工場や店舗を持つ会社のM&Aでは、不動産が移るかどうかで税負担が大きく変わります。株式譲渡ならかからない税金が、事業譲渡では発生します。買い手の負担ですが、結果として価格交渉に跳ね返ります。
株式譲渡では、不動産は動かない
株式譲渡では、会社の株主が変わるだけで、不動産の所有者は会社のままです。登記名義も変わりません。
したがって、不動産取得税も登録免許税もかかりません。これは株式譲渡が選ばれる大きな理由の一つです。
含み益のある不動産を持つ会社ほど、この差は効きます。時価数億円の土地を持つ会社を事業譲渡で移そうとすると、流通税だけで数千万円の負担が生じることがあります。
事業譲渡では、両方かかる
事業譲渡で不動産を移す場合、買い手に不動産取得税と登録免許税が課されます。
不動産取得税は、取得した不動産の価格(固定資産税評価額が基礎)に税率を掛けて計算します。標準税率は4%ですが、土地と住宅については軽減措置が設けられており、宅地の課税標準についても特例があります。
登録免許税は、所有権移転登記の際に課されます。売買による移転の税率は、土地・建物とも本則2%ですが、土地の売買による移転登記には軽減措置が設けられています。いずれも期限のある特例が含まれるため、適用時期の確認が必要です。
会社分割には非課税の特例がある
会社分割で不動産が移る場合、一定の要件を満たせば不動産取得税が非課税となる特例があります。
要件は、分割の対価が株式のみであること、分割する事業に係る主要な資産・負債が移転すること、従業者のおおむね8割以上が引き続き従事すること、事業が継続する見込みであることなど、複数にわたります。
登録免許税については、会社分割による移転の税率が売買より低く設定されています。不動産の比重が大きい案件で会社分割が検討されるのは、この差があるためです。ただし要件の判定は専門的で、外れると一気に負担が増えます。必ず事前に税理士・司法書士に確認してください。
誰が負担するのか
不動産取得税も登録免許税も、取得する側=買い手の負担です。売り手が直接支払うものではありません。
ただし、買い手にとっては買収に要する総コストの一部です。「この価格に加えて流通税が数千万円かかる」となれば、その分を織り込んだ価格を提示してきます。
つまり、売り手の手取りに間接的に影響します。不動産の比重が大きい会社ほど、方法の選択が価格に直結します。
売り手側にかかる税金は別にある
混同しないでいただきたいのが、売り手側の税負担です。
事業譲渡で不動産を売却すると、会社に譲渡益が生じて法人税が課されます。簿価の低い土地ほど益が大きくなります。さらに建物の譲渡には消費税がかかります(土地は非課税)。
株式譲渡であれば、オーナー個人に譲渡所得として所得税・住民税が20.315%(復興特別所得税を含む)課されるだけです。会社に法人税は生じません。不動産を持つ会社では、この差が手取りを大きく分けます。
固定資産税の精算も忘れない
税金ではありませんが、実務で必ず出てくるのが固定資産税の精算です。
固定資産税は1月1日時点の所有者に課されます。年の途中で不動産が移る場合、引き渡し日を基準に日割りで精算するのが商慣行です。
株式譲渡では会社が所有者のままなので精算は生じませんが、事業譲渡や会社分割では論点になります。契約書に精算の方法と基準日を書いておいてください。「慣行どおり」とだけ書くと、起算日をめぐって争いになります。
不動産を手元に残す選択との関係
「本社の土地だけは残したい」というご希望がある場合、流通税の観点からも検討が要ります。
会社から個人へ不動産を移す場合、それは売買ですから、個人に不動産取得税と登録免許税がかかります。会社には譲渡益への法人税が生じます。
「残す」という判断には、相応の税コストが伴います。賃貸借に切り替えて会社に残したまま貸す、という選択と比べて、税引き後で何が残るのかを試算してください。詳しくは本社不動産を手元に残せるかで扱っています。
方法を決める前に試算する
不動産を持つ会社のM&Aでは、方法の違いが税負担に直結します。
株式譲渡なら流通税ゼロ、事業譲渡なら買い手に流通税+売り手に法人税、会社分割なら要件次第で軽減。この差は、会社の規模によっては数千万円になります。
「どの方法にするか」を決める前に、それぞれの税負担を並べて試算してください。税制には期限のある特例が多く含まれ、改正もあります。必ず最新の取り扱いを税理士にご確認ください。当社は、税理士の先生とご一緒のご相談も承っています。