M&Aの最終盤になると、書類の数が一気に増えます。譲渡承認の議事録、株主名簿、辞任届、就任承諾書、登記の委任状、印鑑証明書。はじめての経営者様が戸惑うのは、書類そのものより「これは誰が用意するものなのか」という点です。作成の主体があいまいなまま日が過ぎ、クロージング直前に慌てるケースは実際によくあります。本稿では、必要書類を役割分担の視点で整理します。段階別の一覧は「会社売却に必要な書類一覧」をあわせてご覧ください。なお、法務手続の具体的な内容は弁護士・司法書士にご確認ください。

書類は「誰が作るか」で決まる

M&Aの書類は、大きく四つの出どころに分かれます。

  • 売り手個人(株主)が用意するもの:印鑑証明書、本人確認資料、譲渡承認請求書、株券(発行会社の場合)など
  • 会社として整えるもの:議事録、株主名簿、定款、各種台帳、証明書の取得など
  • 買い手が用意するもの:買い手側の機関決定に関する書類、就任承諾書、資金の手配、届出関係
  • 専門家が作成するもの:契約書(弁護士)、登記申請書類(司法書士)、税務関係の届出(税理士)

このうち、抜け落ちやすいのが二つ目の「会社として整えるもの」です。売り手個人が用意する書類は本人の作業として意識されますが、会社の議事録や名簿は「誰かがやってくれるはず」と思われがちで、直前まで手つかずになることがあります。ここを最初に押さえておくのが実務のコツです。

売り手側が用意する書類

書類用意する人・注意点
印鑑証明書株主本人が市区町村で取得。取得後の有効期間の定めがある手続もあるため、取得時期を司法書士と調整する
本人確認資料株主本人。運転免許証等の写し。マネー・ローンダリング対策として仲介会社・金融機関から求められる
譲渡承認請求書株主本人が会社宛に作成。譲渡制限株式の場合に必要。ひな形は司法書士や仲介会社が用意することが多い
株券株券発行会社の場合、現物の引渡しが必要。所在不明のときは早めに対応方針を決める
辞任届退任する役員本人が作成。日付とクロージング日の整合に注意
個人口座の情報譲渡対価の受取口座。当日に確認できるよう事前に共有
誓約書・確認書類反社会的勢力に該当しない旨の表明など、案件により求められる

株主が複数いる場合、全員分をそろえる必要があります。相続で株式が分散している、疎遠な親族が株主として残っている、といった場合には、連絡と説明に想像以上の時間がかかります。株主構成の整理は、検討の早い段階で着手してください。

会社として整える書類|議事録と株主名簿

会社が主体となって整える書類の中心が、議事録と株主名簿です。

議事録

M&Aに関連して作成が必要になる議事録には、譲渡制限株式の譲渡を承認する取締役会または株主総会の議事録、役員の選任・退任に関する株主総会の議事録、役員退職慰労金を支給する場合の株主総会の議事録などがあります。定款の定めによって、どの機関で決議するかが変わりますので、まず定款を確認することから始めます。

実務でよく問題になるのは、過去の議事録の不備です。デューデリジェンスで「重要な決議の議事録が残っていない」と指摘され、クロージングまでに整備を求められることがあります。過去にさかのぼって作成することの可否と方法は、法的な判断を要しますので、弁護士にご確認ください。日頃の整備の重要性については「議事録・押印書類が残っていない会社」で解説しています。

株主名簿

株主名簿は会社が作成・備置する帳簿です。譲渡の前後で内容が変わりますので、クロージング後に名義を書き換え、買い手から求められれば株主名簿記載事項証明書を交付します。名簿が長年更新されていない、名義株が残っている、といった状態は珍しくありませんが、譲渡の当事者を確定するために必ず整理が必要です。

その他の会社関係書類

  • 定款(現行のもの。変更履歴があれば経緯が分かる資料も)
  • 登記事項証明書(履歴事項全部証明書)
  • 会社の印鑑証明書、印鑑カード
  • 許認可の証書、届出の控え
  • 各種契約書の原本

登記に関する書類|司法書士との連携

株式譲渡そのものは登記事項ではありませんが、役員が交代すれば役員変更の登記が必要です。本店の移転や商号の変更を伴う場合も同様です。登記は司法書士に依頼するのが一般的で、必要書類の案内と申請書類の作成は司法書士が行います。

売り手側で用意することになるのは、辞任届、印鑑証明書、株主総会議事録、株主リストといった書面です。押印の要否や印鑑の種類(実印か会社実印か)は手続によって異なりますので、司法書士の案内に沿って準備してください。

段取りとしては、次の点を早めに確認しておくとスムーズです。

  • 登記を依頼する司法書士は、売り手側・買い手側のどちらが手配するのか
  • 登記費用と司法書士報酬は、どちらが負担するのか
  • クロージング当日に司法書士が同席するのか、書類を預かる形にするのか
  • 印鑑証明書の取得時期(手続によって有効期間の扱いが異なる)
  • 役員の改選時期が近い場合、任期との関係をどう整理するか

買い手側・専門家が用意する書類

売り手が直接作成するものではありませんが、内容を確認しておくべき書類です。

書類作成者
株式譲渡契約書買い手側の弁護士がドラフトを作成し、双方で協議するのが一般的。売り手側も弁護士に確認を依頼する
買い手側の機関決定書類買い手。取締役会議事録など、決議が適法に行われたことを示す書面
就任承諾書新たに就任する役員本人
登記申請書類一式司法書士
税務関係の届出税理士。異動届出書など、成約後に必要となるもの
クロージング書類の一覧(チェックリスト)仲介会社または弁護士。当日に授受する書類を一覧化したもの

このうち、クロージング書類のチェックリストは必ず事前に共有してもらってください。当日に何を持参し、何を受け取るのかが一覧になっていれば、抜け漏れを防げます。

まとめ|役割分担表を一枚作る

M&Aの必要書類は、①売り手個人が用意するもの、②会社として整えるもの、③買い手が用意するもの、④専門家が作成するもの、の四つに分かれます。混乱を防ぐ最も確実な方法は、書類名・担当者・期限・押印の要否を書いた役割分担表を一枚作り、双方で共有することです。表があるだけで、直前の慌ただしさは大きく減ります。

当社プラチナパートナーズでは、最終契約の締結にあわせて必要書類の一覧と役割分担表を作成し、司法書士・税理士との連携を含めて進捗を管理します。「うちは議事録が揃っていないかもしれない」といった段階のご相談も歓迎です。まずは無料相談からお声がけください。

よくあるご質問

A.四つの出どころに分かれます。売り手個人(株主)が用意するもの(印鑑証明書、本人確認資料、譲渡承認請求書、株券、辞任届、受取口座の情報)、会社として整えるもの(議事録、株主名簿、定款、許認可の証書、契約書の原本)、買い手が用意するもの、そして専門家が作成するもの(契約書、登記申請書類、税務の届出)です。抜け落ちやすいのは二つ目で、直前まで手つかずになりがちです。
A.印鑑証明書や本人確認資料は全員分をそろえる必要があります。相続で株式が分散している、疎遠な親族が株主として残っているといった場合には、連絡と説明に想像以上の時間がかかります。譲渡対価の受取口座も各人分を書面で共有してください。株券発行会社で株券の所在が分からないときは、早めに対応方針を決めておく必要があります。
A.書類名・担当者・期限・押印の要否を書いた役割分担表を一枚作り、双方で共有することです。あわせて、クロージング当日に授受する書類の一覧(チェックリスト)を必ず事前に共有してもらってください。登記についても、司法書士をどちらが手配するか、費用の負担、当日同席するか、印鑑証明書の取得時期、役員の改選時期との関係を早めに確認しておくとスムーズです。

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書類の役割分担、最初に整理しておきましょう。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら