不動産業は、統計だけを見れば「増えている業界」です。宅地建物取引業者数は11年連続で増加し、宅地建物取引士の登録者数も年々積み上がっています。ところが同じ統計を分解すると、法人が増え、個人業者は減り続けているという、別の姿が現れます。本稿では、公表資料から不動産業界の現在地を確認し、事業承継の観点で何が論点になるのかを整理します。
不動産業界の現在地|業者数は11年連続で増加
国土交通省「令和6年度宅地建物取引業法の施行状況調査結果」によれば、令和6年度末(令和7年3月末)現在の宅地建物取引業者数は132,291業者で、内訳は大臣免許3,158業者、知事免許129,133業者です。前年度比では大臣免許が111業者(3.6%)、知事免許が1,597業者(1.3%)の増加、全体では1,708業者(1.3%)の増加となり、11年連続の増加でした。
過去20年で見ると、宅建業者数は平成17年度末の131,251業者から減少を続け、平成25年度末の122,127業者を底に反転し、令和6年度末に132,291業者まで戻っています。数のうえでは、20年前の水準を上回ったところです。
見落とされやすい変化|法人が増え、個人業者は減っている
同じ調査を法人・個人の別で分解すると、まったく違う動きが見えます。
| 年度末 | 法人 | 個人 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 平成27年度 | 105,629 | 17,620 | 123,249 |
| 令和元年度 | 110,437 | 15,201 | 125,638 |
| 令和3年度 | 114,538 | 14,059 | 128,597 |
| 令和6年度 | 119,902 | 12,389 | 132,291 |
出典:国土交通省「令和6年度宅地建物取引業法の施行状況調査結果」より作成
法人はこの9年で約1万4千業者増えている一方、個人業者は17,620業者から12,389業者へと約5千業者減っています。全体の増加は、法人の増加が個人の減少を上回った結果です。
個人業者の減少は、開業者が法人形態を選ぶようになったという面もありますが、長く地域で営んでこられた個人事業の廃業が積み上がっている面もあると考えられます。宅地建物取引業は、免許が個人と法人で別に付与されるため、個人事業のまま高齢化した場合、承継の選択肢が限られやすい業種でもあります。
監督の状況と、担い手としての宅建士
同調査によれば、令和6年度の監督処分は合計147件(免許取消99件、業務停止16件、指示32件)で前年度比12.0%減、一方で文書による行政指導は592件で11.5%増でした。処分は減り、指導は増えているという構図です。
担い手の面では、令和6年度に新たに30,336人が宅地建物取引士の登録を行い、年度末の総登録者数は1,211,760人となりました。新規登録者数は平成27年度の24,485人から一貫して増加傾向にあります。資格を持つ人は着実に増えているということです。
ただし、登録者が増えていることと、事業を承継できる人材がいることは別です。宅地建物取引業では事務所ごとに専任の宅地建物取引士を置く必要があり、免許の維持はその配置に依存します。小規模な会社ほど、経営者様ご自身が唯一の専任取引士であるという状態が起きやすく、これが承継の実務上の制約になります。
土台の変化|住宅ストックと世帯数の見通し
取引の対象となるストックの姿も確認しておきます。総務省「住宅・土地統計調査」(2023年)によれば、2023年10月1日現在の総住宅数は6,504万7千戸、総世帯数は5,621万5千世帯で、1世帯当たり住宅数は1.16戸です。空き家は900万2千戸で過去最多、空き家率は13.8%で過去最高となりました。
また、国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)令和6(2024)年推計」によれば、世帯総数は2030年の5,773万世帯をピークに減少に転じ、2050年には5,261万世帯になると推計されています。単独世帯の割合は2020年の38.0%から2050年には44.3%へ上昇し、世帯主が65歳以上の世帯は2045年の2,431万世帯でピークを迎えるとされています。
取引の総量が今後大きく伸びることを前提にしにくい一方で、相続に伴う売買、単身世帯向けの住み替え、空き家の流通といった領域には仕事が残る、という読み方ができます。
事業承継の観点で何が論点になるか
不動産会社の承継では、次の三つが論点になりやすい領域です。
第一に、免許と専任の宅地建物取引士です。株式譲渡であれば法人が存続するため免許は一般に維持されますが、役員や専任取引士に変更があれば所定の届出が必要になります。また、宅地建物取引業法には免許の欠格に関する定めがあるため、新たに役員となる方についても事前の確認が前提になります。事業譲渡の場合は、譲受側が自ら免許を有していることが通常の前提です。
第二に、会社が保有する不動産の扱いです。仲介業のかたわらで賃貸物件を保有している会社は多く、その場合、事業としての価値と資産としての価値を切り分けて考える必要があります。この点は「不動産保有会社のM&A|資産と株式の切り分け方」でも整理しています。
第三に、後継者の不在です。帝国データバンクの2025年調査では国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。地域に密着した不動産会社は、地元の情報網とオーナーとの信頼関係が最大の資産であり、その関係が失われる前に承継の道筋を立てられるかどうかが分かれ目になります。
M&Aで引き継ぐときに整理しておきたいこと
一般に、次のような整理が求められます。
- 免許の種別(大臣/知事)、免許番号の更新回数、有効期限、事務所ごとの専任取引士の配置
- 売上の内訳(売買仲介/賃貸仲介/管理/自社物件の賃料/売買)と、それぞれの継続性
- 管理受託物件の一覧(戸数、管理料率、契約期間、オーナー数と集中度)
- 自社保有不動産の一覧(取得時期、簿価、担保設定、賃貸借契約の内容)
- 取引に関する係争・苦情の履歴、重要事項説明に関する社内手続の整備状況
- 広告表示・おとり広告に関する社内チェック体制
不動産業は、免許の維持要件と保有資産の扱いという二つの論点が同時に出てくるため、初期の整理に時間をかけたほうが結果的に早く進みます。ご相談の準備段階で何を用意すればよいかは、M&Aの流れのページも参考になさってください。
当社は成功報酬型のもと、不動産業を含む中小企業の事業承継・会社売却をご支援しています。守秘義務を徹底のうえ、初期の整理から対応いたします。
本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。