事業承継がうまくいかなかった、という話は珍しくありません。会社が立ち行かなくなる場合もあれば、事業は続いているものの家族の関係が壊れてしまう場合もあります。こうした事態の原因は、いくつかのパターンに集約されます。しかも、その多くは事前に手を打てるものです。本稿では、事業承継が失敗する典型的なパターンを整理し、それぞれの兆候と防ぎ方をご説明します。

「失敗」とは何を指すのか

まず、事業承継における失敗の姿を整理しておきます。次のような状態が挙げられます。

  • 準備が間に合わず、承継の選択肢が廃業しか残らなかった
  • 株式が分散し、後継者が安定した経営権を確保できない
  • 代表は交代したが、実質的な意思決定が移らないまま数年が過ぎた
  • 個人保証の問題が解決せず、後継者が承継を辞退した
  • 承継を機に、幹部や中核の従業員が退職した
  • 相続をめぐって家族の関係が壊れた
  • 承継後の資金繰りが行き詰まった

これらに共通しているのは、どれも「承継の当日」に起きるものではないということです。数年前の判断や、判断しなかったことの結果が、この形で表れます。

裏を返せば、早い段階で兆候をつかめば、防げるということでもあります。以下、主なパターンを見ていきます。

パターン1|準備の着手が遅すぎる

もっとも多い原因です。後継者の育成にも、株式の移転にも、保証の整理にも、決算の整備にも、それぞれ数年単位の時間がかかります。これらを同時並行で進めるには、承継の数年前からの着手が必要です。

兆候:「まだ元気だから」「あと数年は自分がやる」という言葉が繰り返されている。後継者候補に承継の意思を確認していない。株主名簿を長年見ていない。

防ぎ方:年齢や体調とは無関係に、現在地の確認から始めることです。何が整っていて何が整っていないかを一覧にするだけで、着手すべき順序が見えます。進め方は「事業承継診断とは」でご説明しています。

とくに、経営者の健康は年齢と関係なく変わり得ます。急な事態への備えについては「経営者が病気になったら会社はどうなる」もご覧ください。

パターン2|株式が分散したまま進む

過去の相続、設立時の名義、意図的な分散。理由はさまざまですが、株式が複数の人に分かれたまま承継が進むと、後継者は安定した経営権を確保できません。

会社の意思決定には、通常の決議で過半数、定款変更などの重要な決議で3分の2以上の賛成が必要です。後継者の議決権がこれに届かない場合、経営のたびに他の株主の同意を求めることになります。

兆候:株主名簿と実際の株主が一致していない。連絡の取れない株主がいる。名義だけの株主がいる。

防ぎ方:承継の前に株式を集約することです。集約の方法には、経営者や後継者による買い取り、会社による自己株式の取得、持株会社への集約などがあります。「兄弟間の承継」や「自己株式の取得(金庫株)を使った事業承継」もご参照ください。

関係が良好なうちほど集約は進めやすく、世代が下るほど難しくなります。この点でも、早さが効いてきます。

パターン3|権限が移らない

代表取締役は交代したのに、実質的な意思決定は先代が行い続けている状態です。社内は「最終的には会長が決める」と学習し、後継者の指示が空回りします。

兆候:重要な相談が先代のもとに集まっている。後継者の判断が覆された事例がある。決裁権限の線引きが文書になっていない。

防ぎ方:何をいつまでに移すかを、期限つきで文書にすることです。決裁の金額基準、人事権、金融機関の窓口、重要な投資判断。それぞれに移譲の時期を定めます。詳しくは「先代はいつ会長になるか」をご覧ください。

背景には、後継者の判断に対する不安に加えて、個人保証が残っていることや、役割を失うことへの不安があります。これらを一緒に整理しなければ、権限だけを移そうとしてもうまくいきません。

パターン4〜6|保証・説明・選択肢の欠落

パターン4|個人保証の問題を先送りする

会社の借入に付いた経営者の個人保証を、誰がどう引き継ぐのか。この問題を放置すると、後継者が承継そのものを辞退することがあります。

防ぎ方:金融機関への相談を、承継の数年前から始めることです。経営者保証に関するガイドラインでは、法人と個人の資産・経理の分離、財務基盤の確保、適時適切な情報開示が重視されています。金融庁の公表によれば2024年度上期には新規融資の52%が経営者保証に依存しないものとなっており、保証なしの融資は現実的な選択肢になっています。「個人保証を後継者に引き継ぐか」で詳しく扱っています。

パターン5|社内・関係先への説明が足りない

後継者の発表が唐突だった、順番を誤って古参の幹部の心証を損ねた、取引先への挨拶が交代後になった。こうした説明の不足は、幹部の離反や取引条件の見直しにつながります。

防ぎ方:誰にいつ何を伝えるかを、あらかじめ設計することです。社内については「後継者を社内にどう披露するか」を、取引先については「取引先への引き継ぎ」をご参照ください。

パターン6|選択肢を比べずに決める

親族内承継を諦めた時点で廃業を選んでしまう、あるいは逆に、他の道を知らないまま親族内承継を強行する。選択肢を並べずに決めた承継は、後になって「本当にあれでよかったのか」という迷いを残します。

防ぎ方:親族内・社内・第三者という3つの道を、同じ軸で比較することです。比較の方法は「承継の選択肢を整理する」でご説明しています。

まとめ|失敗の多くは、先送りから始まる

ここまで見てきた6つのパターンには、共通する背景があります。それは、判断の先送りです。後継者への意思確認、株式の集約、権限の移譲、保証の相談、社内への説明、選択肢の比較——いずれも、先送りすることで問題が大きくなっていきます。

逆に言えば、これらに順に着手していけば、多くの失敗は避けられます。すべてを一度にやる必要はありません。まずは現在地を確かめ、時間のかかるものから手をつけることです。

帝国データバンクの2025年調査によれば、国内企業の後継者不在率は50.1%です。後継者がいないこと自体は珍しくありません。問題は、いないと分かってからどう動くかです。当社プラチナパートナーズでは、承継の選択肢を並べて整理するご相談を無料で承っています。判断の材料が足りないと感じられた段階で、お気軽にご連絡ください。

よくあるご質問

A.後継者の育成、株式の移転、保証の整理、決算の整備。いずれも数年単位の時間を要します。これらを並行して進めるには、承継の希望時期から逆算して数年前には着手したいところです。年齢よりも「承継までに使える時間がどれだけあるか」で考えてください。まずは現在地の確認から始めることをおすすめします。
A.可能な場合が多くあります。経営者や後継者が個別に買い取る、会社が自己株式として取得する、持株会社に集約するといった方法があります。ただし、株主が売却に応じてくれるとは限らず、関係が良好なうちほど進めやすいのが実情です。価格の設定には税務上の論点もありますので、税理士とご相談のうえ、早めに着手してください。
A.そうとは限りません。役員・従業員への承継、M&Aによる第三者への承継という道があります。とくに第三者承継は、後継者を社外に広く求められるため、親族や社内に候補がいなくても成立し得ます。廃業を決める前に、これらの選択肢を並べて比較することをおすすめします。まずはご相談ください。
本稿の税務・法務に関する記載は2026年9月時点の制度に基づく一般的な解説です。税務の具体的な適用は税理士に、法務の判断は弁護士にご確認ください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら