事業承継において、金融機関との関係は避けて通れません。借入があれば当然ですが、なくても、決済口座や将来の資金調達を考えれば無関係ではいられません。とくに、経営者の個人保証をどう扱うかは、承継が前に進むかどうかを左右する論点です。本稿では、承継にあたって金融機関に何をいつ伝えるべきか、後継者をどう紹介するか、保証と融資枠の話をどう進めるかを整理します。個別の対応は取引金融機関にご確認ください。
金融機関にとっての事業承継
金融機関の立場から見ると、取引先の事業承継は重要な関心事です。経営者が交代すれば、その会社の返済能力や経営の方向性が変わり得るからです。とくに中小企業では、経営者個人の力量が業績に直結することが多く、代替わりは与信判断に影響する要素として捉えられます。
一方で、金融機関は事業承継を支援する立場でもあります。承継が円滑に進まずに廃業となれば、貸出先を失うことになるためです。近年は、事業承継に関する情報提供や、後継者の資金調達の支援に取り組む金融機関も増えています。
つまり、金融機関は承継の「審査する側」であると同時に「支える側」でもあります。この両面を理解したうえで、早い段階から情報を共有していくことが、実務上の要点です。
いつ、何を伝えるか
伝えるタイミングは、早いほどよいと考えてください。承継の直前に伝えると、金融機関は準備なく判断を求められることになり、保守的な対応になりがちです。
段階ごとに伝える内容を整理します。
| 段階 | 伝える内容 |
|---|---|
| 方針が固まった段階 | 誰に承継するか、時期の見通し。まだ確定でなくてもよい |
| 後継者が決まった段階 | 後継者の経歴と社内での役割。育成の計画 |
| 計画を作成した段階 | 事業承継計画の内容。株式の移転時期、代表交代の時期 |
| 1年前〜半年前 | 個人保証の扱いについての相談。承継後の資金計画 |
| 交代の直前 | 正式な報告と、必要な手続きの確認 |
事業承継計画は、金融機関に対する説明資料としても機能します。作り方は「事業承継計画書の作り方」をご参照ください。
なお、第三者へのM&Aを検討する場合は、伝えるタイミングの考え方がまったく異なります。検討段階での情報の扱いには注意が必要です。「M&Aを銀行に伝えるタイミング」で解説していますので、あわせてご覧ください。
後継者をどう紹介するか
金融機関にとって、後継者がどのような人物かは重要な判断材料です。単に「息子です」と紹介するだけでは足りません。伝えるべき情報を挙げます。
- これまでの経歴。社外での経験があればその内容
- 入社後に担ってきた役割と、上げてきた成果
- 会社の事業をどう理解しているか。数字を自分の言葉で語れるか
- 承継後にどのような経営を考えているか
実務的におすすめしたいのは、後継者が定例の面談に同席することです。決算の報告や資金の相談の場に、後継者が継続的に出席し、次第に説明する側に回っていく。この積み重ねが、金融機関の側での評価につながります。
逆に、代表交代の直前に初めて挨拶に行くという形は避けたいところです。金融機関は、その後継者を判断する材料を持たないまま、保証や融資の判断をすることになります。
後継者に何を経験させるかという観点は「後継者に何を経験させるか」でも扱っています。
個人保証と融資枠の話
承継における金融機関との話し合いで、最も重い論点が個人保証です。先代の保証を解除できるか、後継者に新たな保証を求められるか。ここが決まらないと、後継者が承継を受ける決断をしづらくなります。
経営者保証に関するガイドラインでは、法人と経営者個人の資産・経理の分離、財務基盤の確保、適時適切な情報開示という3つの観点が示されています。また、事業承継に焦点を当てた特則では、前経営者と後継者の双方から保証を取る二重徴求を原則として行わないこととされています。
金融庁の公表によれば、2024年度上期には新規融資の52%が経営者保証に依存しないものとなっています。保証なしの融資は、以前より現実的な選択肢になっているといえます。詳しい進め方は「個人保証を後継者に引き継ぐか」をご覧ください。
あわせて確認しておきたいのが、承継後の融資枠です。代表者が交代したことで、既存の当座貸越枠や融資の条件が見直される可能性があります。承継の前に、次の点を確認しておくとよいでしょう。
- 既存の借入について、代表者の交代が期限の利益の喪失事由になっていないか
- 当座貸越や手形割引の枠が、承継後も維持されるか
- 後継者への保証の要否について、どのような判断になるか
- 承継に伴う資金需要(株式の買取資金、退職金の支払など)に対応してもらえるか
複数行と取引がある場合
複数の金融機関から借入がある会社では、対応が分かれることがあります。ある行は保証なしに応じ、別の行は求めるといった状況です。
この場合に気をつけたいのは、説明の内容を揃えることです。各行に異なる時期に異なる説明をすると、情報の食い違いが不信につながります。事業承継計画という共通の資料をもとに、同じ内容を伝えるのが基本です。
また、メインバンクとの関係をどう位置づけるかも重要です。承継の相談を最初にどこにするか、その後どの順で他行に伝えるか。取引の経緯によって適切な順序は異なりますが、メインバンクを飛ばして他行に先に相談することは、関係を損なうおそれがあります。
借入条件に差がある場合、承継を機に借入の集約を検討することもあります。ただし、複数行との関係を維持しておくことには、資金調達の安定という意味もあります。集約が常に良いとは限りません。
まとめ|説明は、承継の数年前から始める
金融機関への説明は、一回の報告で済むものではありません。方針が固まった段階から、後継者を紹介し、計画を共有し、保証の相談をする——この積み重ねが、承継後の資金調達の安定につながります。
とくに個人保証の見直しは、会社側の条件整備に時間がかかります。法人と個人の資産の分離、財務基盤の強化、情報開示の継続。いずれも数年単位の取り組みです。承継の話が具体化してからでは間に合わないことが多いのです。
当社では、承継の方針を検討される段階から、金融機関への説明の設計を含めてご相談を承っています。第三者への譲渡を検討される場合の伝え方についても、あわせてご説明いたします。事業承継をお考えの方へのご案内もご参照ください。
よくあるご質問
Free Consultation
承継の進め方について、ご相談を承ります。
金融機関への説明を含め、承継の全体像を時系列でご説明します。
メール(info@platinumpartners.jp)でも承ります。