ものづくり補助金、事業再構築補助金、事業承継・M&A補助金。補助金を受けて設備を導入した会社は少なくありません。この設備には処分制限がかかっています。譲渡の場面で見落とすと、返還を求められることがあります。
補助金で取得した財産には制限がかかる
国や自治体の補助金を受けて取得した財産(機械装置、建物、ソフトウェアなど)は、一定の期間、補助金の交付の目的に反して使用したり、譲渡したり、担保に供したりすることが制限されます。これを財産処分の制限といいます。
根拠は、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(補助金適正化法)と、各補助金の交付規程です。国庫補助金でない自治体の補助金でも、同様の制限が定められているのが通例です。
制限の期間は、財産の法定耐用年数を基準に定められることが一般的です。取得から数年で終わるものもあれば、建物のように十年以上続くものもあります。
M&Aの方法によって、影響が変わる
ここが実務上もっとも重要な点です。株式譲渡では、財産の所有者である会社そのものは変わりません。したがって、財産の処分にはあたらないと整理されることが一般的です。
これに対して事業譲渡や会社分割では、財産が別の法人に移ります。これは処分にあたるため、補助金の交付者の承認が必要になります。
つまり、同じ会社を譲る場面でも、方法の選択によって手続きの有無が変わります。補助金で大きな設備を導入している会社では、この点が方法の選択に影響することがあります。
承認を得ずに処分するとどうなるか
制限期間内に承認を得ずに財産を処分した場合、補助金の全部または一部の返還を命じられる可能性があります。加算金が課されることもあります。
返還額は、残存期間や財産の価値に応じて計算されるのが一般的です。金額が大きくなれば、譲渡の経済性そのものに影響します。
さらに、買い手のデューデリジェンスで指摘されれば、価格や表明保証の条件に反映されます。「知らなかった」では済まない論点であり、事前の確認が欠かせません。
事業承継の場面での取り扱い
近年は、事業承継やM&Aを妨げないよう、制度の運用にも配慮がなされています。承継に伴う財産の移転について、一定の要件のもとで承認が得られる仕組みが設けられている補助金もあります。
また、事業承継を支援するための補助金として、事業承継・M&A補助金があります(これが現在の正式名称です)。M&Aに要する専門家費用などが対象となる類型があり、要件を満たせば活用できる可能性があります。
ただし、公募の時期、要件、補助率は年度ごとに変わります。検討される場合は、必ず最新の公募要領をご確認ください。
何を、いつ確認するか
実務の手順としては、まず補助金の受給履歴を洗い出すことから始めます。過去5年から10年程度をさかのぼり、交付決定通知書、実績報告書、補助金の額の確定通知書を集めます。
次に、それぞれについて対象財産と処分制限期間を確認します。交付規程や交付決定通知書に記載があります。
そして、制限期間内の財産があれば、譲渡の方法を決める前に補助金の交付者に相談します。窓口は、国の補助金であれば事務局、自治体であれば担当課です。承認の要否と手続きの期間を確認しておけば、日程に織り込めます。
買い手への開示
補助金を受けた財産があること、その処分制限期間、承認が必要かどうか。これらは買い手に開示すべき事項です。
デューデリジェンスでは、補助金関係の書類一式が求められます。ここで初めて発覚すると、買い手は「他にも把握していないことがあるのではないか」と考えます。
逆に、売り手側から整理した一覧を出せれば、管理ができている会社という評価につながります。補助金は本来、前向きな投資をしてきた証でもあります。隠すものではありません。
補助金を受ける段階での視点
これから補助金の申請を検討される方へ、一点だけ申し上げます。処分制限期間は、将来の選択肢を縛ります。
数年以内に承継や譲渡を考えている場合、大型の設備投資を補助金で行うと、その後の方法の選択に制約が生じます。株式譲渡なら影響が小さいとはいえ、事業譲渡や会社分割という選択肢が取りにくくなります。
補助金を使うなという意味ではありません。制限期間を知ったうえで判断するということです。投資の判断と承継の計画は、本来つながっているべきものです。