小規模多機能型居宅介護は、通い・泊まり・訪問をひとつの事業所で提供する仕組みです。指定するのは都道府県ではなく市町村で、地域によっては新規の開設そのものが難しい。この性格が、承継の価値を大きく左右します。
小規模多機能型居宅介護を取り巻く承継の環境
在宅で暮らし続けたい方を支える仕組みとして期待されている一方、運営は簡単ではありません。定額の報酬に対し、通い・泊まり・訪問のすべてに人を配置する必要があるためです。登録者が定員に満たなければ、たちまち採算が崩れます。
加えて、介護人材の確保が全国的に厳しく、小規模な法人ほど採用力の差が効いてきます。経営者の高齢化と重なり、単独で続けることの負担から承継を考える事業者が増えています。
地域密着型サービスという性格
このサービスは地域密着型サービスに位置づけられ、指定を行うのは市町村です。原則としてその市町村の住民が利用します。
ここが承継で決定的に効きます。多くの市町村が介護保険事業計画に基づいて必要な数を定め、公募によって開設する事業者を選ぶ運用をとっています。つまり、お金を出せば新しく作れるわけではない。既存の事業所を引き継ぐことが、その地域で事業を始める実質的に唯一の道になっている場合があります。
指定の要件や公募の運用は市町村ごとに異なります。具体的な取り扱いは、所在する市町村の介護保険担当課にご確認ください。
スキームによって、指定の扱いが変わる
会社ごと引き継ぐ株式譲渡であれば、指定は同じ法人に帰属したまま維持されるのが原則です。役員や管理者の変更に伴う届出は必要ですが、サービスを止めずに承継できます。
これに対し事業譲渡で事業所だけを移す場合、譲受側で改めて指定を受けることが原則となります。公募制をとっている市町村では、そもそも申請の機会が限られるため、この方法が取れないこともあります。利用者の生活が途切れる影響も大きく、この分野では株式譲渡が選ばれやすくなります。
登録定員と稼働率が、採算をほぼ決める
買い手が最初に見るのは、登録者数が定員に対してどれだけ埋まっているかです。定額報酬のため、稼働率がそのまま収益に直結します。
あわせて、通い・泊まりの1日あたりの平均利用人数、要介護度の分布、そして登録者がどこから来ているか(居宅介護支援事業所からの紹介か、病院からか、自法人の他事業からか)が確認されます。紹介の経路が特定の先に偏っている場合、承継後もその関係が続くかが論点になります。
人員配置と、管理者の要件
この事業には、管理者、介護支援専門員、看護職員、介護職員の配置に関する基準があります。管理者には研修の修了などの要件が定められており、すぐに代わりが見つかるとは限りません。
小規模な事業者では、経営者が管理者を兼ねていることが少なくありません。その場合、承継では「誰が管理者と介護支援専門員を担うか」を、譲渡条件と同じ重さで決めることになります。加えて、夜勤・宿直を回せる人員が確保できているかは、買い手が必ず確認する点です。
実地指導・監査の履歴と、返戻の状況
買収前の調査では、実地指導で何を指摘され、どう改善したかの記録と、返戻・過誤請求の履歴が見られます。報酬が定額であっても、登録者の状況や算定の要件は請求のたびに問われますので、ここは細かく確認されます。
指摘を受けた履歴があること自体が不利になるとは限りません。困るのは、把握されないまま後から出てくる場合です。先に整理して開示したほうが、結果として条件は良くなります。
価値を下げてしまう要因
- 稼働率が低いまま推移し、原因を説明できない
- 管理者の後任が想定されていない
- 夜勤を担える職員が不足し、受け入れを絞っている
- 実地指導の指摘と改善の記録が残っていない
- 建物が経営者個人の名義で、賃貸借の取り決めが曖昧
売却を考え始めたら、先に整えておきたいこと
- 稼働率と登録者の推移を、紹介経路別に整理する
- 管理者・介護支援専門員の要件を満たす人を確保する
- 実地指導の履歴と改善報告をまとめる
- 建物・設備の権利関係を確認する
- 市町村の公募の状況を把握しておく
介護分野全般の進め方は「介護事業のM&A」もあわせてご覧ください。
まとめ
小規模多機能型居宅介護の承継では、市町村の指定・稼働率・管理者と人員が柱になります。とくに指定は、地域によっては新規に取ることが事実上できないため、既存事業所そのものが希少な資産です。
利用者にとっては、通い慣れた事業所が続くかどうかの問題でもあります。続けることが難しくなったとき、人を確保できる法人に託すことには、事業以上の意味があります。
本稿の内容は執筆時点(2026年9月)の一般的な整理です。許認可・税務・法務の取り扱いは個別の事情により異なりますので、具体的な検討にあたっては所管官庁および税理士・弁護士等の専門家にご確認ください。