不動産仲介業(宅地建物取引業)を営む会社の売却・承継は、他業種のM&Aと共通する部分が多い一方で、この業界ならではの論点があります。免許業種であること、有資格者の配置が求められること、そして事業の中身が「人と情報と関係性」に強く依存すること——この三つが、進め方や条件交渉のかたちを左右します。本稿では、不動産仲介業の経営者様が会社の譲渡を検討する際に、あらかじめ理解しておきたい論点を整理してご説明します。なお、免許や資格者配置に関する具体的な要件・手続きは法令や行政の運用によりますので、実際の判断にあたっては必ず所管の行政庁や専門家にご確認ください。

不動産仲介業でM&Aが選ばれる背景

不動産仲介業は、比較的少人数でも成り立つ業態であるがゆえに、経営者個人の力量と人脈に事業が支えられているケースが少なくありません。地域の地主や管理会社、金融機関、同業者とのつながりを社長個人が握っている——そうした会社ほど、後継者への引き継ぎは難しくなります。

加えて、経営者の高齢化は業界を問わない共通の課題です。帝国データバンクの2025年調査によれば、全国の後継者不在率は50.1%と、およそ2社に1社で後継者が決まっていません。ご子息・ご息女が別の道を選び、社内にも株式を引き受けられる人材がいない場合、選択肢は第三者への承継か廃業かに絞られていきます。

廃業を選べば、免許も、長年築いた顧客基盤も、従業員の職も失われます。これに対して第三者への譲渡であれば、会社と事業を存続させたまま、経営者は経営から退くことができます。レコフデータの集計では、2025年の日本のM&A件数は5,000件を超え、2年連続で過去最多を更新しました。第三者承継は、いまや現実的な選択肢のひとつとして定着しつつあります。第三者承継の全体像は「第三者承継とは」でも解説しています。

宅建業免許の引き継ぎ|株式譲渡と事業譲渡で扱いが異なる

不動産仲介業のM&Aで最初に押さえるべきは、宅地建物取引業の免許が「法人(または個人)に対して」付与されるものだという点です。免許は事業そのものに紐づいて自由に移転できる財産ではなく、免許を受けた主体に帰属します。この性質から、採用するスキームによって扱いが変わります。

スキーム免許の扱い(一般的な整理)
株式譲渡株主が入れ替わるだけで法人格は変わらないため、免許を保有する法人がそのまま存続し、事業を継続できると整理されるのが一般的。ただし役員等の変更に伴う届出が必要になる場合がある
事業譲渡事業を受け入れる側の法人が、自ら免許を備えている必要がある。買い手が未取得であれば、取得を待つ必要が生じ得る
会社分割事業を承継する法人側の免許の要否が論点になる。個別に確認が必要

この違いは、スキーム選択に実務的な影響を与えます。すでに宅建業免許を持つ同業の買い手であれば事業譲渡も選択肢になりますが、異業種から参入する買い手や、免許を含めた組織ごと取得したい買い手にとっては、株式譲渡のほうが移行がスムーズだと考えられる場面が多いでしょう。

また、免許には有効期間があり、更新の手続きが必要です。交渉の終盤に更新時期が重なると、スケジュールに影響が及ぶことがあります。着手の段階で、免許の種別(都道府県知事免許か国土交通大臣免許か)、有効期間、事務所の状況を整理しておくと、後の議論がスムーズになります。

免許の承継可否、必要となる届出の種類・期限、免許換えの要否などは、事案の事情や所管行政庁の運用によって異なります。本稿は一般的な考え方の整理であり、個別の判断については必ず所管の行政庁および弁護士・行政書士等の専門家にご確認ください。許認可全般の考え方は「許認可の承継」もあわせてご覧ください。

有資格者の確保|専任の宅地建物取引士という論点

宅地建物取引業では、事務所ごとに一定割合以上の専任の宅地建物取引士を置くことが求められます。この配置が満たされない状態を放置することはできないため、M&Aの前後で有資格者がどうなるかは、買い手にとって極めて重要な確認事項になります。

買い手が気にすること

  • 現在、誰が専任の宅地建物取引士として届け出られているか
  • その方はM&A後も在籍する見込みがあるか(年齢・意向・処遇)
  • 社長本人が専任の取引士を兼ねている場合、退任後の体制をどう組むか
  • 資格者が一人しかいない場合、その方が抜けたときの代替はあるか

特に注意が必要なのが、経営者ご自身が専任の宅地建物取引士を務めているケースです。譲渡後に経営者が退任すると、そのままでは配置が欠けてしまいます。この場合、買い手側から資格者を派遣する、社内の従業員に資格取得を促す、あるいは経営者に一定期間残っていただく——といった対応が必要になり、それ自体が条件交渉のテーマになります。

逆に言えば、有資格者を含む人材がまとまって在籍していること自体が、買い手にとっての取得価値になります。採用が容易でない資格者を、組織ごと確保できるからです。従業員の雇用継続を条件に据えやすい業種でもあるといえるでしょう。

顧客基盤・物件情報・取引先関係をどう引き継ぐか

不動産仲介業の価値は、有形資産よりも「関係性」と「情報」に宿ります。ここをどう引き継ぐかが、M&A後の成否を分けます。

顧客基盤と反復取引

地主・オーナー・投資家といった継続的な取引先を抱えている場合、その関係が譲渡後も維持されるかが焦点になります。関係が社長個人に紐づいているほど、引継ぎ期間を長めに設ける必要が生じます。逆に、担当者ごとに顧客が付き、社内に情報が共有されている会社は、引き継ぎのリスクが低いと評価されやすくなります。

物件情報・元付け関係

売却物件や賃貸物件の情報がどこから入ってくるのか、その供給ルートは会社に属しているのか個人に属しているのか。管理会社や同業者との関係も含め、情報の流れを可視化しておくことが求められます。管理部門を併営している場合の論点は「不動産管理会社のM&A」もご参考ください。

個人情報と契約書類の管理

顧客情報を大量に扱う業種であるため、個人情報の管理体制はデューデリジェンス(買収監査)で必ず確認されます。重要事項説明書や媒介契約書の保管状況、過去の取引に関する紛争やクレームの有無も、同様に精査の対象になります。日頃の書類管理が整っている会社ほど、調査がスムーズに進みます。

企業価値の評価で見られるポイントと事前準備

不動産仲介業の企業価値は、業種を問わない一般的な考え方——純資産に、数年分の利益を上乗せして評価する方法や、将来のキャッシュフローに着目する方法など——をベースに検討されます。そのうえで、この業種では次のような点が個別に見られる傾向があります。

  • 売買仲介と賃貸仲介・管理の構成比(収益の安定性)
  • 特定の大口顧客や一つの案件への依存度
  • 年度ごとの業績の振れ幅と、その要因
  • 自社保有不動産の有無と、その簿価と実勢の差
  • 従業員数・有資格者数と、営業体制の再現性

事前準備としては、直近3期分の決算書と申告書、免許関係の書類、従業員名簿と資格保有状況、主要な顧客・取引先の一覧、社長個人と会社の間の資金のやり取りの整理などを進めておくと、検討がスムーズです。特に、経営者個人が保有する不動産を会社が使っている場合や、会社が個人に貸付・借入を行っている場合は、譲渡にあたって整理が必要になることが多い項目です。譲渡価格の考え方全般は「会社売却の相場」で解説しています。

税務・法務の取扱いは個別の事情によって結論が変わります。実際のご判断にあたっては、顧問税理士・弁護士など専門家への確認を必ず行ってください。

進め方と相談先|秘密保持を最優先に

不動産仲介業は、地域内で同業者や関係者のつながりが濃い業界です。「あの会社が売りに出ているらしい」という話は、想像以上に早く広がります。従業員の動揺や、顧客・元付け先の離反を招かないためにも、検討段階の情報管理は他業種以上に慎重であるべきです。

実務では、秘密保持契約を締結したうえで、買い手候補への打診は社名を伏せた匿名資料(ノンネームシート)から始めます。地域や業容の書き方によっては会社が特定されてしまうため、記載の粒度そのものを売り手と相談しながら決めていくことになります。秘密保持の実務は「M&Aにおける秘密保持」で詳しく解説しています。

相談先としては、金融機関、公的な支援機関、顧問税理士、そしてM&A仲介会社などがあります。第三者への譲渡を具体的に進める段階では、候補先の探索力と交渉実務を備えた相談先が必要です。「中小M&Aガイドライン(第3版・令和6年8月)」の遵守を宣言しているか、手数料体系が契約前に書面で示されるか、情報管理の体制が整っているかを確認するとよいでしょう。誰に相談すべきかの整理は「M&Aは誰に相談すべきか」もご参考ください。

株式会社プラチナパートナーズは、東京・日比谷(有楽町)を拠点に全国対応するM&A仲介・事業承継アドバイザリーファームです。手数料は、相談料・着手金・月額報酬0円の成功報酬型。中間金は基本合意時に成功報酬額の10%を申し受け、成約時に成功報酬から全額を差し引きます(基本合意後に不成立となった場合、中間金の返金はいたしません)。成功報酬は移動総資産レーマン方式(基準額=株式価値+負債総額、最低2,000万円・税別)で算定し、ご契約前に総額の目安を必ず書面でご提示します。免許や資格者配置の論点も含め、まずは現状の整理からご一緒します。

よくあるご質問

A.宅地建物取引業の免許は法人(または個人)に対して与えられるものです。株式譲渡は会社の株主が入れ替わるだけで法人格そのものは変わらないため、一般に免許を取得している法人がそのまま存続し、事業を継続できると整理されます。一方、事業譲渡や会社分割で事業だけを別法人に移す場合、その受け皿となる法人は自ら免許を備えている必要があります。ただし役員変更等に伴う届出や、免許換えの要否など、実際の手続きは個別事情によって異なりますので、必ず所管の行政庁や専門家にご確認ください。
A.宅地建物取引業では事務所ごとに一定割合以上の専任の宅地建物取引士を置くことが求められており、この配置が欠けた状態を放置することはできません。M&A後に有資格者が退職すると、買い手は補充や届出の対応を迫られます。そのため買い手は、資格者が誰で、譲渡後も残る見込みがあるかを重視します。売り手としては、キーパーソンの処遇や引継ぎ期間を条件交渉の中で丁寧に詰めておくことが大切です。具体的な配置要件や届出の期限は法令・行政の運用によりますので、所管の行政庁や専門家にご確認ください。
A.一般に、不動産仲介業のM&Aでは、免許を備えた組織、地域に根ざした顧客基盤、蓄積された物件情報や取引先との関係、そして有資格者を含む人材そのものが取得の目的になります。規模が大きくなくても、特定エリアや特定分野に強みがある会社は関心を持たれることがあります。もっとも、買い手が現れるかどうかは収益力や組織の状態によって異なりますので、まずは自社の強みを整理し、秘密保持を徹底できる相談先とともに候補先の探索を進めることをおすすめします。

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不動産仲介業の承継、免許と人の論点から整理します。

相談料・着手金・月額報酬は0円です。基本合意時の中間金と成功報酬については料金体系をご覧ください。秘密保持を徹底し、検討段階のご相談から承ります。
メール(info@platinumpartners.jp)でも承ります。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら