整骨院・接骨院は、柔道整復師という国家資格に基づく施術所であり、保険が適用される療養費と、適用されない自費施術の両方を扱う事業です。制度の枠組みと市場の状況の両方を見なければ、業界の動向は読めません。本稿では、厚生労働省が公表している施術所数と有資格者数の統計を確認したうえで、制度面の動きと事業承継の論点を整理します。
施術所数と柔道整復師数|増えているのは人のほう
厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)」によると、令和6年末現在の柔道整復の施術所は50,924か所で、前回(令和4年)に比べ8か所(0.0%)の増加でした。実質的に横ばいです。
一方、就業柔道整復師は78,666人で、前回に比べ1,034人(1.3%)増加しています。同統計の年次推移をみると、柔道整復師は平成26年の63,873人から一貫して増加を続けており、10年間で約1万5千人増えた計算になります。
施術所の数が頭打ちになる一方で、有資格者は増え続けている——この二つを重ねると、業界の構造がみえてきます。開業する場所は飽和に近づき、勤務柔道整復師として働く層が厚くなっている、という状況です。
承継の観点でいえば、これは決して悪い材料ではありません。勤務柔道整復師として経験を積んだ方が、ゼロから開業するのではなく既存の施術所を引き継ぐという選択をする余地が広がっているということだからです。患者がついていて、立地と設備がすでにある施術所は、新規開業よりリスクが小さい選択肢になりえます。
はり・きゅう施術所との対比でみえること
同じ統計で、他の施術所の動きも確認しておきます。「はり及びきゅうを行う施術所」は35,494か所で、前回に比べ1,604か所(4.7%)の増加。「あん摩、マッサージ及び指圧、はり並びにきゅうを行う施術所」は38,595か所で221か所(0.6%)の増加。これに対して「あん摩、マッサージ及び指圧を行う施術所」は17,531か所で486か所(2.7%)の減少でした。
有資格者では、就業はり師が136,736人で前回比5,250人(4.0%)の増加となっています。
柔道整復の施術所が横ばいであるのに対し、はり・きゅうの施術所が4.7%増加しているという対比は示唆的です。療養費の対象となる範囲が限定的なはり・きゅうの分野で施術所が増えているということは、保険外の需要に応える形の施術所が増えていると考えるのが自然です。
整骨院・接骨院についても、同様の変化が内部で進んでいると考えられます。すなわち、療養費に依存する収益構造から、自費施術を組み合わせた構造への移行です。ただし、この点について業界全体の構成比を示す公的な統計は限られるため、断定は避けます。
施術管理者の要件と、療養費をめぐる制度の動き
整骨院・接骨院の経営に直結する制度が、療養費の受領委任の仕組みです。厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会 柔道整復療養費検討専門委員会の議事録によれば、平成30年4月から、受領委任の取扱いを行う柔道整復師(施術管理者)には、実務経験3年と2日間16時間の研修が要件とされています。
この要件については、見直しの議論が進んでいます。第32回同専門委員会(2026年1月30日)では、実務経験要件を3年から2年へ短縮することについて議論する旨の提案がなされ、第33回(2026年2月27日)でも、養成施設のカリキュラムの充実を踏まえつつ、短縮する場合には内容をしっかりとしていく必要があるという趣旨の意見が出されています。
施術管理者の要件は、承継のスケジュールに直接影響します。開業者ご本人が施術管理者である施術所を引き継ぐ場合、後任の柔道整復師が施術管理者の要件を満たしているかどうかが前提条件になるからです。要件を満たしていなければ、受領委任の取扱いができず、療養費に基づく収入が立たなくなります。
また、同専門委員会では、日本柔道整復師会の会員調査として、令和5年度の医療保険での収入が500万円未満の会員が全体の53.7%であったという報告も紹介されています。個々の施術所の経営状況は幅が大きく、療養費だけで事業を成り立たせることが容易でない実態がうかがえます。
療養費の算定・受領委任の取扱い、施術管理者の要件は、厚生労働省の通知および保険者の運用によります。個別の取扱いについては必ず所管の窓口および専門家にご確認ください。
経営環境の変化|自費メニューと人材
整骨院・接骨院の経営環境で最も大きな変化は、収益源の多様化です。療養費の対象は、外傷性が明らかな骨折・脱臼・打撲・捻挫などに限られます。この範囲の需要だけで施術所を維持することが難しくなるなかで、慢性的な症状に対する自費施術、姿勢改善、スポーツコンディショニング、あるいは訪問での機能訓練といったメニューを組み合わせる施術所が増えています。
こうしたメニューの追加は、施術者に求められる技術と、集客の方法の両方を変えます。地域の口コミに依存していた集客から、ウェブでの情報発信や予約管理へと手法が移り、その運用ができるかどうかが差になります。
人材の面では、前述のとおり柔道整復師の有資格者は増えています。ただし、増えているのは有資格者数であって、経営を任せられる人材が潤沢にあるという意味ではありません。施術の技術に加えて、スタッフの管理、レセプトの実務、患者とのコミュニケーションまで担える人材は、どの施術所でも希少です。
分院展開をしている法人にとっては、施術管理者を任せられる人材の確保が拡大の制約になります。逆に言えば、そうした人材が在籍している施術所は、引き継ぐ側にとって魅力的な対象になります。
事業承継の観点で何が論点になるか
帝国データバンクの2025年の調査では、国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。整骨院・接骨院は個人事業として営まれていることも多く、承継の準備という観点では、まず事業の形態そのものを整理することから始まります。
承継を検討される際に確認しておきたいのは、次のような点です。
- 施術所の開設届の内容と、施術管理者が誰か
- 受領委任の取扱いに関する登録状況
- 療養費収入と自費収入の構成比、その推移
- 患者数(延べ・実人数)とリピート率の推移
- 柔道整復師・スタッフの人数、施術管理者の要件充足状況
- 建物の所有形態と賃貸借契約、機器の導入時期
- 予約システム・カルテの形式と、引き継ぎの可否
承継先を親族・従業員・第三者のいずれに求めるかという選択肢の比較は後継者不在の解決策としてのM&Aの記事で整理しています。個人事業として営まれている場合、承継は事業譲渡の形になり、譲受側があらためて施術所の開設届を提出し、受領委任の取扱いについても手続を行うのが通常です。法人化されている場合は株式譲渡という選択肢が加わり、契約や届出の巻き直しが少なくなる場合があります。詳しくは整骨院・接骨院のM&A・事業承継の記事をご覧ください。
まとめ|患者が通っているうちに
整骨院・接骨院業界の現在地を統計で確認すると、柔道整復の施術所は50,924か所で横ばい、就業柔道整復師は78,666人へと増加しています。制度面では、施術管理者の実務経験要件の見直しが専門委員会で議論されている段階です。
施術所の数が飽和し、有資格者が増えているという構造は、既存の施術所を引き継ぎたい層が存在することを意味します。患者が通い、スタッフが在籍しているうちであれば、その価値は明確に伝わります。反対に、来院数が細り、スタッフが抜けてからでは、引き継ぐ相手にとっての魅力は大きく損なわれます。
当社プラチナパートナーズは、成功報酬型のもと、整骨院・接骨院を含む中小規模の事業承継・譲渡をご支援しています。事業形態や届出の確認といった初期の整理から、守秘義務を徹底のうえ対応いたします。
本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。