複数の事業を営む会社では、承継の準備を進める中で「この部門をどうするか」という問いに必ず突き当たります。長年続けてきたが利益が出ていない事業、思い入れはあるが縮小が続く事業。これを承継の前に整理すべきか、後継者の判断に委ねるべきか。本稿では、判断の基準、撤退に伴うコスト、そして切らずに切り離すという選択肢について整理します。

承継の前に必ず出てくる問い

不採算事業の扱いは、承継のどの方式を選ぶかにかかわらず論点になります。

親族内承継であれば、後継者が引き継ぐ負担になります。社内承継でも同様です。第三者へのM&Aであれば、買い手にとって不採算部門は評価を下げる要因となり、譲渡条件に影響します。

一方で、「不採算だから切る」と単純に決められないのが実情です。長年その事業を担ってきた従業員がいる、地域の顧客に必要とされている、他の事業と設備や人員を共有している、といった事情が絡むためです。

だからこそ、感情ではなく基準で判断することが大切になります。

切るかどうかの判断基準

実務で用いられる判断の軸を挙げます。すべてを満たす必要はありませんが、複数の軸から見ることで判断の精度が上がります。

問い
部門別の採算共通費を配賦しても赤字か。限界利益は出ているか
資金の流出その事業のために、毎年いくら現金が出ていくか
他事業との関係撤退すると他の事業の売上や仕入条件に影響するか
改善の見込みあと何年、何をすれば黒字化するのか。その根拠はあるか
人員の配置転換従事している従業員を、他の部門で活かせるか
撤退のコスト設備の処分、契約の解約、原状回復にいくらかかるか

まず必要なのは、部門別の損益を正確に把握することです。中小企業では、全社の損益しか見ていないために、どの事業が実際に足を引っ張っているのかが分からないことが少なくありません。共通費の配賦をどうするかで見え方は変わりますが、まずは概算でも部門別に分けてみることが出発点です。

4番目の改善の見込みは、厳しく問う必要があります。「あと少しで良くなる」と言い続けて数年が経っている場合、その判断は一度リセットしたほうがよいでしょう。

撤退にかかるコストと時間

撤退を決めても、すぐに終わるわけではありません。見込んでおくべき事項を挙げます。

  • 雇用:従事している従業員の配置転換。他部門で受け入れられるか、教育の期間はどれくらいか
  • 顧客:取引の終了をいつ、どう伝えるか。他社を紹介する必要があるか
  • 契約:賃借している設備・不動産の解約条件。違約金や原状回復の費用
  • 設備:機械等の処分費用。売却できるものと廃棄するもの
  • 在庫:残った在庫の処分。評価損の計上
  • 許認可:廃止の届出が必要なものがないか

これらの費用は、撤退した期の損益に表れます。承継の直前に行うと、後継者が引き継ぐ最初の決算が悪化することにもなりかねません。撤退を選ぶなら、承継の数年前に着手し、影響が落ち着いた状態で引き継ぐことが望ましいでしょう。

また、雇用への影響は慎重な検討を要します。整理解雇には法律上の厳しい制約があり、安易に進められるものではありません。配置転換の可能性を含め、労務の取り扱いは弁護士や社会保険労務士にご相談ください。

切らずに切り離す|事業譲渡・会社分割

撤退だけが選択肢ではありません。不採算とされる事業でも、他社にとっては価値を持つことがあります。設備、顧客基盤、許認可、技術者——これらを必要としている会社があれば、事業として引き継いでもらう道があります。

方法としては、次の2つがよく用いられます。

事業譲渡

特定の事業に関する資産・負債・契約を個別に移転する方法です。移す範囲を柔軟に決められる反面、契約の相手方や取引先から個別に同意を得る必要があり、手続きに時間がかかります。

会社分割

事業に関する権利義務を包括的に移転する方法です。個別の同意を得る手間は軽くなりますが、法定の手続きが必要で、債権者保護の手続きなども伴います。使い方は「会社分割とは」で詳しく解説しています。

いずれの方法でも、従業員の雇用をどう扱うかが重要な論点になります。引き継ぐ側で雇用が維持されるのであれば、撤退よりも従業員にとって望ましい形になり得ます。手続きと税務の取り扱いは複雑ですので、弁護士・税理士にご確認ください。

なお、切り離しによって残る事業の収益性が明確になれば、承継後の会社の姿も見えやすくなります。第三者へ譲渡する場合も、事業の輪郭がはっきりしているほうが評価されやすい傾向があります。

後継者に判断を残すという選択

すべてを先代が決めてから引き継ぐべきかというと、必ずしもそうではありません。後継者が自分の判断で事業を再構築していくことには、経営者としての立場を確立するうえでの意味があります。

ただし、判断を残す場合には条件があります。

  • 後継者が判断に必要な情報(部門別損益、契約内容、人員配置)を持っていること
  • 先代が、後継者の判断を覆さないと決めていること
  • 撤退や切り離しに必要な資金の余裕があること
  • 判断を遅らせても、会社の体力が持つこと

2番目が特に重要です。長年続けてきた事業の撤退は、先代にとって心情的に受け入れがたいことがあります。ここで判断が覆ると、後継者は経営の主体になれません。権限移譲の設計については「先代はいつ会長になるか」をご覧ください。

逆に、資金の余裕が乏しく、撤退の判断を先送りするほど体力が削られる状況であれば、先代の代で決着をつけるほうが後継者のためになります。

まとめ|判断を先送りにしないこと

不採算事業の扱いに、一律の正解はありません。切るべき場合もあれば、切り離すべき場合も、後継者に委ねるべき場合もあります。

ただ、どの結論を選ぶにせよ、判断を先送りし続けることだけは避けたいところです。判断されないまま資金が流出し続ければ、承継そのものの選択肢が狭まります。

まずは部門別の損益を把握し、判断の基準に照らして検討してください。そのうえで、切り離しという選択肢がありそうであれば、事業として引き継ぐ相手を探すことも検討に値します。当社では、事業単位での譲渡のご相談も承っています。事業承継をお考えの方へのご案内もご参照ください。

よくあるご質問

A.必ずしもそうではありません。共通費の配賦方法によって見え方が変わりますし、他の事業との相乗効果がある場合もあります。まず部門別の損益と資金の流出額を把握したうえで、改善の見込み、撤退のコスト、雇用への影響を踏まえて判断してください。撤退するなら、影響が落ち着いた状態で引き継げるよう、承継の数年前に着手することが望ましいでしょう。
A.自社にとって不採算でも、設備・顧客基盤・許認可・人材を必要としている会社にとっては価値があることがあります。とくに同業で規模の拡大を図っている会社や、その地域への進出を考えている会社にとっては検討対象になり得ます。事業譲渡や会社分割によって引き継いでもらえれば、従業員の雇用が維持される可能性もあります。
A.まず検討すべきは他部門への配置転換です。整理解雇には法律上の厳しい制約があり、安易に進められるものではありません。事業譲渡や会社分割によって他社に引き継いでもらう形であれば、雇用が維持される可能性があります。労務の取り扱いは弁護士や社会保険労務士にご相談ください。
本稿の税務・法務に関する記載は2026年9月時点の制度に基づく一般的な解説です。税務の具体的な適用は税理士に、法務の判断は弁護士にご確認ください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら