半年かけて経緯を説明してきた担当者が、突然代わる。M&Aの途中では実際に起こります。会社を相手に契約していても、実際に動くのは人です。交代が起きたとき、何を確認すればよいのかを整理します。
交代は珍しくない
退職、異動、体調、担当案件数の調整。理由はさまざまですが、数か月から1年以上かかるM&Aの途中で担当者が代わることは珍しくありません。
依頼者にとって困るのは、これまで話してきた背景が、新しい担当者に伝わっていないことです。なぜこの相手を避けたいのか。従業員の誰に先に伝えるつもりなのか。家族の事情はどうなっているのか。
これらは契約書にも企業概要書にも書かれていません。担当者の頭の中にしかない情報です。ここが失われると、進め方が一からになります。
引き継ぎで確認する五つのこと
交代の連絡を受けたら、次を確認してください。
① 前任者から何が引き継がれているか。資料だけでなく、経緯と判断の理由が伝わっているか。② 誰が最終的に責任を持つか。新任者の上長は誰か。③ 前任者と話せるか。退職でなければ、一度三者で話す場を設けてもらう。
④ 進行中の交渉の状況。相手方に何をどこまで伝えてあるか。⑤ 日程への影響。引き継ぎで遅れるのか、遅れないのか。
これらを口頭ではなく書面で受け取ると、その後の行き違いが減ります。
経緯を一枚にまとめておく
交代に備えて、依頼者側でもできることがあります。ご自身で経緯を一枚にまとめておくことです。
いつ相談を始めたか、何を目的としているか、譲れない条件は何か、誰に何を伝えてあるか、避けたい相手はどこか。A4一枚で十分です。
これがあると、交代のたびに一から説明する必要がなくなります。そして、この紙を作る過程でご自身の考えも整理されます。担当者のためではなく、ご自身のために作っておく価値があります。
交代を申し入れてよいか
逆のケース、つまり依頼者から担当者の変更を求めたい場合もあります。
申し入れて構いません。相性の問題、業種への理解不足、連絡の遅さ。理由は何であれ、数千万円の手数料が発生し、会社の行く先が決まる取引です。信頼できない相手と続ける理由はありません。
伝え方としては、担当者本人ではなくその上長、あるいは会社の窓口に連絡します。感情ではなく事実で伝えると話が早く進みます。「連絡が3日返ってこないことが複数回あった」といった形です。
契約上、担当者はどう位置づけられるか
多くの仲介契約は会社との契約であり、担当者個人を指定するものではありません。したがって、会社が担当者を交代させること自体は契約違反ではないのが通常です。
ただし、契約書に担当者の氏名が明記されている場合もあります。この場合、交代に依頼者の同意が要ると読める余地があります。契約書を確認してください。
また、交代によって業務の質が著しく落ちた場合は、契約の解除を検討する余地があります。解除の条件と、その場合の費用の扱いは、契約書に定められているはずです。
担当者が辞めて、別の会社に移ったら
実務でときどき起きるのが、担当者が退職し、別の仲介会社に移るケースです。「引き続き自分が担当します」と個人的に連絡が来ることがあります。
ここは慎重に判断してください。現在の契約は今の会社と結んでいます。勝手に新しい会社に移ると、契約違反やテール条項の問題が生じ得ます。
移りたい場合は、現在の契約を正式に終了させてからです。テール期間中に、その会社から紹介を受けた相手と成約すれば手数料が発生し得ます。テール条項とはをご確認ください。
会社を選ぶときに、見ておくこと
交代のリスクを完全になくすことはできませんが、契約前に見ておけることはあります。
担当者が一人で抱える体制か、複数で見る体制か。案件の情報が社内で共有されているか。上長が案件の内容を把握しているか。
最初の面談に上長が同席する会社、案件の進捗を社内で定期的にレビューしている会社は、交代が起きても引き継ぎが機能しやすい傾向があります。「担当者の力量」だけに依存しない体制かどうかを見てください。
当社の場合
当社は少人数の体制で、案件は担当するアドバイザーが受託からクロージングまで一貫して担当します。途中で引き継ぐことを前提にしていません。
そのうえで、案件の情報は自社システムで管理し、経緯と判断の理由を記録として残しています。やむを得ず交代が必要になった場合でも、記録から辿れる状態にしています。
もしご不安があれば、体制について率直にお尋ねください。何人でこの案件を見るのか、記録はどう残るのか。お答えします。