ドラッグストアは、医薬品を扱う小売業でありながら、化粧品、日用品、そして食品へと品揃えを広げ、業態の境界を自ら書き換えてきました。近年はここに調剤が加わり、地域の医療と生活を同時に担う存在になりつつあります。本稿では、公表資料でドラッグストア業界の現在地を確認し、制度の動き、競争環境、そして事業承継の論点を整理します。
業界の現在地|10兆円を超えた市場
日本チェーンドラッグストア協会「日本のドラッグストア実態調査」によれば、2024年度のドラッグストアの総売上高は10兆307億円で前年比9.0%の増加となり、初めて10兆円を超えました。店舗数は前年度から682店舗増えて2万3,723店舗とされています。
カテゴリー別では、同調査で「調剤・ヘルスケア」3兆3,318億円(同8.7%増)、「ビューティーケア」1兆8,272億円(同11.7%増)、「フーズ・その他」2兆8,329億円(同13.2%増)、「ホームケア」2兆388億円(同2.1%増)とされています。食品カテゴリーの伸びが目立ちます。
同協会の実態調査では、続く2025年度についてドラッグストアの調剤額が1兆6,586億円(前年度比9.1%増)、ドラッグストア売上高に占める比率は15.6%と公表されています。調剤部門の伸長が業態全体の成長を牽引している構図がうかがえます。
販売額の外形的な確認としては、経済産業省「商業動態統計」で、2025年はドラッグストアがスーパー、家電大型専門店、コンビニエンスストアとともに前年より販売額が増加した業態とされています。また、小売業全体で増加に最も寄与した業種は医薬品・化粧品小売業とされています。
制度の動き|2026年度の報酬改定と薬価改定
調剤を併設する店舗にとって、制度の動きは経営に直結します。
令和8年度(2026年度)薬価改定
厚生労働省は2026年3月5日に令和8年度薬価基準改定を告示し、2026年4月1日から新薬価が適用されました。改定率は医療費ベースで▲0.86%、薬剤費ベースで▲4.02%とされています。薬価が下がれば、同じ処方でも調剤部門の売上は減少します。
2026年度診療報酬・調剤報酬改定
2026年度の診療報酬改定では、本体について+3.09%の改定率が示され、調剤報酬は2026年6月1日の施行とされています。改定の方向性としては、立地に依存した評価の適正化と、対人業務の評価の拡充が柱とされています。
この方向性は、ドラッグストアの調剤併設にとって両面を持ちます。門前・敷地内といった立地に依存した収益は見直しの対象になりやすい一方、かかりつけ機能や在宅対応など対人業務の評価は拡充されるため、体制を整えている店舗には追い風になり得ます。
報酬改定の具体的な算定要件・点数・経過措置は告示および通知で定められます。個別の適用については厚生労働省の公表資料および専門家にご確認ください。
人員に関する要件
医薬品の販売には、薬剤師または登録販売者の配置が求められます。調剤を行う店舗では薬剤師の確保が事業継続の前提であり、この人員の見通しは、承継の局面で最初に確認される事項のひとつになります。
競争環境|食品と価格、そして出店余地
ドラッグストアの成長は、医薬品・化粧品の粗利で食品を安く売るという、カテゴリーをまたいだ収益構造に支えられてきました。これは食品スーパーやコンビニエンスストアと直接競合することを意味します。
総務省「消費者物価指数」によれば、2025年平均の食料の指数は前年比6.8%の上昇(うち穀類21.9%の上昇)、総合指数は3.2%の上昇でした。食品の価格が上がる局面では、「食品が安い店」という認知は集客上の強みになりますが、同時に粗利の確保は難しくなります。
出店余地についても、2万3,723店舗(日本チェーンドラッグストア協会、2024年度)という規模まで拡大したことで、優良な立地は限られてきています。既存店の改装、調剤併設への転換、あるいは既存店の取得——成長の手段が、新規出店から既存資産の獲得へと移りつつあるのが現状です。
人件費については、厚生労働省の公表によれば令和7年度の地域別最低賃金は全国加重平均で1,121円(前年度から66円の引上げ)、令和8年度も目安どおりであれば1,176円になるとされています。深夜営業や長時間営業を行う店舗ほど、この影響は大きくなります。
事業承継の観点|中小・地域チェーンの論点
帝国データバンクの2025年調査では、国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。ドラッグストア業界では、数店舗から十数店舗を展開する地域チェーンや、調剤薬局から発展した事業者が多く存在し、これらの事業者にとって承継は現実的な課題です。
承継を検討する際に整理しておきたい点は次のとおりです。
- 店舗別の売上構成(調剤・OTC・化粧品・日用品・食品の別)と粗利率
- 調剤併設店の処方箋応需枚数と、応需元となる医療機関との関係
- 薬剤師・登録販売者の在籍状況と年齢構成、採用の実績
- 薬局開設許可・医薬品販売業許可の名義と有効期限、管理者の配置
- 店舗の賃貸借契約(残存期間、更新条件、賃料水準)
- 調剤報酬に関する各種届出(地域支援体制加算等)の取得状況
とくに、応需元の医療機関との関係は慎重な確認を要します。特定の医療機関からの処方箋に大きく依存している店舗では、その医療機関の継続性が事業の継続性に直結します。医師の高齢化が進んでいる場合、その事実は買い手にとって重要な情報になります。
M&Aで引き継ぐときに整理しておきたいこと
薬局・ドラッグストアのM&Aで、スキームの選択は許認可の取り扱いを大きく左右します。株式譲渡では法人が存続するため薬局開設許可等は一般に維持されると考えられていますが、管理薬剤師や役員の変更に伴う届出が必要になる場合があります。事業譲渡では、譲受側があらためて許可を取得することが前提になるのが通常であり、保健所の手続きと厚生局への届出のスケジュールを織り込む必要があります。
そのほか、一般に確認される事項は次のとおりです。
- 医薬品の在庫(期限管理、不動在庫、麻薬・向精神薬の取扱いがある場合の管理状況)
- レセプトの返戻・査定の状況と、直近の指導・監査の有無
- 薬剤師の雇用契約と、譲渡後の在籍見込み
- 調剤機器・分包機・電子薬歴システムの状態と保守契約
- 在宅対応の実績と体制
調剤薬局側の視点は「調剤薬局のM&A動向|業界再編の背景と売却のポイント」で、医薬品流通側の視点は「医薬品卸業界の動向|薬価改定と流通改善」でそれぞれ解説しています。
まとめ|調剤の体制が、そのまま価値になる
ドラッグストアは売上高10兆円を超える業態に成長し(日本チェーンドラッグストア協会、2024年度で10兆307億円)、調剤部門の伸長がその成長を支えています(同協会、2025年度の調剤額1兆6,586億円・前年度比9.1%増)。一方で、2026年度は薬価改定(医療費ベース▲0.86%)と調剤報酬改定(2026年6月1日施行)が重なり、収益構造の見直しが求められる年でもあります。
この環境で価値を左右するのは、立地よりも体制です。薬剤師が在籍し、対人業務の実績があり、許可と届出が整っている店舗は、制度がどちらに動いても対応できます。
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本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。制度・統計の解釈や個別の適用については、必ず所管官庁および専門家にご確認ください。