お子様が複数いらっしゃる場合、事業承継には親族内承継特有の難しさが加わります。会社を継ぐのは一人でも、相続人は複数。株式をどう配分するかによって、承継後の経営の安定も、ご家族の関係も変わります。本稿では、兄弟姉妹がいる場合の株式と経営の分け方について、実務でよく用いられる考え方と、避けたい形を整理します。なお、遺留分や遺言に関する法的な判断は弁護士に、税務の適用は税理士にご確認ください。

兄弟がいる承継で必ず出る論点

兄弟姉妹がいる会社の承継では、次の3つが必ず論点になります。

  • 誰が経営を継ぐか:一人か、複数で分担するか
  • 株式をどう配分するか:後継者に集めるか、均等に分けるか
  • 経営に関与しない兄弟にどう報いるか:公平をどう定義するか

難しいのは、この3つが独立していないことです。経営を一人に任せるなら株式も集めたい。しかし株式を集めれば他の兄弟の取り分が減る。取り分を補おうにも、中小企業の経営者の財産は自社株が大半を占めることが多い——という循環に入りやすいのです。

この循環を解くには、「経営の権限」と「財産としての価値」を切り離して考える必要があります。以下で順に見ていきます。

株式を均等に分けることのリスク

「子どもたちには公平にしたい」というお気持ちから、株式を均等に相続させる設計を考えられる方がいらっしゃいます。しかし、経営の観点からは慎重な検討が必要です。

株式会社の意思決定は、議決権の割合で決まります。おおまかには、普通決議には過半数、定款変更や組織再編などの特別決議には3分の2以上の賛成が必要です。株式が均等に分かれると、後継者が単独では何も決められない状態が生まれ得ます。

後継者の議決権できること
3分の2以上定款変更や組織再編を含む重要事項を単独で決議できる
過半数役員の選任など通常の決議は単独で可能
過半数未満役員の選任にも他の株主の賛成が必要になる

問題は、承継の直後ではなく、その先で表面化することが多い点です。当初は兄弟の関係が良好でも、次の世代に相続が進めば、株主は甥や姪へと広がります。関係が薄くなった株主が多数存在する会社では、株主総会の開催そのものが困難になることもあります。

また、少数株主であっても一定の権利を持ちます。会社の帳簿の閲覧を求められる、株式の買い取りを求められるといった場面が生じ得ます。経営に関与しない親族が株主として残る設計は、将来にわたって影響が続くことを踏まえてご検討ください。

経営と所有をどう組み合わせるか

実務でよく採られるのは、「経営権は後継者に集中させ、財産としての公平は別の方法で図る」という組み立てです。具体的な手段をいくつか挙げます。

株式は後継者へ集中し、他の財産で調整する

不動産、預貯金、生命保険金などを他の兄弟に配分し、全体としてのバランスを取る方法です。もっとも素直な設計ですが、自社株の評価額が財産の大半を占める場合には、調整に使える財産が足りないという壁に当たります。

種類株式を用いる

議決権のない株式(無議決権株式)を発行し、経営に関与しない兄弟にはそちらを持ってもらうという設計です。配当を受ける権利は残しつつ、経営の意思決定は後継者に集約できます。ただし発行には定款変更などの手続きが必要で、設計にも専門的な検討を要します。「種類株式・黄金株とは」で解説しています。

生命保険を活用する

後継者を受取人とする生命保険で、他の兄弟へ支払う代償金の原資を用意しておく方法や、他の兄弟を受取人にして直接バランスを取る方法があります。契約形態によって課税関係が変わりますので、税理士にご確認ください。

持株会社を用いる

持株会社に事業会社の株式を保有させ、持株会社の株式の配分で調整する設計です。組み立て方の考え方は「ホールディングス化とは」をご覧ください。

経営に関与しない兄弟への配慮

設計と同じくらい大切なのが、伝え方です。株式を後継者に集中させる方針は、他の兄弟から見れば「自分だけ少ない」と映り得ます。ここで感情のもつれが生じると、相続の場面で遺留分をめぐる争いに発展しかねません。

実務上、次のような進め方が有効です。

  • 先代がご存命のうちに、方針とその理由をご自身の言葉で全員に説明する
  • 「会社を継ぐ者には、経営の責任と個人保証が伴う」ことを具体的に伝える
  • 株式以外の財産の配分を含め、全体像を示す
  • 決めた内容は遺言など文書の形にし、口約束で終わらせない

2番目は見落とされがちですが、重要です。後継者は株式を多く受け取る一方で、会社の借入に個人保証を求められることが一般的です。この非対称性を説明せずに株式の数だけを比べると、不公平に見えます。保証の実務は「個人保証を後継者に引き継ぐか」で扱っています。

なお、遺言で株式を後継者に集中させても、他の相続人の遺留分を侵害していれば金銭の支払いを求められる可能性があります。遺留分に関する民法の特例を含め、法的な設計は弁護士にご相談ください。「遺言と自社株」もあわせてご参照ください。

既に株式が分散している場合の集約

前の世代の相続によって、すでに株式が兄弟や親族に分散しているケースも多く見られます。この場合、承継の前に集約を検討することになります。方法としては次のようなものがあります。

  • 後継者または現経営者が、個別に買い取る
  • 会社が自己株式として買い取る(金庫株)
  • 持株会社を設立し、そこに集約する

会社が買い取る方法は、後継者個人の資金負担を避けられる反面、会社の資金が流出し、売却する株主側の課税関係も個人が買う場合とは異なります。「自己株式の取得(金庫株)を使った事業承継」で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

いずれの方法でも、価格の設定が論点になります。著しく低い価格での取引は、差額について課税上の問題を生じ得ます。適正な価格の算定は税理士にご確認ください。

まとめ|決めるのは、先代がいるうちに

兄弟間の承継で最も避けたいのは、何も決めないまま相続が発生することです。遺言がなければ株式は遺産分割協議の対象となり、協議がまとまるまで共有状態が続きます。その間、会社の意思決定は不安定になります。

逆に、先代がご存命のうちに方針を決め、理由を説明し、文書にしておけば、多くの争いは避けられます。決めることは兄弟間の優劣を決めることではなく、会社を存続させるための役割分担を決めることです。

なお、兄弟間で折り合いがつかず、親族内承継そのものが難しいという結論に至ることもあります。その場合、第三者への譲渡によって株式を現金化し、その現金を公平に分けるという解決の形もあります。事業承継をお考えの方へのご案内もご参照ください。

よくあるご質問

A.会社の意思決定は議決権の割合で決まるため、株式が均等に分かれると後継者が単独で決議できない状態が生まれ得ます。当初は関係が良好でも、次の世代に相続が進むと株主が甥や姪へと広がり、株主総会の運営自体が難しくなることもあります。財産としての公平は、株式以外の方法で図ることをご検討ください。
A.遺留分という制度があり、兄弟姉妹以外の法定相続人には最低限の取り分が法律上保障されています。株式を後継者に集中させる場合は、不動産・預貯金・生命保険金などで他の相続人への配分を設計する必要があります。調整に使える財産が足りない場合の対応も含め、弁護士・税理士にご相談ください。
A.経営者または後継者が個別に買い取る、会社が自己株式として買い取る、持株会社に集約するといった方法があります。いずれも価格の設定が論点になり、著しく低い価格での取引は課税上の問題を生じ得ます。また、株主が売却に応じてくれるとは限らないため、関係が良好なうちに進めることが実務上の鍵になります。
本稿の税務・法務に関する記載は2026年9月時点の制度に基づく一般的な解説です。税務の具体的な適用は税理士に、法務の判断は弁護士にご確認ください。

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第三者承継によって現金化し、公平に分けるという解決の形もあります。
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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら