段ボール、紙器、軟包装、緩衝材——包装資材は、あらゆる商品の流通を支えながら、それ自体は表に出にくい産業です。この分野は、紙全体の需要が縮むなかで、包装用途だけが別の動きをしているという特徴があります。本稿では、公表資料をもとにその構造を整理します。
紙・紙加工品製造業の現在地
総務省・経済産業省「2024年経済構造実態調査(製造業事業所調査)」によると、パルプ・紙・紙加工品製造業の事業所数は6033事業所で、製造業全体の2.7%を占めます(2024年6月1日現在)。従業者数は18万3325人、製造品出荷額等は8兆1581億円(2023年)、付加価値額は2兆2007億円でした。
この分野の数字で目を引くのは、事業所数の前年比が0.0%と横ばいだった点です。製造業全体が0.5%減となるなかで、事業所数を維持している数少ない分野のひとつです。また、付加価値額は前年比12.1%増と、産業中分類のなかでも高い伸びを示しました。
ただし、この「紙」という括りには、印刷用紙をつくる工程から、段ボールケースに加工する工程まで、まったく性格の異なる事業が含まれています。需要の方向も分野によって正反対です。
紙の需要は二極化している|グラフィック用紙とパッケージング用紙
紙の需要を用途別に見ると、はっきりと二極化しています。
日本製紙連合会が2026年1月20日に公表した「2026年 紙・板紙内需見通し報告」によれば、2025年の紙・板紙の内需実績見込みは2053万8000トンで前年比2.6%減でした。内訳は、紙が963万4000トン(前年比4.3%減)、板紙が1090万4000トン(同1.0%減)です。
用途別では、グラフィック用紙(新聞用紙+印刷・情報用紙)が635万4000トンで前年比6.3%減と大きく落ち込む一方、パッケージング用紙は1208万4000トンで前年比1.0%減と、減少幅がはるかに小さくなっています。
同資料は2026年の需要見通しについて、パッケージング用紙のプラス要因として「冷凍食品等、加工食品向け需要の伸び」「ネット通販等ECの拡大」「脱プラ・減プラによる紙化の動き」「トレーディングカード向けの増加」を挙げ、マイナス要因として「省包装・簡易包装化」「軟包装化等、包装資材の他素材へのシフト」「軽量化、グレードダウン」を挙げています。
つまり、包装用途には需要を押し上げる力と押し下げる力が同時に働いており、全体として横ばい圏で推移しているということです。
段ボールの需要と、その先にある物流
段ボールについて見ると、日本製紙連合会の前掲資料では、2025年の段ボール原紙の内需実績見込みは859万8000トンで前年比1.0%減、うちライナーが521万9000トン(同0.7%減)、中芯原紙が337万9000トン(同1.4%減)でした。2019年比では6.9%減となっています。
段ボールの需要は、加工食品や飲料の出荷量、通販・宅配の取扱量に直結します。EC市場が拡大する一方で、省包装化や軽量化が進むため、数量の伸びが金額や面積にそのまま結びつかないという難しさがあります。
脱プラの動きは追い風にも逆風にもなる
「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」(プラスチック資源循環促進法)は2022年4月1日に施行されました(環境省・経済産業省)。ワンウェイプラスチックの使用の合理化などを求める枠組みで、これを受けた紙化の動きは包装資材業界にとって追い風です。一方、同じ流れのなかで「そもそも包装を減らす」という動きも進んでおり、単純な置き換え需要とはなりません。
経営環境|原紙価格と電力費、そして転嫁
包装資材の加工業は、原紙の仕入価格と電力費が収益を左右します。原紙価格の改定があると、それを製品価格に反映できるかどうかで利益が大きく変わります。
中小企業庁「価格交渉促進月間(2025年9月)フォローアップ調査結果」(2025年11月28日公表)によれば、コスト全般の価格転嫁率は53.5%(原材料費55.0%、労務費50.0%、エネルギーコスト48.9%)でした。同調査の業種別集計では、紙・紙加工は中位に位置しています。
2026年1月1日から施行された「中小受託取引適正化法」(旧下請法)では、協議に応じない一方的な代金決定が禁止され、製造委託に伴う運送委託も対象に加えられました(公正取引委員会・中小企業庁)。段ボールのように「つくって運ぶ」ことが一体になっている商材では、運送に関する取引ルールの整理も実務に関わってきます。
また、この業界はかさばる製品を扱うため、物流費と保管スペースがそのままコストになります。配送を自社で担うか委託するか、倉庫を持つか借りるかという判断が、収益構造を大きく左右します。
事業承継の観点|加工の会社か、商流の会社か
帝国データバンクの2025年調査によれば、国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。包装資材の会社を承継するとき、まず整理したいのは「自社は加工の会社なのか、商流の会社なのか」という点です。
製函機や印刷機を持ち、自社で加工している会社であれば、設備の状態と稼働率、そして加工品目の幅が評価の対象になります。一方、仕入れて納める役割が中心の会社であれば、顧客との関係と、在庫・配送を含めた供給体制が価値の源泉です。
多くの会社は両方の性格を持っていますが、比重がどちらにあるかによって、関心を持つ相手も、整理すべき論点も変わります。
包装資材の商流を担う会社のM&Aについては「物流・包装資材業のM&A」でも取り上げています。
M&Aで引き継ぐときに整理しておきたいこと
買い手が確認する主な項目です。
| 領域 | 整理しておきたいこと |
|---|---|
| 取引先 | 取引先別の売上構成と依存度、業種の分散状況、直近の価格改定の実績。 |
| 設備 | 製函機・印刷機・打抜機の設置年と稼働率、更新の要否。 |
| 木型・版 | 木型・刷版の所有者(顧客/自社)、保管場所と数量、返還義務の有無。 |
| 在庫・物流 | 製品在庫の水準と保管場所、自社配送か委託か、配送コストの推移。 |
| 仕入 | 原紙の仕入先と条件、価格改定の連動状況。 |
| 不動産 | 工場・倉庫の所有/賃借、賃貸借契約の残期間。 |
木型・刷版の所有関係は、樹脂成形業における金型と同様に、後になって論点化しやすい部分です。数量と所有者を一覧にしておくだけで、交渉の見通しは大きく変わります。
当社プラチナパートナーズは、包装資材関連企業の事業承継をご支援しています。相談料・着手金・月額報酬は0円です。まずは現状の整理からお手伝いいたします。
本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。統計は調査時点・集計範囲により数値の定義が異なるため、個別の判断にあたっては原典および専門家へのご確認をお願いいたします。