示し、第1章 M&A実務/第2章 中小M&A市場動向・中小企業政策/第3章 財務・税務/第4章 法務/第5章 倫理・行動規範の順に解説しています。付録は用語集・重要数値一覧・スキーム比較表・出題範囲対応表・学習記録シート。数値・期間・条文には出典を併記し、制度の数値は2026年10月1日時点です。

問題集で問われ方を確かめ、間違えた問から本書の該当節に戻る形を想定しています。付録の出題範囲対応表が、2冊の往復の索引になります。

本書は試験の実施主体・運営事業者が作成・監修したものではありません。制度の内容は2026年9月時点の公表資料に基づく「想定」「現状案」です。受験にあたっては公式の試験案内をご確認ください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役副社長。中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら