会社を売却し、確定申告も済ませて一段落したころ、税務署から封書が届くことがあります。申告内容の確認を求める、いわゆる「お尋ね」です。突然届くと不安になるものですが、多くは資料の提出や事実関係の確認を求めるもので、それ自体が不正を疑われていることを意味するわけではありません。本稿では、株式譲渡の後によくある問い合わせの内容と、落ち着いて対応するための準備を整理します。
※ 本稿は一般的な税制の仕組みをご紹介するものであり、特定の取引に関する税務アドバイスではありません。税制は改正によって変わるため(本稿の記載は2026年8月時点の制度に基づきます)、適用関係は個別の事情によって異なります。実際のご検討にあたっては、必ず最新の情報をご確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。
なぜ問い合わせが来るのか
株式の譲渡は、金額が大きくなりやすい取引です。個人の所得が普段の水準から大きく動く年は、申告内容の確認が行われやすくなります。これは特定の人を狙い撃ちにしているというより、金額が大きい取引について内容を確かめるという通常の事務の一環です。
また、税務署は取引の相手方や金融機関から得られる情報も持っています。会社側の登記の変更、法人税申告書に記載される株主の異動、大きな資金の移動など、複数の情報を突き合わせた結果として確認が行われることもあります。
そのため、申告が適正であっても問い合わせが来ることはあります。逆に言えば、資料を整えて事実を説明できれば、それで完結する場合がほとんどです。慌てて自己判断で回答するより、まず内容を正確に把握することが大切です。
なお、これは買い手側にとってのM&A後の税務調査とは別の話です。会社に対する調査については「M&A後の税務調査」で扱っています。
よく確認される項目
株式譲渡に関する問い合わせでは、おおむね次のような点が確認されます。
- 譲渡の相手方、譲渡した株式数、譲渡価格
- 取得費として計上した金額の根拠
- 譲渡費用として差し引いた支出の内容と、その資料
- 譲渡代金の入金状況(入金の時期、受取口座)
- 株式を複数の株主で譲渡した場合の、それぞれの持分と代金の配分
- 役員退職金など、株式の譲渡と同時に受け取った金銭の有無
いずれも、申告の際に計算の根拠としたものばかりです。つまり、申告時に整理した資料がそのまま回答の材料になります。申告が終わったからといって資料を処分せず、まとめて保管しておくことが実務上の要点です。
とくに取得費と譲渡費用は、金額の根拠を求められやすい項目です。株式の取得経緯を示す資料、仲介会社からの請求書や領収書などは、すぐに取り出せる状態にしておいてください。
届いたときの進め方
文書が届いたら、まず期限と求められている内容を確認します。そのうえで、申告を担当した税理士に連絡し、対応方針を相談するのが基本的な流れです。自分だけで回答してしまうと、説明が不十分だったり、かえって誤解を招く表現になったりすることがあります。
回答にあたっては、事実をそのまま、資料の裏づけとともに示すことが大切です。記憶が曖昧な部分を推測で埋めると、後から訂正が必要になり、かえって手間が増えます。分からないことは分からないと伝え、確認して回答する姿勢で臨むほうが確実です。
期限内に対応が難しい場合は、放置せず、事情を伝えて相談します。連絡なく期限を過ぎると、より踏み込んだ確認につながる可能性があります。
対応の具体的な進め方は、問い合わせの内容や個別の事情によって異なります。必ず税理士に相談のうえで進めてください。
申告に誤りが見つかった場合
確認の過程で、申告内容に誤りが見つかることもあります。譲渡費用に含めるべきでない支出を差し引いていた、取得費の計算に誤りがあった、といったケースです。
納める税額が不足していた場合には、修正申告という手続きで訂正します。自主的に誤りを申し出た場合と、調査によって指摘された場合とでは、加算される税の取り扱いが異なる仕組みになっていますので、誤りに気づいた時点で早めに対応することに意味があります。手続きの概要は「申告後に誤りが見つかったら」で整理しています。
逆に、納めすぎていたことが分かった場合には、更正の請求という手続きで還付を求めることができます。こちらにも期限がありますので、気づいたら速やかに税理士に相談してください。
いずれの手続きも、どちらに該当するのかの判断を含めて専門的な領域です。自己判断で書類を提出する前に、必ず確認を取ってください。
問い合わせを受けにくくする準備
問い合わせ自体を完全に避けることはできませんが、対応の負担を軽くする準備はできます。譲渡の時点から、次のことを心がけておくと違います。
- 株式譲渡契約書、代金の入金が確認できる通帳の記録を保管しておく
- 取得費の根拠資料を、申告書の控えと一緒にまとめておく
- 仲介会社への報酬など、譲渡費用の請求書・領収書を保管しておく
- 株主が複数の場合、配分の取り決めを示す書面を残しておく
- 申告を担当した税理士と、譲渡後も連絡が取れる状態にしておく
当社では、譲渡の過程で作成される契約書や報酬に関する書面について、後の申告や確認に備えて整理しておくことをお伝えしています。当社の成功報酬は移動総資産(株式価値+負債総額)を基準とするレーマン方式で最低2,000万円(税別)、相談料・着手金・月額報酬は0円です。報酬に関する書面もそのまま資料として保管しておいてください。
売却は終わりではなく、申告とその後の確認までが一連の流れです。そこまで見越して書類を残しておくことが、結果的にご自身を守ることになります。
まとめ|資料があれば、恐れることはない
株式譲渡の後に税務署から問い合わせが届くことは、金額の大きい取引では起こり得ることです。それ自体が不正を疑われているわけではなく、多くは資料の提出と事実関係の確認で完結します。
大切なのは、申告の根拠となった資料を手元に残しておくこと、そして届いたら自己判断で回答せず、申告を担当した税理士に相談することです。誤りが見つかった場合も、早めに対応すれば取り扱いは変わります。
当社では、譲渡の準備段階から、後の申告と確認まで見据えた書類の整理をお手伝いしています。秘密厳守で承りますので、まずはお気軽にご相談ください。